建設業ならではの離職理由
――建設業で人手が不足している理由の一つとして、離職率の高さが挙げられるかと思います。実情を教えてください。
厚生労働省が発表している2019年のデータによると、建設業における就職後3年以内の離職率は大卒が27.8%、高卒が45.3%となっています。全産業の平均では、大卒が32.0%、高卒が39.2%なので、高卒は平均より高くなっています。
――大卒の離職率は、全産業の平均より下回っていますね。建設業の離職率は高いイメージがあったのですが、なぜこのような数字になっているのでしょうか?
大卒の場合は大手ゼネコンが含まれているため、やや低い数字になっています。大手企業であれば、長く働くほど着実に給料が上がりますし、働き方に対する制度や仕組みも整っているので、すぐに辞めることはないでしょう。はっきりとしたデータはありませんが、中小規模の建設会社に限定すると離職率がもっと高くなるはずです。
――大手ゼネコンと中小企業を比較すると、離職率に乖離があるということですね。ではいったい、どのような理由で辞めていくのでしょうか?
「休みが少ない」「長時間労働」「人間関係」「体力面の厳しさ」の4つが離職の大きな要因として考えられます。また付随する理由として、工事の現場によっては「納期が厳しい」「発注元から強く言われて疲弊した」という理由があるかもしれません。
株式会社船井総合研究所 HR支援本部 シニア経営コンサルタント 宮花宙希さん
ITツールを活用し、採用のミスマッチを減らす
――離職率を下げるためには、採用の段階で「長く働いてくれる人」を選ばなければなりません。面接ではどのように見極めればいいのでしょうか?
長く働いてくれるかどうかは、面接での質問だけでなく、会社説明会や現場見学会を設定し対話しながら判断する必要があります。応募者の話を一方的に聞くだけでなく、会社側からも「仕事のやりがい」「業務フローの進め方」などを説明し、求職者の理解度を上げる情報を提供しなければいけません。
採用活動という意味では、面接と会社説明会、現場見学会を明確に区切らなくてもよいのではないでしょうか。つまり、応募者とのコミュニケーションの中で自然に聞き出すイメージです。たとえば、前職を辞めた理由や仕事に対する姿勢などは、会話しながら探っていくとよいでしょう。
また採用では、ミスマッチを防ぐ意識を強く持たなければいけません。というのも、会社の理念や業務内容を理解しないまま入社し、「私がやりたかった仕事ではない」と離職してしまうケースが多いからです。会社説明会で質疑応答の時間を設けたり、現場見学会で対話したり、応募者と接する機会を多く持てば、採用のミスマッチを減らせるでしょう。
――ただ面接で質問するだけでなく、会社側からも積極的に情報を出していく必要があるのですね。
建設会社によっては専用のリクルートサイトを作り、会社案内や動画をアップしているところがあります。自社のことを事前に知ってもらえれば、応募者とのコミュニケーションの中で「この人は、うちのリクルートサイトをちゃんと見ているな」というのがわかるでしょう。それが採用の基準になったり、志望度をはかる目安となったりするはずです。
自社の情報をちゃんと取得しているか、キャリアアップを考えているか等々、ミスマッチを減らすためには細かな部分まで応募者の意思を深堀りすることが大切です。
――自社の理念や業務内容をきちんと説明しつつ、応募者の気持ちを探っていく必要があるということですね。ほかに注意すべき点はありますか?
働くモチベーションにギャップが生じると、辞める確率が高くなります。たとえば役職がついて固定給が上がった場合、それで喜ぶ人もいれば、責任が重くなることを嫌う人もいるでしょう。
バリバリ働きたいのか、ほどほどでいいのか。「給料はそこそこでいいけど、休みをしっかりとって家族との時間を大切にしたい」という人もいれば、「休みは少なくてもいいから、給料をどんどん上げてほしい」という人もいます。本人のモチベーションと会社が求めるキャリアプランが合わないと、離職に繋がってしまいます。採用コンセプトをきちんと設計し、自社が求める人物像に合うかどうかを判断してください。
ただし、応募者は必ずしもすべてを正直に答えるとは限りません。とくに面接では、会社側が求める人物像や価値観にむりやり合わせてしまう人がいます。その場合はITツールを使う手もあるでしょう。
――ITツール、というのは?
簡単にいうと、コンピューターを使った適性検査とWeb面接システムです。最近ではAIによるマッチングサービスを利用する会社が増えています。他業界に比べると動きが遅いかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症の影響によってWeb面接が増えていますし、採用活動においてITツールを使用する建設会社は今後も増加していくでしょう。Web面接システムは、今後の不況到来を見越した採用チームの生産性向上(工数最適化・交通費等の諸経費コストダウン)にとって必要不可欠だといえます。
株式会社船井総合研究所 HR支援本部 シニア経営コンサルタント 植松拓海さん
社員と交流する場を設け、内定辞退を防ぐ
――面接の前後で行うべき施策についてお伺いします。面接前の施策として、先ほど会社説明会や現場見学会の話が挙がりましたが、具体的にどのような内容を実施すればよいのでしょうか?
設計職であれば、使用するソフトや会社の設計理念を説明しつつ、応募者に実際の図面などを見てもらいましょう。技術職の場合は、ものづくりに対しての情熱を持っている一方で、価値観にギャップが生まれる可能性があります。たとえば、高速道路を専門に施工している会社と、ビルをたくさん建設している会社では、方向性が異なります。自分の志向と会社の得意分野が合うか合わないか、あまり考えずに応募している人がいるので注意しなければいけません。
――高速道路とビルでは、建設に対する志向性が変わってくるわけですね。
道路など公共的な工事を得意としている会社であれば、「自分の生まれた故郷に恩返ししたい」といった社会貢献的なモチベーションを持っている人とマッチします。
たとえば「3年前に開通した○○道路を知っていますか? 実はうちの会社が施工を担当したんですよ」という話をすれば、「会社の規模は小さいけど、大きな公共事業に携われるんだな」と、志望度がグッと上がります。こういったケースでは、過去の施工実績をうまく発信すると良いでしょう。
――たしかに、身近な建築物を例に挙げてもらえるとイメージがわきやすいですね。では面接後、内定者にはどのようなフォローをすればよいのでしょうか?
最近は、1人あたりの内定保有社数が増えるとともに辞退率も高くなっているので、防止策をきちんと考えなければいけません。我々がご支援するクライアント様のデータを分析すると、内定までの接触回数と内定承諾率はほぼ比例しています。新卒なら8回、中途なら4回を超えれば承諾率は100%です。接触回数を増やす具体例としては、食事会や懇親会、社内研修参加のほか、時給を払って会社のイベントを手伝ってもらっている会社があります。
研修や懇親会を開く場合は、いま働いている社員と触れ合いながら、不安に思っていることを質問できる場を設けましょう。「この会社は研修制度が整っている」「この社員さんとなら楽しく働けそう」など、業務内容とともに人間関係の面でも安心してもらえれば、内定辞退を減らせるのではないかと思います。
※この記事は2020年3月16日に取材したものです。
<取材先>
株式会社船井総合研究所 HR支援本部
HRD支援部 シニア経営コンサルタント
宮花宙希さん、植松拓海さん
船井総合研究所/人材開発コンサルティング ホームページ
https://hrd.funaisoken.co.jp/
参考文献:
厚生労働省『新規学卒就職者の離職状況(平成28年3月卒業者の状況)』
https://www.mhlw.go.jp/content/11652000/000557454.pdf
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト