農業をはじめるには

農業は、米や野菜、果物の栽培、酪農や養豚などの畜産に携わる仕事です。農業を通じて収入を得る農家は、私たちの食を支えるうえで欠かせない存在です。農家になるために学歴や資格は問われませんが、農業大学や専門学校などであらかじめ知識を学んでおくとよいでしょう。
この記事では、農業の仕事内容や、なるための方法、年収とキャリア形成、将来性と就職状況についてご紹介します。
農業とは私たちの食を支える大切な産業
農業は、米や野菜、果物の栽培、酪農や養豚など多くの仕事があり、第一次産業の中核を成しています。農業を通じて収入を得る職業が「農家」です。
農業の意義は、食料を供給して届けることだけに留まりません。たとえば、生物保全や水質浄化など環境保全の役割や、土壌保護による防災機能、景観保護、文化継承など、実に様々な機能や役割を有しています。
農業の種類は「耕種農業」と「畜産農業」に大別できます。
耕種農業
米作農業やそれ以外の穀作農業、きのこ類を含む野菜作農業、果樹作農業、花き作農業、工芸農作物農業、ばれいしょ作農業、かんしょ作農業など土を耕して作物を育てる農業を指します。
畜産農業
酪農業や肉用牛生産業、養豚業、養鶏業、畜産類似業、養蚕農業など家畜や蚕を育てる農業を指します。畜産類似業とは、マウスやラットなどの実験用動物飼育業、カナリアや文鳥などの愛がん用動物飼育業、かぶと虫やすず虫などの昆虫類飼育業が該当します。
また、生産者となる農家は、耕地面積と農産物販売金額により「販売農家」と「自給的農家」に分類され、さらに「販売農家」は以下の3種類に分類されます。
販売農家
経営耕地面積30アール以上または農産物販売金額が年間50万円以上の農家
主業農家
農業所得が主(農家所得の50%以上が農業所得)で、1年間に60日以上自営農業に従事している65歳未満の世帯員がいる農家
準主業農家
農外所得が主(農家所得の50%未満が農業所得)で、1年間に60日以上自営農業に従事している65歳未満の世帯員がいる農家
副次的農家
1年間に60日以上自営農業に従事している65歳未満の世帯員がいない農家(主業農家及び準主業農家以外の農家)
自給的農家
経営耕地面積が30アール未満かつ農産物販売金額が年間50万円未満の農家
農林水産省発表の2020年農林業センサスによれば、平成27年のデータで販売農家のうち主業農家は22.1%、準主業農家は19.3%、副業的農家は58.6%でした。
農業は、種を撒くタイミングや肥料の有無、土のなかの水分量などによって作物の味が変わるため、奥深い仕事です。畜産も同様に、与える飼料や水、育てる環境によって乳製品や肉、卵などをオリジナルの味にできます。また、手掛けた野菜や果物、乳製品や肉などが名産品になれば、地域貢献にもつながるでしょう。
農家の仕事
農家の仕事というと、生産物を育てて収穫するところまでがゴールと考えがちですが、実はそれだけではありません。土作りから種まき、手入れ、そして収穫という一連の流れはもちろんのこと、農耕器具のメンテナンスや、育て方、品種に関する勉強、情報交換も欠かせません。
また、独立して農業を営む人は、マネジメントのスキルも必要です。品種や場所の選定をはじめ、収穫までのスケジューリングや販売経路の確保まで、すべてのプランを作り込まなければいけません。
ここからは、農家としての働き方をさらに詳しく掘り下げてみましょう。
作物別の仕事内容
現在の日本において、国産の生産額の約6割が耕種農業で、残りの4割が畜産農業とされています。以下で、作物別にどのような特徴があるのか見てみましょう。
稲作
日本人の主食となるお米を栽培します。農作業期間は春先から秋頃までが多く、水を張った田んぼに苗を植えて育てる「水田稲作」が主流です。苗作りや水田の管理など、季節や天候にあわせた細やかな対応が求められます。
露地野菜
キャベツや大根、レタスなど野外の畑で生産される野菜のことを言います。栽培できる品目が多く、大規模化も見込めます。また、他の作物よりも比較的初期投資が少なく済むため、新規就農者に選ばれることが多い傾向にあります。
施設野菜
ビニールハウスや温室などで栽培される野菜のことです。温度・湿度などのコントロールが可能なため、季節に関わらず生産ができます。年間を通して一定の収量が見込めるので、独自にジュースなどの加工品もあわせて製造している農園もあります。
果樹
日本では100種類以上の果物が生産されており、年に一度の収穫に向けて水や肥料を与え、害虫や病気から守るケアを通年で行います。産地ごとのブランド化や加工品の販売など、「6次産業化」に積極的な生産者が多いことも特徴です。
