LGBTQは部屋探しに制限がかかる。「KATATI」が考え取り組む、住まいと社会のあり方とは?
更新:2023年6月1日
男女カップルと同性カップルで、入居可能な物件数に大きな差があることをご存じでしょうか。
二人入居可の物件自体は多くありますが、“友人同士・ルームシェアは不可”と条件がつくことが珍しくありません。例えば、二人入居可の同一条件で検索した場合、異性カップルや夫婦であれば1,000件候補が出てきても、友人同士・ルームシェアOKの物件となると10件ほどに激減してしまう。
つまり、カップルの性別によって検索結果の件数がまったく違ってくるというのが、今の社会の現実なのです。
こうしたセクシュアリティが起因する社会課題を解決するための取り組みを行っているのが、LGBTQフレンドリーな不動産窓口「KATATI(かたち)」です。
日本のセクシュアルマイノリティの方々が住まいの選択、ひいては社会で直面する壁とは?その課題を解決するためにはどんな変化が必要なのでしょうか。
すべての人が働きやすく、生きやすい社会であるために。KATATIが目指す「社会のかたち」について話を聞きました。

Profile
LGBTQフレンドリー不動産「KATATI」の(左から)MARIA、REYAN、U、pooh.
不動産仲介業Livmo内の一事業として2021年2月に新設。Livmoの社員でありYouTubeチャンネル「エルビアンTV」を運営するU(ゆー)とREYAN(れーやん)が中心となって立ち上げ、MARIA(まりあ)、pooh.(ぷー)がスタッフとして参加。性別・セクシュアリティを気にしないストレスフリーな部屋探しをコンセプトに不動産賃貸仲介等を手掛ける。
「二人入居可」でも同性カップルがはじかれる現実

経理・営業担当のREYAN(れーやん)さん
「女性二人が部屋探しをしていたら、マンションの隣室に男性二人が入居してきたら、おそらくほとんどの人は『友人同士のルームシェアだな』と認識するのではないでしょうか」
KATATIで経理・営業を担当するREYANさんは、LGBTが直面している不動産の現状を端的にそう表します。
REYANさんと、PR・SNSマーケティング・営業を担当するUさんは登録者数10万人超のYouTubeチャンネル「エルビアンTV」を運営するカップルでもあります。もともと不動産業界で働いていたUさんが、LGBTQが直面する不動産の問題を可視化させたいとの思いから、社内の新事業として「KATATI」を提案。スタッフは全員がLGBTQ当事者です。KATATIの運営元である不動産会社Livmoも、以前から同性カップル向けの不動産仲介サービスを展開しており、LGBTQを理解・支援しています。
カップル=異性の組み合わせという思い込みから、同性カップルの選択肢が必然的に狭まってしまう。事務・営業担当のpooh.さん、人事・営業担当のMARIAさんも、部屋探しに難航した経験を持っています。
pooh.さん「以前、5年ほどお付き合いしていた女性と一緒に住宅を購入することになったのですが、同性同士で組めるペアローンが当時は存在していなかったんですね。収入を合算しないと購入は難しい、でも合算する手立てもない。結局、その物件は購入を諦めざるを得ませんでした」
MARIAさん「私も以前、一回り以上年齢が離れたパートナーと部屋探しをした際に、不動産の窓口で『どういうご関係ですか?』と聞かれて『友人同士です』と嘘をついて物件探しをした経験があります。自分たちの関係性をしつこく聞かれることや、それを隠さなければいけないこと自体がまずストレスでしたし、紹介してもらえる物件の数も少なかったですね。そういうストレスを感じることなく部屋探しができるようになってほしい、という思いからKATATI不動産に加わりました」
カミングアウトは強制ではなく手段。顧客の幸せが何よりも大事に

