早期離職を頭痛のタネにしない採用戦略の新発想[第9回]不確実な時代に「人を活かす経営」とは?

 

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第9回 早期離職を頭痛のタネにしない採用戦略の新発想


若手社員の早期離職は、今も昔も、経営者の頭痛のタネの一つです。コロナ禍の現在、採用市場も非日常の動きを強いられていますが、経済活動が回復すれば、希少な若手人材の売り手市場に拍車がかかるはずです。
 
一方、企業の終身雇用がすでに揺らぐなか、就活生や若手社員が企業を見定める目は厳しくなるばかりです。自分の将来にとって意義を見出せない職場なら、早期の離職や転職を躊躇しません。
 
そこで、経営者は早期離職問題にどう対峙すべきか。FeelWorks 代表・前川孝雄さんが発想の転換を説きます。

 
 

中小企業の3年以内離職率は大企業の1.5倍!


企業経営者にとって、若手人材の確保と育成にあたって悩ましいのが「3年3割」の新卒離職率です。
 
厚生労働省が2020年10月に公表した『新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況)』によれば、新卒者の就職後3年以内の離職率は大卒が32.8%で、高卒が39.5%(図参照)。大卒新入社員の約3割が入社後3年以内に離職しており、この傾向はここ20年来、変わらず続いているのです。
 
・新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者)

 

新規学卒就職者の就職後3年以内離職率 ( )内は前年比増減 大学 32.8% (+0.8P) 短大など 43.0% (+1.0P) 高校 39.5% (+0.3P) 中学 59.8% (▲2.6P) 新規学卒就職者の事業所規模別就職後3年以内離職率 事業所規模 1,000 人以上 大学 26.5% (+1.5P) 高校 27.4% (+1.4P) 事業所規模 500 ~999人 大学 29.9% (+0.3P) 高校 32.5% (▲0.6P) 事業所規模 100 ~499人 大学 33.0% (+0.8P) 高校 38.1% (+0.5P) 事業所規模 30 ~99人 大学 40.1% (+0.8P) 高校 46.5% (+0.5P) 事業所規模 5~29人 大学 51.1% (+1.4P) 高校 55.6% (+0.2P) 事業所規模 5人未満 大学 56.1% (▲1.6P) 高校 63.0% (▲1.9P) 新規学卒就職者の産業別就職後3年以内離職率のうち離職率の高い上位5産業 ( )内は前年比増減 ※「その他」を除く 大学  宿泊業・飲食サービス業 52.6% (+2.2P) 生活関連サービス業・娯楽業 46.2% (▲0.4P) 教育・学習支援業 45.6% (▲0.3P) 小売業 39.3% (+1.9P) 医療、福祉 38.4% (▲0.6P) 高校 宿泊業・飲食サービス業 64.2% (+1.3P) 生活関連サービス業・娯楽業 59.7% (+1.7P) 教育・学習支援業 55.8% (▲2.2P) 小売業 49.5% (+0.1P) 医療、福祉 47.0% (+0.5P)出典:厚生労働省 令和3年10月30日発表資料


ところが、この数字を企業規模別で見てみると、従業員500人以上や1,000人以上での離職率が3割を切っている一方、従業員100人未満や30人未満では4割から5割を超えています。すなわち、企業規模が小さいほど新卒者の早期離職率が高いのが実状で、業種による違いはあるものの、中小企業は大企業の1.5倍から2倍にも及んでいるのです。
 
中小企業経営者にとっては、せっかく苦労して採用した新卒人材の早期離職に悩まされ、ストレスのタネになっているのが実状ではないでしょうか。
 
もちろん、若手の離職を防ぐには、上司によるコミュニケーションやOJT体制、待遇面などに課題はないかなど、経営サイドでの改善は必要でしょう。しかし、若手社員の離職を初めから「あってはならないもの」「解消すべきもの」とすることが、果たして正しいのかどうか。
 
私は、この発想の見直し自体が必要ではないか、と考えているのです。

 
 

転職前提で就職する若者たち


最近の若手世代は、新卒の採用時点、つまり入社1年目のうちに、転職サイトに登録をすることが珍しくなくなっています。本来、新入社員は、まず新たな職場に馴染み、しっかりと仕事の基礎を習得すべきはず。それが最初から脇見をするなど、経営者や管理職には想像ができないかもしれません。
 
しかし、若手世代のこの感覚にも道理があるのです。若手側に立てば、もはや入社企業が自分たちの終身雇用を保障してくれないことを、はっきりと意識しているからです。
 
関心があるのは、この会社では自分がどれだけ能力を磨くことができ、ステップアップする機会を得られるのかどうか。将来の自身のキャリアにつながる場として、期待ができるのか否かを常に見計らっているのです。「キャリアアップが難しいなら、より自分に適した企業を探さなければ、将来の見通しが立たない」。将来の不安にかられ、成長意欲の強い若者ほど、転職もにらみながら働くようになってきているのです。
 
