17年の専業主婦生活からの就職。人生後半戦のキャリアの積み上げ方

著者Indeed キャリアガイド編集部

投稿:2022年1月31日

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育児や介護、家庭の事情、病気など。ライフイベントで第一線を離れた女性が、再びキャリアを積み上げていくためにはどんな心構えが必要になるのでしょうか。

17年間の専業主婦生活を経て、47歳でバンコクでキャリアをスタート。日本での電話受付のパートや外資系ホテルなど、変化に富んだキャリアパスののち、現在は外資系ホテルの日本法人社長を務める薄井シンシアさんに、人生後半戦のキャリアの積み上げ方についてお聞きしました。

写真:薄井 シンシアさん
Profile
薄井 シンシア
1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。国費留学生として東京外国語大学を卒業後、貿易会社に勤務し、日本人の外務省勤務の夫と結婚。30歳で出産し、専業主婦に。5か国で約20年間暮らす。娘の大学入学を機に47歳でバンコクで再就職。その後、日本で時給1,300円の電話受付から一流ホテル営業開発担当副支配人、大手飲料メーカー勤務とキャリアを積み重ね、2021年春に外資系ホテルLOF Hotel Management日本社長に就任。最新著書は「人生は、もっと、自分で決めていい」(日経BP)。

「好き」で仕事を選んだことは一度もない

写真:薄井 シンシアさん

「私、好きなことを仕事にしたことは一度もありません」

LOF Hotel Management日本社長を務める薄井シンシアさんは、自身のキャリアを振り返ってきっぱりそう言い切ります。

貿易会社勤務から17年間の専業主婦生活を経て、バンコクではカフェテリアのマネージャー職に従事。日本に帰国後は、電話受付のパートを出発点に、更なるキャリアへと踏み出したシンシアさん。

その後、仕事ぶりが評価されてANAインターコンチネンタルホテル東京、シャングリ・ラ ホテル東京勤務を経て、2018年からは日本コカ・コーラへ。

東京2020オリンピック・パラリンピックのホスピタリティシニアマネージャーに抜擢されますが、コロナ禍によるオリパラ延期で業務は大幅に縮小。その数年前には夫と離婚していたこともあり、ひとりきりでの自宅待機の日々が続きました。

そして、2021年2月には失職。それまでの経験を活かしてホテル・観光業界へ戻ろうとするも、コロナ禍において壊滅的なダメージを受けていた同業界に、新たな人員を受け入れる余裕はまったくありませんでした。

冷静に状況を判断したシンシアさんは、これまで培ってきた経験やスキルを思い切りよく手放し、徹底的に現実を見据えた転職活動を始めます。

「求人検索エンジンを一通り検索して、ハローワークにも通いました。そこでわかったことは、当時61歳だった私が就ける仕事は、警備、介護、保育、小売の4種類しかないという現実。それならば私が今、このなかでできることは?小売しかない、と判断してすぐに近所のスーパーに応募し、レジ係の仕事を始めました」

シンシアさんは「好きを仕事に」という論調には否定的です。

「好きを仕事にできるのは、ごく一部の人だけ。それなのに大多数の人にその思想を押し付けるのは傲慢です。私だってホスピタリティが好きでホテルに勤務していたわけじゃない。今、市場が何を求めているか、どこにニーズがあるのかを見ながら、目の前のできることをただ真剣にやってきただけなんです」

スーパーのレジ打ちからホテル社長へ

写真:薄井 シンシアさん
2021年11月にオープンしたばかりの秋葉原のホテルで仕事に励むシンシアさん。

人生初のレジ打ち業務については、「覚えることがたくさんあって大変でしたが、この年齢でまた新しいことができた、という自信にもつながりました」と語るシンシアさん。

業務にも慣れた数週間後、以前に登録していた転職エージェント経由で、海外の不動産会社から「近く日本に進出するホテルの総支配人になってもらいたい」と打診されます。時給1,300円のパート業務をしている立場であれば、一も二もなく飛びつくような条件でしたが、シンシアさんはその申し出を一度は断ります。

「オンライン面接でまず一度お話をして、ホテルの建設予定地も住所を聞いて実際に見に行きました。でも、自分のなかで興味が持てなかったのでお断りしたんです。それで変わらずスーパーのパートを続けていたのですが、何度も熱心に説得されるうちに、考えが変わってきて。それで条件を交渉して、受けることにしました」

コカ・コーラのマネージャー職からスーパーのレジ打ちを経て、62歳で外資系ホテルの日本社長へ。人生の後半戦で誰とも似ていないユニークなキャリアを形成しているシンシアさんが、オーナーに出した条件は2つ。

ひとつは、総支配人ではなく日本法人社長の肩書にすること。

「肩書なんて私自身はどうでもいいんです。でも時給1,300円のレジ打ちのパートをしていた62歳女性がホテルの社長になった、というストーリーのほうが注目されるでしょう?女性の総支配人は結構いるけれども、女性社長はまだそういない。日本ではまだ無名のブランドだからこそ、そういう仕掛けが必要だと思いました」