PR・SNSマーケティング・営業担当のU(ゆー)さん
2021年2月に開設されたKATATI不動産。約1年が経ち、これまでにさまざまなセクシュアリティのお客さまから申し込みがありました。
Uさん「同性カップルでもパートナーの片方の方が性別・戸籍を変えて法律婚をされたご夫婦のケースもあれば、書面上の戸籍の性別は“女性”でもご本人の希望を尊重して物件オーナーさまには“男性”としてご認識ください、とお伝えしたケースもあります。聴覚障害をお持ちのレズビアンというダブルマイノリティのお客さまや、中国にお住まいのカップルが近く来日されるため、日本でのお部屋探しをオンラインでサポートし、オーナーさんに交渉・契約に至ったケースもあります」
「KATATIは『LGBTQフレンドリー』であって、LGBTQ限定ではない」とUさんは続けます。
Uさん「実際、異性愛カップルのご夫婦からもお問い合わせをいただいています。LGBTQの住まいの悩みに当事者視点から寄り添えるのが私たちKATATIの特色ですが、セクシュアリティを問わず、もちろんどなたでも大歓迎です」
また同時に、「お客様全員にカミングアウトを強制するわけではない」とREYANさんは強調します。セクシュアリティというプライベートな部分をしっかり理解・共有した上で、住まいの選択肢を増やす可能性を広げていきたいという理想がある一方、セクシュアリティをオープンにすることが、とても繊細なことだとも理解しています。
REYANさん「私たちは『LGBTQはカミングアウトをしなければいけない』と勧めるわけでは決してありません。けれども、『自分のセクシュアリティを隠さないで部屋探しをできるならばそうしたい』と望むマイノリティが多数いることを知っています。みんなが認識していないだけで、婚約相当の間柄の同性カップルも実はたくさんいるんです。そうした方々が幅広い選択肢の中から好きな物件にお住まいになれるように、カミングアウトもひとつの手段として、安心した住居を持てるように全力でサポートを行っています」
お客様の意思を大事にしたい。強い想いを持ったKATATIは、飛び込みNGの完全予約制、オンラインでのヒアリング、SNS発信によって身近に感じられるスタイルなど、従来の不動産会社とは異なるアプローチによって、業界の内外に予想外の反響をもたらしたそうです。
Uさん「『うちの物件を管理してほしい』とオーナー様から直接お声をかけていただいたり、大手不動産業者の方から『セクシュアルマイノリティ層へのアプローチをしたい気持ちはあったが、何をすればいいかわからない』とご相談をいただいたこともあります。協賛や講演のご依頼が予想以上にありました」

事務・営業担当のpooh.(ぷー)さん
pooh.さん「LGBTQの部屋探しの困りごとに関しては、オーナー様や管理会社が悪いとは私たちはまったく考えていません。自分ですらセクシュアリティについて理解し、受け入れるまでに時間がかかったのに、当事者でない方々がいきなり理解しろと言われても難しいですよね。セクシュアルマイノリティの問題は、不動産業界だけではありません。だからこそ、KATATIの存在や活動を通じて少しずつでも『LGBTQの人って意外と身近にいるんだな』と知ってもらえたら。もしかしたら自分の職場や学校、身近な人がそうである可能性だってありますから」
こうした動きに加えて、不動産業界からの依頼や協賛以上に殺到しているのが、「KATATI不動産で自分も働きたい」という問い合わせの声だそうです。
不動産業を超えて、当事者たちが働きたいという場所に
Uさん「採用に関する問い合わせは毎月のように来ています。自分のセクシュアリティを隠さずに働ける職場、という意味で求められているのかもしれません。実は最初に『お手伝いしたいです』と問い合わせをくれたのがpooh.さんなんですよ」
pooh.さん「そうなんです。それまで三人とはまったく面識はありませんでしたが、ちょうど今のパートナーと物件を購入したタイミングだったので、LGBTQと不動産という組み合わせにすごく興味があったんですね。私たちの場合は、やはり収入合算ができなかったのでパートナー名義でローンを組むという形になったのですが、今後同じように物件購入を考えるカップルのお手伝いをできたら、という思いからすぐに連絡をしました」
REYANさん「私とUさんが『エルビアンTV』を始めた頃は、日本でカミングアウトするカップルはまだそこまで多くなかったんですが、今は確実に増えています。YouTubeやTikTokなどのバーチャルな場では、カミングアウトしている若いカップルも結構見かけます。ただ、SNS上ではオープンにできても、学校や会社といった、リアルの場では自分のセクシュアリティを偽らなければ、とプレッシャーを感じている人も多いのではないでしょうか。最近は、多様で誰もが働きやすい職場であるための取り組みをやってらっしゃる企業もありますが、本当にカミングアウトしても大丈夫なのかと不安な面も多いと思うんですね。だからこそ、自分らしく働ける職場としてKATATIに魅力を感じてくださる方が多いのかな、と考えています」
マジョリティが考えるべきこととは?

