社員のメンタルヘルス対策はなぜ必要? 不調者への対応と予防の基礎知識


社員の健康管理として、メンタルヘルス(心の健康)の不調への対策=「メンタルヘルス対策」を重要課題と捉える企業が増えています。(※1)仕事や職場で強いストレスを感じた社員が、休職・退職するケースも珍しくありません。一方、対策を取るべきだと分かっていても、実践に至らない企業や人事担当者も多いのではないでしょうか。

メンタルヘルス対策とはどのようなもので、実際に不調者が現れた際にどのような具体策を取るべきなのでしょうか。医師・社会保険労務士・公認心理師などの資格を持つ森本産業医事務所代表の森本英樹さんに伺いました。

(※1)第9回「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケート調査結果(公益財団法人日本生産性本部)

 
 

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結果が表れにくい「メンタルヘルス対策」の実態とは


――なぜ、企業は社員のメンタルヘルス対策を行う必要があるのでしょうか。
 
企業が経営や人事労務の観点からメンタルヘルス対策を行う必要性は6点に分けて考えられます。

 

  1. 個人の生産性
  2. 周囲への影響
  3. コスト(人件費)
  4. 労務リスク
  5. 企業イメージの影響
  6. 取引先・顧客への影響


従業員のメンタルヘルスが悪化すると、パフォーマンスの低下をきたしたり、場合によっては長期の休職に至ったりと、労働損失が生まれます。周囲の人が仕事をカバーする必要が出てきますし、代替人員を確保するコストもかかります。加えて、メンタルヘルス不調者と会社との関係がこじれると労務リスクに直結し、それが表出化すると企業イメージにも影響します。
 
――メンタルヘルス対策を怠ると、人事労務上のアクシデントも起こりやすくなるのですね。
 
一番大きなデメリットは、社員の離職につながることではないでしょうか。不調者の離職だけでなく、従業員全体が「この職場は一人一人を大切にしていない。体調が悪くなったら休職に追い込まれてしまうだろう」と、会社を見限ってしまう可能性が高まります。
 
転職にはエネルギーが必要です。本来、今の職場に満足しているなら、よほどの収入アップやキャリアアップ、自己実現などが見込めない限り転職する人はあまりいないはず。しかし、「仕事量や業務内容、人間関係がつらい」「職場環境が良くなることが望めない」という気持ちが生まれると転職が視野に入ります。社内でのメンタルヘルス対策をきっかけに労働環境が変わったり、部署の雰囲気が良くなったりすると、転職による人材流出を防げるのではないでしょうか。
 
――社内でメンタルヘルス対策に取り組む企業は増えているというデータがあります。企業規模によって差はあると思いますが、実情を教えてください。
 
幅広い取り組みがあるため、何をメンタルヘルス対策と定義するかは難しいですが、会社の規模により差があるのは事実です。事業規模が1,000人以上の会社の実施率は100%近いのに対して、10〜29人の小規模な事業所では51.6%です。とはいえ、半分以上の企業は取り組んでいる状況にあります。

 
メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所(単位は人)の割合は、10~29人の事業所は51.6%。30~49人の事業所は63.5%。50~99人の事業所は86.0%。100~299人の事業所は97.7%。300~499人の事業所は99.6%。500~999人の事業所は99.2%。1,000人以上の事業所は99.7%。引用元は厚生労働省の平成30年労働安全衛生調査(実態調査)事業所調査。


――対策をしている企業がこれだけ多いのに対し、メンタルヘルス不調者の数が減らず、効果が上がらないと感じている企業もあるそうですね。これはなぜでしょうか。
 
メンタルヘルス対策は即効性がそれほどないものが多く、「これをやれば解決」といった得策はありません。研修を行ってすぐに管理職の行動が変わり、メンタルヘルスを患う社員が激減する……という状況はほぼ無いので、職場・部署ごとの対策を一つ一つ取り入れることで徐々に変わっていくものだと思います。
 
また、メンタルヘルス対策を始めると精神的疾患を訴える従業員は一時的に増えることが多いため、最初は効果を感じにくいかもしれません。これは対策をきっかけに、従業員が「業績や進捗状況などの話以外にも、家庭の事情や個人的な相談も話していい」と気づき、内在化した悩みを掘り起こすためです。
 
ただし、一時的に不調者が増えたとしても、継続的なフォローが受けられる環境があると周知できれば、その後メンタルヘルスを患う社員はぐっと減ります。最初は「対策したのに増加している」と感じられても、対策を続けていくことで社風改善やメンタルヘルス患者が減るというプロセスにつながるのです。

 
会社でデスクに伏せる男性

 
 

「心理的安全性」を感じられる職場環境をつくる


――では、メンタルヘルス対策はどこから始めたらよいのでしょうか。
 
まずは厚生労働省から「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(※2)が出されているので参考にしてください。ポイントは、1次予防から3次予防まで段階があると考えることです。
 
1次予防:メンタルヘルス不調者が発生しないようにする
2次予防:メンタルヘルス不調者を早期に見つけて、対処する
3次予防:一度不調になった従業員を支援し、再発・悪化を防止する
 
対策の流れは二つあります。一つは、1次予防から3次予防の順番で職場環境を整える方法。職場の物理的レイアウト、労働時間、作業方法、人間関係などの職場環境を改善することで、社員のストレスを軽減し、メンタルヘルス不調を予防します。しかし、環境改善に伴った職場の雰囲気や社員の意識変化などは年単位でしか変化せず、時間軸としてはゆっくりですが非常に大切な取り組みです。
 
もう一つは、3次予防から1次予防に向かう手段。不調者にきちんと対応し、休職しても無事に復帰できたという結果を示す方法です。一人一人の顔が見える事例を積み上げていくことは、職場のより良い雰囲気づくりのためにも重要です。
 
(※2)職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~(厚生労働省)
 
――予防に取り組むうえで、気を付けるべき点はありますか?
 
企業内でメンタルヘルス対策に取り組む意識を持つことです。大きな企業では「EAP(Employee Assistance Program)」と呼ばれる従業員援助プログラムで社外に相談窓口を置き、会社に知られない形で相談できる手段があります。
 
それでも、問題解決のためには社内での対処が必要となるケースもあるため企業側が「社外窓口に任せておけば万事OK」という姿勢だと予防策としては全く機能しなくなるのです。職場で相談できる雰囲気をつくった上で、「それでも私は社内で相談したくないから社外を使う」という流れにしない限り、対策を取っても結局は上手くいかないのではないでしょうか。
 
――メンタルヘルス対策の大前提として、社員が不満や不安を話せる職場環境にすることが大切なのですね。森本先生はその環境を「心理的安全性を感じられる職場」と表現されていますね。
 
「心理的安全性」とは「助けを求めたり、間違いを認めたりしても、誰も罰せられないことが保証されている」状態です。私が相談者の皆さんと面談して問題だと感じるのは「どうしてこれを上司に報告しないの?」と感じる状況でも「相談しても無駄なんです」と話す人が多いということ。上司が「何でも話してくれよ」と安直に言ったとしても、部下は「今まで話してもダメだった」という経験から、食い違いが起こります。つまり「何でも言って」と伝えること以上に、会社側が「話せる雰囲気」をいかにつくるかが非常に大切です。
 
「私、体調が悪いです」と打ち明けるよりもっと手前の段階で、「私は仕事がここで止まってしまい、困っています」と相談できる環境がない限り「体調が悪い」は言えないと思います。

 
会社で働くたくさんの社員

 
 