花き(花卉)
観賞用として生産される切り花や球根類、鉢物、花壇用苗物などを指します。比較的農地面積が小さく済みますが、様々な品目を組みあわせて栽培することが多く、豊富な技術や知識が求められる分野です。また、品種改良などの育種も盛んです。
畜産、酪農
牛や豚、鶏などの家畜を飼育し、食肉や乳製品、卵、皮革などを生産します。小規模な個人牧場から数千頭を飼育する法人牧場まで、幅広い規模で運営されています。野菜や果樹と比較してコストがかかるため、新規就農で扱うことはあまり多くありません。
農家としての働き方
農家の形態としては、主に「自営農家」と「農業法人」の2種類があります。先程ご紹介した「販売農家」と「自給的農家」は、耕地面積や販売金額により区別されていますが、「自営農家」「農業法人」は働き方によって区別されており、明確な定義は設けられていません。
自営農家
個人事業主として、完全に独立した形で農業を営む農家のことを言います。親族の後を継いで農業を行う場合も自営農家に当てはまります。
誰かから譲り受けることなく自営農家として新規就農する場合は、労働力や土地、資金、栽培技術などを自ら揃えなければいけません。しかし、育てたい作物や販売方法などを自由に決められるというメリットがあります。
農業法人
農業法人は、株式会社や農事組合法人などの会社として農業を営むことを言います。民間企業のように就業規則が整備されているため、多くの場合社会保険などの福利厚生も充実しています。農業法人に就職し、給与を得ながら就農します。
Indeed(インディード)で検索可能なデータによると、新卒を含む正社員雇用とアルバイト・パートの比率は約8:1となっています。*
なお、前述したように「自営農家」「農業法人」は法律上の用語ではないため、明確な定義は設けられていません。その結果として、個別経営を法人化した一戸一法人や兼業農家も含めた協業組織法人も存在します。
これらはあくまでも通称であって、前述した「専業農家」か「兼業農家」のどちらに該当するかは、農林水産省の区分方法をもとに判断しましょう。
農家の勤務時間、スケジュール
では、農家のスケジュールはどのようなものなのでしょうか。
農業は屋外での作業が多いため、基本的に日照時間にあわせて勤務することが大半です。日の出とともに作業を開始し、日没には作業を終えるという流れになります。
ここでは例として、農業者の夏の1日のスケジュールを見てみましょう。
5:00-7:30 農作業(収穫)
7:30-8:00 朝食
8:00-10:30 農作業(収穫調整・ほ場管理)
10:30-11:00 休憩
11:00-12:00 農作業(ほ場管理)
12:00-14:00 昼食、休憩
14:00-19:00 農作業(ほ場管理)
19:00-21:00 入浴、夕食
※ほ場・・・農地、農園
農業に関連するその他の職業
農業に関わりたいと思うなら、直接的な生産者になること以外にも様々な選択肢があります。
たとえば、農業をはじめるにあたって農耕器具や肥料などの資材はなくてはならないものですし、農産物を育てるための種苗や育苗を提供する役割も非常に重要です。
バイオテクノロジーやITの進化によって新たに生まれた職業も少なくありません。近年では「スマート農業」と呼ばれる、農作業の負担軽減や新規就農者への技術継承などを目的とした、新しい農業形態も注目を集めています。
ロボットや情報通信技術を利用するもので、スマートフォンを利用した水田の水管理や、ドローンを用いた農薬散布などがその一例です。
農業をはじめるには
ここまでは、農業の概要や仕事内容について触れてきました。では、実際に就農するためにはどのような方法があるのでしょうか。以下で詳しく見ていきましょう。
農業を学ぶ方法
農業をはじめるにあたって、特別な学歴や資格は必要ありません。
しかし、何も技術や知識がないままいきなり農業をはじめることは難しいため、まずは農業がどのようなものなのかを学ぶことからはじめるべきでしょう。
農業を学ぶ方法は以下のとおりです。
学校で学ぶ方法
農業に関する総合的な知識や技術を身に付けられる道府県農業大学校や民間で運営している研修教育機関に入学する方法です。道府県農業大学は全国42道府県に設置されており、分野に応じた専門課程(畑作物や花き、酪農など)や高度な農業技術、経営能力などを学ぶことができます。
自治体やJAで学ぶ方法
自治体やJAが行っている農業研修に参加する方法です。たとえば、東京都の「青年農業者就農支援事業」では、東京都内で新規に就農を希望する人に対して就農相談を実施しています。
