働き方改革における残業規制のポイントは 今さら聞けない基本のまとめ


2019年4月から順次施行されている「働き方改革関連法」のなかでも、改革の目玉となっていた「時間外労働の上限規制」は、人事労務担当者ならば必ず知っておくべき法律です。どのような法律なのか、基本的な内容や、この法律を社内で遵守するための押さえるべきポイントなどについて社会保険労務士の歌代将也さんに解説していただきました。

 
 

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時間外労働に2つの上限規制を設ける


働き方改革関連法における時間外労働の上限規制のポイントは次の2つです。

 
 

◆時間外労働の上限は、原則として「月45時間、年360時間」


労働基準法では、労働時間は「1日8時間以内、かつ週40時間以内」と定められています。従業員をこれ以上働かせる場合、企業は「36(サブロク)協定」と言われる労働基準法第36条に基づく労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署への届出が必要になります。
 
これまで、36協定によって延長できる時間(残業時間)は、行政指導によって「月45時間、年360時間」が上限と定められているのみで、罰則もありませんでした。そこで、労働基準法に原則として残業時間の上限が「月45時間、年360時間」であることが定められ、違反した企業には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰則が科されるようになりました。

 
 

◆特別条項の場合は、残業の上限「年720時間、月100時間、複数月平均80時間」


職業や業種によって繁忙期や緊急な対応が必要な場合には、原則の「月45時間、年360時間」の範囲では対応できないことがあります。
たとえば、経理部であれば、月末・月初、年度末に業務が集中します。メーカーなら製品の不具合が生じると緊急対応が必要になり、製造部やカスタマーサービス部で労働時間が大幅に増えるケースがあるでしょう。
 
そこで、あらかじめ特別条項を設けた36協定を締結し、労働基準監督署に届け出ていれば、必要な事情がある場合に限り、最大で年6カ月までは原則の「月45時間、年360時間」を超える残業が可能になります。
 
改正前も特別条項はありましたが、特別条項で締結する残業時間には制限がありませんでした。たとえば、「過労死ライン」と呼ばれる月100時間を超える特別条項を付けることも可能であり、その範囲内で働かせていれば違法ではなかったのです。それを改善するために、新たな特別条項においては、次のように時間外労働の上限が設けられました。

 

  • 単月100時間未満(休日労働を含む)
  • 2〜6カ月平均80時間以内(休日労働を含む)
  • 年間720時間以内


なお特別条項の運用ルールに違反した場合も、原則のルールと同様に6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を課せられます。時間外労働の上限規制は、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から施行されています。

 
 

残業時間の管理を従業員まかせにしないこと


時間外労働の上限規制が設けられ残業を減らすように指示しても、どの企業もすぐに生産性が高まり、残業を減らせるとは限りません。まず大事なことは「残業時間の管理を従業員まかせにしないこと」です。企業は残業時間の削減の目的や意義を明確にして、具体的な施策など運用についても関わっていくことが大切です。
 
押さえるべきポイントは次の2つが考えられます。

 
 

◆会社の代表が従業員にメッセージを発信する


単に法律が変わったからという理由だけではなく、この法改正を契機に、会社としてどういう働き方を目指すのかを、会社の代表が従業員に対して発信することが大切です。
 
たとえば、「業務内容を見直して、クリエイティブな会社にしていこう!」「効率性を高めて、従業員に利益を還元していきます!」といったポジティブなメッセージを発信できると、従業員のモチベーションも高まるでしょう。

 
 

◆残業時間を削減するための具体的な施策を導入する


「働く時間を短くしろ」と言っているだけでは、何も変わりません。業務効率化の施策や、残業抑制の施策を取り入れ、会社として従業員の業務改善を促進する必要があります。

 

・業務効率化の取り組み例


何の仕事に、どのくらいの時間がかかっているのか、1日のスケジュールを部下が上司と共有して、時間を要している業務など問題のある箇所を改善していく方法などがあります。ツールを使えばみんなで業務を可視化でき、共有も簡単に行えます。
 
ただし、今はテレワークで仕事をしている企業も多いです。その場合には、従業員の勤怠だけでなく、体調の把握も必要になってくるので、上司は定期的にオンラインツールなどで顔を突き合わせながら、部下とコミュニケーションを交わすことも大切です。
 
業務内容の把握については、上司は始業時間に今日何をするのか、終業時間には今日何をやったのかを部下からメールで報告してもらい、組織の規模などに応じて週1〜2回は、オンラインで困っていることや悩み事、要望などをヒアリングするといいでしょう。

 

・残業抑制の取り組み例


本来、残業は会社が従業員に命じて行わせるものです。デスクワークではそうはいかないことも多いですが、従業員が残業を行う際に、事前に上司に申告させることも一つの手でしょう。業務内容を聞いた上で、上司が承認したときだけ残業し、翌日でよいと判断されれば残業はしないとすれば、抑止力にもなるでしょう。

 
 

残業時間を削減して生まれた利益を従業員へ還元


ただし、毎月ある程度の残業代が支払われている従業員にとって、残業時間の減少=収入の減少となるので、残業時間削減に積極的に取り組まないことがあります。そこで、残業時間の削減に従業員が率先して取り組むようになる施策があります。その一つが、残業手当の減少によって生まれた会社の利益を、従業員に還元することです。
 
これにより、残業手当の支給が多い従業員も収入減を気にせずに残業時間の削減に取り組めますし、「残業代を削減することが目的ではない」という企業姿勢もメッセージとして従業員に届けられます。

 
 

人事労務担当者ができること


最後に、人事労務担当者ができることをお伝えしておきます。
 
1つ目は、先程も説明しましたが、「残業時間の削減」を行う、自社としての目的を従業員に広く知らしめることです。
 
2つ目は、「評価基準の見直し」です。改正前であれば、「あいつは遅くまで働いているから頑張っている」と、評価されることもあったと思いますが、これからは、その考え方は通用しなくなります。むしろ、評価軸を見直し、「(時間あたりの)生産性の高い結果を出している」人こそが評価されなければなりません。
 
そうした考えを管理職に浸透させ、実行してもらうように促すスキルが、今後は人事労務担当者に求められるでしょう。

 
 
 

※記事内で取り上げた法令は2021年9月時点のものです。
 
監修:うたしろFP社労士事務所 社労保険労務士/1級FP技能士CFP® 歌代将也
TEXT:西谷忠和
EDITING:Indeed Japan + ノオト

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