「様子がいつもと違う」 メンタルヘルス不調のサインとは


――実際に不調者の変化に周囲がいち早く気付くためには、どうすればよいのでしょうか? メンタルヘルス不調者のサインを教えてください。
 
不調者には、「こころ」「体」「行動」の三つのサインがあります。「こころ」のサインは、不安が強くなる、集中力が落ちる、ぼーっとする、ため息をつくなど。「体」は、よく風邪をひくようになる、吐き気、頭痛、食欲がない、下痢をするなどの症状が表れます。「行動」は、賭け事をしたくなる、スピードを出して荒っぽい運転がしたくなる、お酒・タバコの量が増える、家で八つ当たりをしてしまうなど。
 
人によって症状は様々なので「今まで自分はストレスを感じると、どんなところに兆候が表れていたのか」という点を改めて振り返ってもらうことも必要ですね。
 
それに加えて、人によっては「サインが出ない」ことがあります。「私、全然ストレスを感じないんです」という人は、逆にしなやかさが無いので、ある地点に至るといきなり心が折れてしまうことがあります。何のサインが出ないこと自体も危ないのだと知ってほしいです。
 
――人事労務の担当者が「あの人はいつもと違う」と社員のメンタルの不調に気付いた時に、できることはありますか?
 
まずは「ちゃんと見ているよ」というメッセージを伝えることです。そこで大事なのが、言動と行動が一致しているかどうか。働き方改革で上司が「早く帰れよ」と促す事例が増えていますが、早く帰るための工夫は何もしていないケースも多いですよね。
 
言葉と行動が伴っているかどうかは、本人が思っているよりも相手に伝わってしまうもの。ですので「大丈夫?」と声を掛けた後、そのまま放置していると「口だけ」だと思われてしまいます。繰り返し声をかけながら「あなたの様子が今までと違うような感じがする」「私はあなたのことが気になっているよ」というサインを伝えていくのが良いと思います。
 
――上司の視点からすると、「対策をする余裕がない」「時間が解決してほしい」と期待して行動にでないケースもあるのでは。
 
上司の仕事とは「業務の成果を最大化すること」や「部下が働きやすくなる環境を整えること」です。そのためには部下のパフォーマンスを上げていくことが必要。見て見ぬふりをしていては何も変わりません。部署全体の成果をあげるためにも、不調を感じられる部下には声を掛けた方がいいですよね。自身の役割として自覚し、対策に踏み出してほしいです。
 
――最後に、メンタルヘルス不調者とのコミュニケーションで心掛けるべきポイントを教えてください。
 
「病気がある=仕事ができない」という決めつけを取り払うことです。例えば「あなたは、うつ病だから仕事ができないよね」と頭ごなしに言われるのは嫌ですよね。病気の内容で決めつけるのではなく、その人が「働けているか、働けていないか」で判断しましょう。「ミスが多くなっている」「パフォーマンスが落ちている」という現状があれば、それを理由に「療養した方がいいのでは」と提案することです。
 
たとえ「仕事と親の介護の両立で悩んでいる」「メンタルの薬を服用している」という人でも、仕事のパフォーマンスが落ちていないのなら労務上は問題がない可能性もあります。「病気」を軸に話をすると水掛け論になってしまうので、目に見える事柄で、お互いが同意できるものを中心とした事例で対話するのを心掛けましょう。

 
 
 

<取材先>
森本産業医事務所 代表
森本 英樹(もりもと ひでき)さん
医師・医学博士、社会保険労務士、公認心理師、労働衛生コンサルタント(保健衛生)。社会保険労務士と公認心理師資格を持つ産業医として、労働衛生に関するコンサルティングや嘱託産業医、実務家視点での講師、執筆、研究等を行う。2020年6月に向井蘭氏との共著「ケースでわかる〔実践型〕職場のメンタルヘルス対策マニュアル」(中央経済社)を出版。


参考文献:
ケースでわかる〔実践型〕職場のメンタルヘルス対策マニュアル(中央経済社)
 
平成30年 労働安全衛生調査(実態調査) 事業所調査 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/h30-46-50_kekka-gaiyo01.pdf
 
職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000560416.pdf
 
TEXT:笹田理恵
EDITING:Indeed Japan + ノオト

 

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