介護士が長く働ける環境をどう作る? 定着率の高い介護施設が実践していること

介護業界では慢性的な人手不足が続いています。介護スタッフを採用したあと、長く働いてもらうためには、どのような施策をとればよいのでしょうか。介護職の有効求人倍率を再確認するとともに、定着率が高い介護施設が実践していること、従業員に長く働いてもらうことによるメリットなど、具体的な事例をご紹介します。
 
解説いただいたのは、介護業界の採用・育成支援、コンサルティングを行っている株式会社Join for Kaigoの野沢悠介さんです。

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約4割は入社1年未満で離職

――介護職の有効求人倍率は、全国的に高くなっているのでしょうか?
 
全国平均で約4倍、とくに都市部で介護職の有効求人倍率が顕著に高くなっています。介護サービスを必要としている高齢者が多いにもかかわらず、介護士が足りていません。たとえば東京・渋谷のハローワーク管轄エリアは、介護職の有効求人倍率が非常に高く、私の知る限り日本でもっとも介護士の採用が難しいエリアになっています。
 
下記の図は2019年9月の有効求人倍率をまとめたもので、介護サービス職(常用労働者)は東京都が7.82倍、ワーストは渋谷管轄エリアで16.10倍となっています。さらにパート労働者に限ると、東京都が11.08倍、同じくワーストの渋谷管轄エリアが30.15倍と、普通に求人を出してもほぼ採用できない状況です。

 
東京都労働局「職種別有効求人・求職・賃金状況(一般常用)」より抜粋/資料提供:株式会社Join for Kaigo東京都労働局「職種別有効求人・求職・賃金状況(一般常用)」より抜粋/資料提供:株式会社Join for Kaigo
 
 
もともと介護に興味がある人を募集するだけでは、もはや厳しい状況です。「介護の仕事がしたい」と希望する人を増やしていかなければなりません。
 
――介護職はすぐ辞めてしまう人が多く、定着率が低いという問題もあるようですね。
 
公益財団法人介護労働安定センターの調査によると、2016年度に離職した職員のうち、約4割は入社1年未満で離職しています。ただ、早期離職がすごく多い事業所がある一方、ほとんどない事業所もあり、二極化している傾向が見られます。
 
――離職率が高い事業所と低い事業所では、何がどう違うのでしょうか?
 
理由は大きく2つあります。1つ目は、採用段階でのミスマッチ。「人手不足だから誰でもいい」と採用したけど、結果としてうまく合わず離職するケースが少なくありません。2つ目は、導入段階での受け入れ態勢、さらに育成の問題です。介護事業者の9割以上は従業員数50名以下と小規模なので、大企業のような新人研修体制があるわけではなく、最初から現場に立たされてしまうのです。

 
 
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スタッフの不満や要望、課題を丁寧に拾い上げる

――採用段階でのミスマッチを防ぐには、どうすればいいのでしょうか?
 
人をたくさん集めようとすると、どうしても施設のポジティブな情報を全面的に押し出してしまいがちになります。ただ、良い場面ばかりをアピールすると、入社後にギャップを感じてしまう人もいるでしょう。そのギャップが大きいほど、心理的な壁が生まれてしまいます。それを「リアリティショック」と呼んでいます。
 
「こういう部分は難しいよ」「地味な部分もあるよ」と、ややマイナスに聞こえる事実も最初から正直に伝えれば、結果として定着率アップに繋がります。採用する前に正しい情報を伝え、入社後のリアリティショックをなくすことが大事ですね。
 
――新人教育の体制については?
 
教育体制が整っていない施設だと、「とりあえず利用者と話しておいて」と放置されたり、「こんなこともできないの?」と言われたりして、心が折れて辞めてしまうケースが多々あります。先輩が実地で教えるとしても、手順が整っていないと指導側もうまく伝えられません。まず新人が習得すべきことは何なのか、今どれぐらいできるのかといった記録を取ることで、新人の成長に寄り添う事業所は離職率が低いし、そうでないところは早期辞職のリスクが高まります。新人教育の質は、職場の定着率に差をつける大きな要因でしょう。
 
――きちんと教えてくれないと、新人さんも不安が大きくなってしまいますよね。定着率をより高める具体的な施策はありますか?
 