シングルマザーや未経験者も積極的に採用

写真:薄井 シンシアさん
受付業務を行う阿利さんは美容院勤務を経て「LOF HOTEL Akihabara」に転職。外資系ホテル勤務は未経験でしたが、彼のやる気を見込んで採用されたそう。

もうひとつの条件は、採用権限をシンシアさんに一任すること。スタッフの採用にこだわったのは、「シングルマザーや元専業主婦など、多様な人材が働ける職場」を自ら創り出すためでした。

「多彩な人材を獲得するために、求人検索エンジンでの掲載に加え、シングルマザーフォーラムに連絡をしてメルマガにうちのホテルの求人情報を載せてもらうなど、経歴で判断することがないように、いろんな形でホテルのPRをかけました」

そんな取り組み以外にも新聞に載ったシンシアさんのインタビュー記事を読んだ地方在住の50代女性が、わざわざ履歴書を持参して上京してくるケースもあったのだとか。

「彼女はホテル勤務経験こそゼロでしたが、とてもやる気があったんです。その時点でスタッフはいっぱいでしたが、『何でもやります』という意欲を見込んで採用しました」

薄井さんは、清掃業務で雇った人にも、フロント業務について勉強してもらう機会を与えています。

「清掃だけでなく、私はスタッフに成長の機会を積極的に与えたい。どんどん挑戦して欲しいんです」

他にも、大手総合スーパーで7年間レジ打ちを経験したシングルマザー、お弁当工場やクリーニング店で働いていた業界未経験の男性なども積極的に採用。この方々は皆、ホテル勤務経験の長いスタッフから熱心に多くを学び、急成長を遂げているそうです。

ブランクを経て、再び働きたい女性たちへ

写真:薄井 シンシアさん

新時代の女性のロールモデルとなっているシンシアさんの姿に、憧れ、励まされる女性は少なくないでしょう。ブランクを経て再び働きたいと願いながらもためらっている女性たちに、「新しい場所でチャンスを掴んでいく」ために大切なことは何か、シンシアさんにアドバイスをもらいました。

「過去の実績や自分の好きは無視して、どこに仕事があるかを探してみてください。『私は昔、広報でバリバリ働いていたので同じ仕事がいいです』と過去に縛られたままだったり、『自分はSNSが苦手なのでそれはできません』とやる前から諦めてしまったりする人が多いのではないでしょうか。見方や認識を変えて、自分で実力を育てていく必要があります」

では、具体的にどんなことから手をつけていけばいいでしょう?

「まずは情報収集です。 Indeed などの求人検索エンジンをひたすら見て、世のなかにどんな仕事があるのか、今の自分ができるのはどのあたりなのかをしっかり把握しておく。働く上で不安要因があるならば、どうすればそれをクリアできるかも可視化しておきましょう」

その上で、「実際に応募するのであれば正社員にこだわらないほうがいい」というのがシンシアさんの持論です。非正規雇用よりも正社員のほうが安定していますが、なぜ「正社員にこだわるべきではない」のでしょうか?

「ブランクから復帰して再び働くのであれば、なおさら、やる気や実力で評価される居場所を探していくべきだからです。正社員がダメなのではなく、最初から『次に入った会社に死ぬまでいよう。だから正社員じゃなきゃ』という思考であることがダメ。ひとつの会社で正社員になれたらずっと安泰なんて時代は、とっくに終わっているんですから」

リスクは避けるのではなく計算すべきもの

写真:薄井 シンシアさん

ちなみに、LOF HOTELのスタッフを採用する際に、シンシアさんが重視するポイントは、次の2点だそうです。

「やる気があること、そして自律的に学べることです。ただ受け身で与えられた仕事をこなすのではなく、業務外のことも周囲を見ながらどんどん学び、盗んでいける人が伸びます。そんな風に働いていた私にチャンスをくれた人たちがいるから、今の私がいる。だから、私も下の世代に同じチャンスを与えてあげたいんです」

チャンスがあっても、新しいことに飛び込むリスクや恐怖から、前に進めない人もいます。

シンシアさんは「リスクは避けるものではなく、計算すべきもの」と考えています。

「多くの日本人はリスクを『避けるべきもの』と考えがちですよね。でも本来リスクは『計算すべきもの』。最初に現職の打診を断ったとき、私は時給1,300円のレジ打ちでも暮らしていけるかどうかを真剣に計算しました。私の生活ってお金がかからないんですよ。同じ服を着て、同じ定食屋でごはんを食べて、ブランド品への興味やこだわりもまったくないから。それなら社長職で失敗してレジ打ちに戻ったとしてもやっていける、そう判断したから今の仕事を始めたんです。

ブランクがあることからの就職は、不安なことも多いしリスクは避けたくなるでしょう。そんなときこそ、まずはリスクの計算をしてみてください。一人で悶々と悩むようであれば、誰かに相談して客観的なアドバイスをもらうのもいいと思います。

私は、社長職に就くリスクを計算し、失敗すればまたレジ打ちに戻ればいい、その事実を受け止められる、と思ったから新しいチャレンジに踏み出せたのです」

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