私自身、大学での教え子の学生たちには、常々、キャリア自律の大切さを説いています。人生100年時代、一生涯に働く期間はより長期間にわたります。それに対し、社会経済のグローバル化や産業構造の変化のスピードは早く、業界や規模に関わらず、企業の将来は見通しにくくなってきている。もちろん、就職先の会社で終身に近く働き続けられれば幸いだが、それは稀なこと。希望の就職を果たしても、引き続き自分のキャリアをしっかり見据え、一方で会社の動向を注視して、変化の中でも逞しく生きていけるプロフェッショナルを目指す姿勢が大切。そう教えているのです。
 
こうしたアドバイスは決して安易な早期離職を奨励しているわけではなく、企業経営にとっても必要な人材育成に通ずると考えています。経営者にとっては、就職したとたんに成長意欲が下がり会社に依存する人材よりも、絶え間ない成長を目指し社外でも通用するプロフェッショナルな人材を求めているはずです。したがって、経営者は自社に就職してくる若者たちが、半ば転職前提であることを覚悟する必要があります。期待の若手社員に長く活躍してほしいのであれば、自社は他社と比較して、社員一人ひとりにとって成長が期待できる魅力的な職場であり続ける緊張感が必要なのです。

 
 

「雇用を守る」のみが絶対的正義ではない


以上のことから、経営者は、新卒社員は何としても自社内に留め置き、定着させなければならない、一生守っていかなければならない、とする考え方を柔軟に見直すべきではないでしょうか。そもそも、雇用を守ることが絶対的な正義なのか、会社にも本人たちにも適切なのか。この点から再考してみるべきです。
 
本来、「雇用を守る」とは、終身雇用で社員をリタイア後の年金生活まで保護し続けるということを意味します。しかし、この仕組み自体がすでに破綻しているのです。
 
第一に、いまや被雇用者の4割が非正規雇用です。業態によっては第一線の働き手の大半がパート・アルバイトの職場もあります。しかし、経営が雇用を守るという時、主たる対象は正社員であり、非正規雇用の人たちは調整弁とされてきました。今回のコロナ禍でも、真っ先に契約を打ち切られ苦境に立たされています。いざという時に現場の働き手を切り捨てるのなら、雇用を守ることにはなりません。
 
第二に、一方の正社員は本当に守られているかどうかです。日本では、長らく賃上げより雇用が重視されてきました。その結果、現在600万人を超える「雇用保蔵者」がいるとの推計も出されています。雇用者の10人に1人という規模なのです。雇用保蔵者とは、月々の賃金は支給されるものの、実質的な仕事がない社内失業者であり、今の時代にマッチしたスキルを身につけられず、働きがいや成長も期待できず、組織内に留め置かれた状態の人たちです。
 
経済のグローバル化や第4次産業革命の荒波の中で、企業はDX(デジタル・トランスフォーメーション)への対応をはじめ、事業構造の大転換を迫られています。その過程で、既存の社員が新たにスキルを身につけ、再活躍できなければ、いずれ自社の経営が行き詰まります。そうなれば、結局すべての社員の雇用は守れないのです。
 
雇用保蔵者が増え、時代に合わせたスキルの磨き直しができず、会社全体の能力が陳腐化する可能性が高い職場に留まることは、有能な社員からすればリスクでしかありません。

 
 

終身雇用から終身キャリア自律支援へ


しがたって、私は「雇用を守る」という考え方を見直し、「終身雇用」から「終身キャリア自律支援」へと発想を転換すべきだと考えます。そのためには、社員一人ひとりが生涯に渡ってキャリア自律できるように、しっかりと育成・支援する態勢を整えることです。そして、一定の知識やスキルを身につけ、たとえ会社経営が揺らいでも、生きていけるよう育て上げるのです。
 
確かに、終身キャリア自律支援への転換は、一企業の力だけでは完遂できません。労働法制の改正、転職市場の発達、リカレント教育の充実など、社会全体での改革が不可欠です。けれども、そうした近未来を見据え、その動きを加速させるためにも、企業一社一社が準備を始めることが大切です。
 
有能な社員の離職をただ憂うのではなく、あらゆる世代社員の育成とキャリア自律を誇れる企業をつくる。そのことが、ひいては内外から有望な人材を集め、会社の未来を切り拓いていくことにつながるのではないでしょうか。

 
 
 


株式会社FeelWorks代表取締役 前川 孝雄氏
Profile
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師
 
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団㈱FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・バワハラ予防講座」「eラーニング・新入社員のはたらく心得」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。(一社)企業研究会 研究協力委員サポーター、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『本物の「上司力」』(大和出版)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)等33冊。最新刊は『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)

 

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