心理学の分野19種類を分かりやすく解説

更新:2023年4月18日

心理学の専門家と言えば、オフィスでカウンセリングを行っているというイメージを多くの人が思い浮かべますが、実際の心理学者や公認心理師はさまざまな場所で働いており、専門分野に応じて多様な仕事をしています。しかし、どの心理学者や心理師にも1つ共通しているのは、人間の行動を観察することです。そして、その観察の結果を踏まえて具体的に何をするのかについては、専門とする心理学の分野によって異なります。

この記事では、心理学とはどのような学問なのかを詳しく説明し、さまざまな心理学の分野をご紹介します。もしかしたら、興味を引かれる分野が見つかるかもしれません。

心理学とは

心理学は人の心に関する学問で、人の心が行動に与える影響についても研究対象としています。心理学の専門家は、クライアントに対するカウンセリングを行う心理師と、特定の被験者のグループを対象として、その行動パターンを分析する心理学者に大別されます。心理師はカウンセリング時に薬を処方することはできませんが、クライアントの治療の一環として薬の処方が効果的だと思われる場合には、クライアントを精神科に紹介することがよくあります。

一方、心理学者は特定のテーマの研究や調査を実施したり、企業や個人に対して専門的なアドバイスを提供し、社会現象などについて解説することもあります。

心理学の分野19選

心理学の各分野には、それぞれの目的や問題意識があります。次に、心理学に含まれる19の分野を簡単にご紹介します。

1. 行動心理学

行動心理学は、人間の最も基本的な学習と行動を明らかにすることです。行動心理学者は、学習と行動を促す要因や、学習と行動の関係を解明するための研究を実施します。

2. 生物心理学

生物心理学とは、人間の脳や行動に影響を与える生物学的要因を研究する分野です。研究者は、個人の被験者を対象として、その人の平常時や特定の状況における感情、思考、行動に影響を及ぼす生物学的要因の有無を判断する研究を実施します。生理的な過程や、脳の詳細な機能などは、すべての人間行動に関係しているので、生物心理学の分野はとても重要です。

3. 臨床心理学

臨床心理学は心の病に関する研究分野で、精神病理学や異常心理学と重なる部分があります。臨床心理学者は、精神疾患にはどのような症状があり、どのようなきっかけで発症するのか、そしてクライアントがなるべく元の状態に戻るにはどうすれば良いかを明らかにしようとします。また、公認心理師は患者の状態をアセスメントし、カウンセリングを実施します。

臨床心理学はさまざまな場面で活用されており、公認心理師が働く場所は病院やメンタルクリニックのほか、開業臨床など多岐にわたります。その中には、子どもや高齢者のような特定のクライアントを専門とする人もいれば、物質依存などによって引き起こされる問題行動を専門とする心理師もいます。

4. 認知心理学

認知心理学は、人の認知活動を研究する学問です。認知心理学者の中には、人間の意思決定や問題解決のプロセスを研究する人もいれば、言語発達、記憶、知覚などのテーマについて研究する人もいます。また、記憶の経時変化による歪みも研究対象となります。

5. コミュニティ心理学

コミュニティには、精神保健上の多くの問題が存在します。コミュニティ心理学では、このような問題へのアプローチの研究を行い、コミュニティの人たちに情報を提供したり、問題の再発を防ぐプログラムを開発したりすることで、コミュニティとそこに暮らす人々の生活を改善することを目的としています。コミュニティ心理学の専門家が働く場所としては、地方公共団体、福祉団体、学校などが挙げられます。

6. 比較心理学(動物心理学)

比較心理学は、人間と動物の行動の類似性や相違点を検証する学問です。特定の状況や刺激に対する動物の行動や反応を観察し、その結果を踏まえて人間の行動に対する理解を深めようとします。

7. 消費者心理学

消費者心理学(マーケティング心理学)は、消費者の行動を研究する分野です。消費者心理学の知見により調査を実施することで、企業は自社の顧客について理解し、その情報をマーケティング戦略や意思決定の参考にすることができます。

企業が消費者心理学を活用して把握できる情報としては、自社のターゲットとなる顧客層の特徴、顧客層の行動に影響を与える要因、顧客層が購入を決める過程、特定の商品やサービスに対する顧客層の感情などが挙げられます。また、消費者心理学の専門家は、市場調査を実施し、消費者の購買行動を観察します。

8. 発達心理学

発達心理学では、人生の各段階で見られる行動、言語、身体機能などの変化に注目します。発達心理学者の中には、幼児期や思春期、青年期、成人期、老年期など、特定の発達段階に注目する人もいれば、生涯発達全体を研究の対象とする人もいます。また、発達心理学を専門とする心理師の仕事は、子どもの発達の遅れを判定することや、老年期の認知機能低下のアセスメントやそのケアなど多岐にわたります。

9. 教育心理学(学習心理学)

教育心理学は、人間の学習プロセスに注目する分野であり、学習障害もその対象に含まれます。教育心理学の研究者は、学習プロセスに対する認知的および社会的要因の影響を研究しており、学習障害を持つ子どもやギフテッド(生まれつき高い知性や能力を持つこと)の子どもなど、特定のグループの子どもたちに対する学習方法について、教員や保護者にアドバイスをすることもあります。

10. 環境心理学

環境心理学とは、環境と、その中で生活したり交流したりしている人々との関係を研究する分野です。また、生活環境に対する人間の行動の影響を明らかにすることも、環境心理学の目的となります。ここで言う環境とは、自然環境を指すこともあれば、人工的な環境を指す場合もあります。環境心理学者の中には、政府機関と協力して、自然環境や労働環境に関する政策の立案に協力している人もいます。

11. 進化心理学

進化心理学は、人間の行動と進化の関係や、人類が進化の過程の中で自らの適応状態をどのように変化させてきたのかを研究する分野です。進化心理学者は、人間の適応力や、人類が何万年も生存することができた理由を解明しています。

12. 司法心理学

司法心理学は、刑事司法制度を構成する警察などの機関と連携することが多い分野です。司法心理学者の仕事としては、犯罪加害者の心理や行動を分析すること、加害者の心理状態を心理検査でアセスメントすることなどが挙げられます。また、司法分野の心理師の場合、犯罪被害者のケアを行うこともあります。

13. 健康心理学

健康心理学とは、心や体の健康と、この2つの相互作用について、行動や生活様式、社会集団などのさまざまな要因に基づいて研究する分野です。健康心理学の研究者は、これらの要因を踏まえた上で、人の全体的な健康状態や特定の疾病を改善するにはどうすれば良いのかを調査します。また、患者が健康維持のためにできることについてアドバイスしたり、ケアのプログラムを考案したり、個別の対処法を指導したりすることもあります。

14. 産業・組織心理学

産業・組織心理学は、ビジネスの現場を研究対象として、人の感情やモチベーションが職場で刺激される要因、企業が従業員の生産性を向上させる方法、従業員の離職を防いだり仕事に対する満足度を向上させたりするための手段などを検証する分野です。

15. 神経心理学

神経心理学は、脳と行動や思考と認知の関係を研究する学問です。神経心理学の専門家は、高次脳機能障害や認知症など、脳の損傷や疾患を経験したクライアントの記憶や認知能力を医師の指示の下でアセスメントを行います。また、医師や他の医療職と協力して、ケアプランの作成や家族へのアドバイスを行うこともあります。

16. パーソナリティ心理学

パーソナリティ心理学は、人のパーソナリティがその人の行動に与え得る影響について研究する分野です。パーソナリティ心理学の専門家は、パーソナリティに影響を与える要因があるとすればそれは何か、パーソナリティがその人の判断力にどのような影響を与えるのか、そして特定の疾患に関連するパーソナリティの特性はあるのかどうかを明らかにしようとします。

17. 実験心理学

実験心理学では、特定のテーマに関する調査や特定の被験者の集団に対する実験を行い、そのデータを解析し、分析します。多くの場合、実験心理学の研究者は、自身の発見を公に発表し、実験の成果を他の心理学の分野の研究者と共有することで、さまざまな心理学の分野の発展につながる重要な情報を提供しています。

18. 学校心理学

学校心理学を専門とする心理師は、学校現場で子どもたちの支援に取り組みます。たとえば、社会的な場面や教科の学習、何らかの行動に関する問題を評価し、それを解消します。また、教師や保護者、学校関係者との協力の下、児童や生徒が何らかの問題に直面している状況を解決するためのプランを考案します。

さらに、児童や生徒へカウンセリングを実施し、学校でのストレスに対処するためのアドバイスやケアを提供します。学校における心理師の役割の1つは、すべての子どもが安全に学習や学校生活を過ごせる環境を整えることです。

19 . 社会心理学

社会心理学は、ある社会集団に所属する人々が互いに与える影響について研究したり、特定の社会的場面にいる人がどのような振る舞いをするのかを解明したりする学問です。社会心理学の研究では、人への態度やコミュニケーションのスタイル、他者への攻撃、流言蜚語の発生メカニズムを検証します。


監修
田代 信久(たしろ のぶひさ)
帝京平成大学 人文社会学部 准教授
公認心理士、臨床心理士、ストレスチェック実施者
横浜国立大学大学院 教育学研究科 学校教育臨床専攻修了(教育学修士)
スクールカウンセラー、病院勤務心理師、治験テスター、子供家庭支援センター心理職、企業での心理相談、短大講師、発達障害児に関する巡回相談、乳幼児検診業務などに従事。
帝京平成大学及び帝京大学においては心理学概論、発達心理学、医療心理学、臨床心理学、カウンセリング、教育相談、視能心理学を担当。


シェアする

こちらの記事もおすすめです

  • 傷病手当金はもらわないほうが良い?デメリットと制度改善による現状を解説
  • 【完全版】戦略目標の策定ガイド
  • 会社都合退職者がいると助成金は出ない?該当項目や受け取り方法も解説
  • 5年後のライフプランの立て方(テンプレートと作成例あり)
  • 【スモールステップ】やる気を維持しながら目標に近づく方法
  • プロジェクトの成功度を測定する6つの方法
  • 介護による時短勤務は可能?制度や期間中の給料も解説!
  • マネジメントに関してよくある12の課題とその解決方法
  • 経営者や管理職にとって意思決定力が欠かせない理由とは?
  • 新しいことに取り組みたい!習慣を変え、定着させるコツ
  • 慣れたときこそ要注意!オンライン会議でNGなしぐさとは
  • 採用企業が求める15のスキルと性格特性