職員が今どんなことに困っているのか、今後どうしていきたいのか、マネージャーや管理者がきちんと聞いて拾い上げることがとても大事です。要望に対して上司が理解を示さない状況が続くと不満が溜まってしまうので、まずはしっかり聞いてあげましょう。少しずつ良くなっている実感が持てるか持てないか、それによって働き続けるモチベーションが変わってきます。声を拾い上げる機会をつくり、できることは実行していく。それが定着率アップにつながります。
 
若手職員の定着で考えると、その仕事において成長モデルを描けるかどうかも大事です。「5年、10年と続けても、成長しているイメージが湧かない」と言って、中堅スタッフが抜けていくパターンも多く見られます。一方で、最近の若手はキャリアアップ志向が少ない傾向もあります。「大変な思いをしてまでマネージャーになりたくはない」と考えている人にとって、従来のように「介護主任からユニットリーダー、施設長へ」といった出世の流れはそぐわないでしょう。
 
どうすれば成長を実感できるのか? 今後どうしていきたいのか? その人自身の課題や不満を聞きながら、新たな挑戦の場を作っていくことが大切です。
 
――介護スタッフの不満とは、具体的にどのような内容が多いのでしょうか?
 
まず1つは、労働環境に対する不満です。たとえば、もともと「夜勤は週1回だけ」という条件で入ったのに、スタッフ不足で月に7、8回も夜勤せざるを得ない状況になってしまい、疲弊していくパターン。また、目の前にある必要な業務に追われて、一人ひとりのニーズに応えきれないという不満もあります。
 
これらを解消するためには、人手を増やすだけでなく、業務を改善して利用者の本質的なニーズに向き合える時間を増やしていかなければいけません。

 
介護士
 
 
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いま働いている介護士が、長く仕事を続けられる環境づくりを

――定着率を上げて従業員に長く働いてもらうと、どのようなメリットが生まれますか?
 
利用者の要望を深く理解しているスタッフが増えれば、サービスの質を高めることができます。逆にいうと、新人が入ってもすぐ辞めてしまう状況が続けば、みんな新人教育ばかりに手間がかかり、最低限のケアだけで手一杯になってしまうでしょう。
 
採用や育成には一定のコストがかかります。もちろん適切な人の入れ替わりや、新卒採用を含む新しい風を入れるための「ポジティブな採用」はあって良いでしょう。
 
しかし、すぐ辞めてしまったからまた新しい人を……とやみくもに採用を繰り返せば、その都度ムダなコストがかかってしまいます。良いスタッフを迎え入れて長く働いてもらえば、給与や制度面で還元でき、結果として従業員の満足度は上がるはずです。
 
介護サービスを受けている利用者も、担当の介護士が辞めると悲しむんですよ。良いスタッフが長く働き続けることは、利用者にとっても嬉しいこと。人と人とが密に接する仕事なので、期間が長ければ長いほど信頼関係が生まれますし、全体としてサービスやケアの質も向上するはずです。
 
――スタッフの定着率が上がれば、利用者の満足度も上がるわけですね。
 
離職率が20%から15%、10%と下がるだけで、やれることも変わってきます。人手不足ということで、どうしても採用の手法ばかり着目されるのですが、考えるべき施策は採用だけではありません。
 
結局、「新しく入ってくる人が働きやすい職場」って、「今働いている人が長く続けたいと思う職場」とイコールなんです。長く働いてもらえる環境を作っていくことが、良い人材の採用にもつながることは間違いありません。この2つは切っても切り離せない関係なのです。

 
 

<取材先>
株式会社Join for Kaigo 取締役
野沢 悠介(のざわ ゆうすけ)さん
https://kaigohr.com

 
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト

 

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