人事・営業担当のMARIA(まりあ)さん
当事者たちが課題意識を持って自ら動き出したKATATI不動産。では、「LGBTQではない側」の人が、意識すると良いことはなんでしょうか。
MARIAさん「ジェンダー平等という点で、性別に関係なく接して欲しいなと感じることはあります。不動産でよくあるのですが、男女のカップルの場合は男性側にだけお店の人が話しかけてくることがありますよね。そんな風に性別で態度を変える対応は控えてほしいなとは思います。LGBTQの考え方も同じ。セクシュアルマイノリティだから、ということは関係なく、同じように接することが大事なのかなと」
pooh.さん「特別に何かをして欲しいということはないんです。セクシュアリティ関係なく、自然に接してもらえたら。以前、職場でパートナーが同性だと打ち明けたら『それ、異性カップルには絶対聞かないよね?』という踏み込んだことまで一気に距離を詰めて聞かれたことがあって」
Uさん「見世物扱いになってしまうのは悲しいですね。お互いに尊重し合うことが大事なのかなと思います」
REYANさん「私は善意ある無視をしてほしい、と感じる場面が時々あります。『私、女の子とつきあっているんだ』と打ち明けたときに、『そうなんだ』くらいでさらっと終わるのが理想です。それに多くの人はセクシュアルマイノリティを他人ごとと思っているのかもしれませんが、マイノリティの幅って実はすごく広いんですよ。LGBTQの他にも、性欲がまったくない人、恋愛感情が湧かない人、性別がないと感じている人、いろんな人がいて、変化することもある。自分はLGBTQじゃないけど、この部分は該当するかもしれないな、っていう人も実は大勢いるはずなんです。そういう意味では、決して他人ごとではないと感じてほしいです」
仕事を通じて、人生の選択肢と自由を広げていくサポートを

現在、KATATIがカバーするエリアは東京・千葉・埼玉・神奈川の一都三県。今後もさらにエリアを拡大し、いずれは全国展開を目指していきたいと考えています。
pooh.さん「コロナ禍でなかなか実現できずにいましたが、そろそろオフラインのイベントも計画できたら。近接エリアに住むことになったお客さま同士が、気軽に交流できるコミュニティづくりにも今後は力を入れていくつもりです」
「仕事で大事にしていることは?」という問いには、4人が口を揃えて「ユーザーファースト」と答えました。まずは、目の前のお客さまを第一に考え、その積み重ねによって社会を変えていきたい。それがKATATIの目指す方向性です。
Uさん「クローゼット(セクシュアリティを隠したままでいること)で生きていく選択もありますが、カミングアウトすることで選択肢と可能性は広がっていく。そのことを一人でも多くのお客さまに伝えていきたいと思っています」
REYANさん「KATATIのYouTubeチャンネルも、登録数を増やすよりも一人でも多くの方に届くことを大事にしています。だから不動産情報の動画という感じではなく、LGBTQ当事者の4人組がいろんなことをやっているな、というぐらいの気軽な感じで見てくれたら嬉しいですね。私達が目指すのは、LGBTQフレンドリーな社会です。私達の楽しそうな姿を見て、LGBTQの方々に多くの選択肢を持ってもらったり、LGBTQではない方々には世の中にはたくさんの当事者がいるんだってことを知ってもらいたいです。その後に『不動産もやっているんだ。LGBTQだと住まいでこういう悩みに直面するんだな』って、不動産や暮らしのストレスを理解してもられば嬉しいですね」
公私を切り離すのではなく、むしろプライベートな体験を仕事の原動力に変え、社会をよりよい方向へと変えていこうと進む「KATATI」の働き方は、自律的なキャリアの構築を求められる今の時代のビジネスパーソンにとってもひとつの指標になるのではないでしょうか。
マイノリティでもマジョリティでも関係なく、誰もが平等に自分らしく働ける場所や生きやすい社会の実現を目指す4人の姿は、「自分らしく働くこと」のあり方を教えてくれました。

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