組織再編とは
組織再編とは、一般に効率的な事業運営や事業部門拡大などを目的として、統合や分割によって会社の組織形態を変更し、編成し直すことを指します。「会社法」では、この組織再編に適する制度として、「合併」「会社分割」「株式交換」「株式移転」「株式交付」の5つの種類の制度を設けています。
会社法で定められている組織再編の種類
◆合併
2社以上の会社が統合し、一つの会社になることです。合併には吸収合併と新設合併があります。
・吸収合併
既存の会社がほかの会社を吸収する形の合併です。A社がB社を吸収合併した場合は、A社は合併後も存続し、B社は消滅します。
・新設合併
新設する会社に会社の権利義務を全部承継する合併であり、A社とB社が新設合併を行った場合は、2社それぞれの権利義務を合併により新たに設立されたC社が承継し、A社とB社は消滅します。
人員やノウハウを結集して会社の競争力を強化し、経営を一元化することによってコストを削減するメリットがあります。
◆会社分割
会社分割とは、会社がその事業に関して所有している権利義務の全部あるいは一部を分割して、ほかの会社に承継させることです。会社分割にも吸収分割と新設分割があります。
・吸収分割
A社が事業の全部または一部を既存のB社に承継した場合は吸収分割となり、分割が行われた後も2社は存続します。
・新設分割
A社が事業の全部または一部を、会社分割により設立するC社に承継させることを新設分割といいます。
利益率のよい部門と悪い部門を切り分けて組織の合理性を図り、利益率の悪い部門を縮小することで経営の合理化を図り、また、会社運営の機動性の向上を見込めるのがメリットです。
◆株式交換
完全(100%)親子会社関係を創出するための手法の一つです。完全子会社となる会社(A社)の株式全部を、完全親会社となる会社(B社)に取得させ、B社は対価として自社の株式をA社の株主に割り当てます。
◆株式移転
株式交換と同じく、完全親子会社関係を創出するための手法の一つです。完全子会社となる会社(A社)の株式全部を、新設した完全親会社となる会社(C社)に取得させ、C社は対価として自社の株式をA社の株主に割り当てます。
株式移転は、特に持株会社(ホールディングス・カンパニー)を新設する場合によく用いられる手法です。
◆株式交付
2021年3月1日施行の会社法改正により創設された、株式交換の派生系といえる制度です。株式交換では、相手方の会社を完全(100%)子会社とすることを目的とする制度でしたが、完全子会社以外の場合は想定されていませんでした。このため、完全(100%)子会社とまではいかないまでも、過半数の株式を取得して子会社化するための制度として、株式交付が制度化されました。
組織再編に必要な手続き
1.組織再編に関する契約の締結・計画の作成
吸収合併契約、吸収分割契約などの締結、新設分割計画などの作成を行う。各種の契約や計画に必要な事項は、会社法に規定されているので確認を要する。
2.事前開示書面の備え置き
組織再編に関する契約・計画や他会社法に規定された資料を会社の本店に備え置き、株主や債権者などが閲覧可能にする。
3.株主総会による決議
組織再編を行うには、原則として効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議による承認を受ける必要がある。
簡易組織再編(承継させる資産の帳簿価額が分割会社の総資産額の20%以下の場合など)、略式組織再編(組織再編当事会社の一方が他方の会社の総株主の議決権の90%以上を保有している場合)などの場合は、株主総会は不要。ただし、同じケースでも吸収合併存続会社などに差損が生じる場合などは株主総会は必要となるため、ケースごとに専門家に相談が必要となる。
4.組織再編に関する公告
組織再編に異議を唱えることができる債権者がいる場合、株式会社は以下の事項を官報等の方法により公告し、かつ債権者に対して各別に催告する。
- 組織再編をする旨
- 相手方となる会社、またはほかの消滅会社・分割会社・株式移転完全子会社及び設立会社の商号と住所
- 組織再編当事会社の計算書類に関する事項
- 債権者が一定の期間内に異議を述べることが可能な旨
5.反対株主の株式買取請求権
反対株主は、会社に対して自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求できるため、その機会を設ける。4と並行して行う。
6.会社債権者の異議手続き
組織再編に対して異議を述べる会社債権者に対して、必要があれば弁済や相当の担保の提供などの措置を取る。
7.組織再編の効力発生と登記
組織再編の手続きが終了した後、必要な登記を申請する。
組織再編に伴って起こる問題や解決策
◆労働者に対する労働契約承継手続
組織再編の手法のうち、会社分割においては、労働契約の承継の有無が労働者の利害に影響を与える可能性があります。そのため、会社分割を行う際は「労働契約承継法」等に基づき、労働者への通知はもとより、労働者・労働組合と協議を行い、労働者の理解と協力を得ることが重要です。怠った場合、労働契約承継法違反になる可能性もあります。
◆就業規則を統一する
合併を行った場合、それぞれの会社における労働時間や賃金、福利厚生などの制度が異なる場合は、合併後の労務管理の負担の増大や労働者間の一体感の喪失を防ぐため、就業規則を統一することが考えられます。必要があります。合併前に統一するのは困難な側面もありますので、合併後に労働者と協議をしながら少しずつでも整えていきましょう。
◆社内文化を擦り合わせる
組織再編後に、コンプライアンスに対する温度差など、就業規則では明確化されていない、企業体質や社内文化の違いが浮き彫りになるケースが挙げられます。ハラスメント問題などに発展するケースもありますので、当事会社の企業風土を可能な限りすり合わせ、融合していくよう努めましょう。
◆許認可の承継の手続きを確認する
たとえば宅地建物取引業における免許、金融商品取引業における登録など、会社が特定の事業を行うために、行政機関から取得しなければならない許認可(許可、免許、登録などのライセンスの総称)があります。これらの許認可の承継に要する手続きや期間は各許認可によって異なっています。組織再編の事前の準備の段階で、各事業の許認可ごとにどういった手続きや期間が必要になるかを確認し、それを見込んだスケジューリングをすることが重要です。
※記事内で取り上げた法令は2022年4月時点のものです。
<取材先>
隼あすか法律事務所 弁護士 木下達彦さん 坂下良治さん
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト