ROEを分析する|デュポン分析を計算式や具体例でわかりやすく解説

更新:2023年2月6日

投資家や財務の専門家、企業の財務部長は、その企業の資本構成や自己資本利益率(ROE)を左右する要素に関する重要な情報を得るために、デュポンモデルによるROE分析を行うことがよくあります。デュポン分析の構成要素について理解しておけば、経理や財務の仕事でキャリアを積んでいくための備えになります。

この記事では、デュポン分析について詳しく理解できるように、デュポン分析の特徴とデュポン公式の各構成要素について説明すると共に、分析の具体例をご紹介します。

デュポン分析とは

デュポン分析とは、公式を使って企業の財務状況を複数の要素に分解する手法であり、「デュポンモデル」とも呼ばれます。デュポンモデルを活用すれば、企業のROE(自己資本利益率を意味するReturn on Equityの頭文字)に影響する主な要素を詳しく分析することができます。なお、「デュポン」という名称は、1919年にこのモデルを考案したデュポン社に由来するものです。

デュポン分析の公式を構成する要素

デュポン分析は通常のROEの計算式を拡張したもので、ROEに影響を与える「売上高純利益率」「総資産回転率」「財務レバレッジ」という3つの要素を分析します。そして、この3つの数値に基づいて、企業がROEを高めるために高い利益率を維持しているか、総資産回転率を向上させているか、自己資本を有効活用しているかどうかを判断します。デュポン分析の公式は、次のようになります。

ROE = 売上高純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ

この3つの要素は、それぞれ異なる計算式で表されます。デュポン分析の公式に各要素を求める計算式を当てはめると、次のようになります。

ROE =(純利益÷売上高)×(売上高÷平均総資産)×(平均総資産÷平均株主資本)

では、デュポン分析の公式を構成する要素について、それぞれ詳しく見ていきましょう。

売上高純利益率

売上高純利益率とは、売上高から各種経費を引いて求めた純利益の売上高全体に対する割合を表すもので、純利益を売上高で割って計算します。売上高純利益率の計算式を書くと、次のようになります。

売上高純利益率 = 純利益÷売上高

売上高純利益率は経営指標として広く使われており、「利益率を上げるには、費用の削減や価格の引き上げ、またはその両方が必要である」という考え方を前提としています。売上高純利益率が上がれば、ROEも上がります。

総資産回転率

総資産回転率は、企業が売上や収益を生み出すために総資産をどれだけ効率的に活用しているかを表す割合のことで、売上高を平均総資産で割って計算します。総資産回転率の計算式は、次のようになります。

総資産回転率 = 売上高÷平均総資産(期首と期末の平均値)

売上高純利益率が上がれば、ROEも上がります。また、総資本回転率は売上高純利益率と逆相関の関係にあるのが通常です。つまり、売上高純利益率が上がれば総資産回転率が下がり、売上高純利益率が下がれば総資産回転率が上がるということになります。

投資家や企業の財務部門の意思決定者は、総資産回転率を見ることで、厚利少売型のビジネスモデルを採用している企業と、薄利多売型のビジネスモデルを採用しているよく似た企業の財務状況を正確に比較することができます。そして、その比較の結果に基づいて、どちらの企業が株主のために高いROEを達成しているかを判断できます。

財務レバレッジ

財務レバレッジとは、ROEを高めるために負債をどれだけ活用しているかを表すもので、平均総資産を平均株主資本で割って計算します。財務レバレッジの計算式は、次のようになります。

財務レバレッジ = 平均総資産(期首と期末の平均値)÷平均株主資本(期首と期末の平均値)

財務レバレッジの値が大きくなれば、ROEも大きくなります。原則として、事業の運営や拡大に必要な資金を調達できるだけの負債を活用しつつ、過剰な負債を抱えないようにすることで、財務レバレッジを低く抑えるのが理想ですが、ROEを高めようとした結果、債務超過に陥ってしまうケースもあります。デュポン分析の公式に財務レバレッジを含めることで、投資家は企業の財務状況を正しく測定した上で、投資先の判断をすることができます。

デュポン分析の公式と通常のROEの計算式の違い

デュポン分析の公式は、企業のROEを左右する個別の財務指標を詳しく把握できるので、通常のROEの計算式よりも多くのことがわかります。ROEは通常の計算式でも求められますが、デュポン分析の公式を使えば、各要素がROEに対してどれだけ影響を与えているのかを知ることができます。

デュポン分析を活用すれば、企業の財務部門の意思決定者は自社の強みと改善が必要な部分を把握し、ROEを上げるために何を変える必要があるのかを判断できるようになります。また、投資家はよく似た複数の企業のROEから各企業の強みや改善が必要な部分を詳しく比較し、投資先の判断に必要な情報を得ることができます。

なお、デュポン分析の各要素の平均値は業種ごとに異なるので、なるべく同じ業種の企業同士で比較することが重要です。

デュポン分析の具体例

ここからは、デュポン分析についての理解を深めるために、具体的な分析例を見ていきます。

ある投資家が同じ業種のよく似た2つの企業に興味を持ちました。そこで、この2つの企業それぞれの強みや改善が必要な部分を比較し、どちらが投資先としてふさわしいかを判断するために、デュポン分析を行うことにしました。まずは各企業の財務状況について、以下のデータを集めました。


企業1

企業2

純利益

20万円

25万円

売上高

80万円

200万円

平均総資産

50万円

80万円

平均株主資本

20万円

10万円

次に、デュポン分析の各要素として必要になる数値を求めるために、以下の計算を行いました。

売上高純利益率の計算例

各企業の純利益と売上高から、売上高純利益率は次のように求められます。

  • 企業1の売上高純利益率 = 20万円÷80万円 = 0.25

  • 企業2の売上高純利益率 = 25万円÷200万円 = 0.125

総資産回転率の計算例

また、各企業の売上高と平均総資産から、総資産回転率は次のように求められます。

  • 企業1の総資産回転率 = 80万円÷50万円 = 1.6

  • 企業2の総資産回転率 = 200万円÷80万円 = 2.5

財務レバレッジの計算例

さらに、各企業の平均総資産と平均株主資本から、財務レバレッジは次のように求められます。

  • 企業1の財務レバレッジ = 50万円÷20万円 = 2.5

  • 企業2の財務レバレッジ = 80万円÷10万円 = 8

デュポン式ROEの計算例

最後に、ここまでの計算で求めた数字を使って、各企業のROEをデュポン分析の公式で計算すると、次のようになります。

  • 企業1のデュポン式ROE = 0.25×1.6×2.5 = 1

  • 企業2のデュポン式ROE = 0.125×2.5×8 = 2.5

デュポン分析を行うことで、この投資家は「企業2のROEは企業1より大きいものの、その大部分は財務レバレッジによるものである」ということを突き止めました。また、企業1のROEの多くが25%の売上高純利益率によるということもわかりました。以上を踏まえ、この投資家は企業1に投資することに決めました。



監修
安田 亮
公認会計士、税理士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
京都大学3回生在学中に公認会計士試験に合格。大手監査法人で約4年間、東証一部上場企業で6年間勤務し、その後2018年9月に神戸市中央区で独立開業。税理士業務だけでなく、連結決算などの会計コンサルティング業務も行なう。また、1級FP技能士とCFP(R)の資格も保有しており、個人のお金・家計・税金分野についても強みを持つ。

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