JAグループの新規就農支援では、実際に地域の農家のもとで指導を受けながら農作物の栽培技術と農業経営の実務を習得する実践研修に参加できます。参加先の農家や就農情報は、JAの公式サイトから検索可能です。
農業法人で働きながら学ぶ方法
農業法人に就職し、実際に働きながら農業を学ぶ方法です。プロの農家の農作業や農業経営を見ながらノウハウを習得できます。
人材育成を目的として農業未経験者を受け入れてくれる農業法人もあるため、未経験の人でも安心して農業に挑戦できるでしょう。
就農を応援する制度
農業をはじめる人に対する資金調達などの支援制度も存在します。ここではその一部をご紹介します。
農業次世代人材投資資金
農林水産省が実施している、次世代を担う農業従事者として新たに就農を希望する人材を支援する制度です。「準備型」と「経営開始型」の2種類があり、準備型は就農前研修を後押しする資金、経営開始型は経営確立を支援する資金をそれぞれ交付します。
青年等就農資金
JFC(日本政策金融公庫)が実施している、農業経営をはじめるにあたって必要な施設や機械の整備、家畜の購入費、長期的な運用資金など幅広い用途に対応した、無利子融資の制度です。自治体から青年等就農計画制度によって認定された新規就農者が対象です。
強い農業、担い手づくり総合支援交付金
農林水産省が実施する制度で、収益力の強化と担い手となる就農者の経営発展を推進することを目的としています。
支援される事業の内容により、「産地基幹施設等支援タイプ」「先進的農業経営確立支援タイプ」「地域担い手育成支援タイプ」の3タイプに分かれており、それぞれ助成対象や支援上限額が異なります。
持っていると有利なスキルや資格
農家になるために必須の資格はありませんが、農業を行う際に保有していると役立つスキルや資格をご紹介します。
普通自動車免許、大型特殊自動車免許
トラクターや田植機、防除機、コンバイン、軽トラックなどの運転のために「普通自動車免許」と「大型特殊自動車免許」を取得しておくといいでしょう。農業機械は免許がなくても操作できるものの、公道を走行する際に「大型特殊自動車免許」を持っていないと無免許運転となるからです。
農業機械士
農業機械の専門知識を持つ人に与えられる認定資格です。この資格を保有していなくても農業機械は操作できますが、農耕機械のメンテナンスや点検、整備を自分で行うことができるため、万が一トラブルが起こった際も迅速に対処することができます。
資格取得のためには、農業大学校が実施する農業機械士養成研修を受け技能検定に合格し、都道府県知事から認定されなければなりません。
毒物劇物取扱責任者
厚生労働省が管轄し、各都道府県が試験を実施する国家資格であり、国又は都道府県による登録を行います。農薬は農作物を害虫や病気から守るために用いられるものですが、用法用量を取り違えると人体に危険が及ぶこともあるため、慎重に使用しなければなりません。
この資格は農家になるために必須ではありませんが、取得しておくと適切に農薬や化学薬品を扱う知識、ノウハウが得られます。
日本農業技術検定
文部科学省や農林水産省が後援する、農業についての知識、技能を客観的に把握し、教育研修の効果を高めることを目的とした検定試験です。新規就農希望者や、農業法人や関連企業への就職を目指す学生や社会人を対象として日本農業技術検定協会が実施しています。
1~3級の等級に分かれており、1級と2級には筆記試験に加えて実技試験も課されます。検定に合格することで、農業学校への進学や農業法人への就職の際に優先採用となることもあるようです。
農家の収入の目安
Indeed で検索可能なデータによれば、農作業を行う人の平均年収は、全国で約285万円、地域別では、東京都で約408万円、大阪府で約280万円、北海道で約291万円などとなっています。*
また、農林水産省「令和元年農業経営体の経営収支(概数値)」によると、全農業経営体(全国)の農業所得は121.0万円、個人経営体(全国)の農業所得は114.7万円、法人経営体(全国)の農業所得は327.5万円という結果が報告されています。この結果から、法人経営体のほうが高い収入が期待できることがわかります。
農業関連ビジネスの求人傾向
最後に、農業に関連する求人の傾向を見てみましょう。
Indeed で検索可能なデータによれば、農業の求人は全国で8,800件以上あります。雇用形態の内訳は、正社員が44.8%と最も多く、次いでアルバイト・パートが39.2%、契約社員が19.0%、派遣社員が7.5%となっています。*
農業法人に就職して農家としてキャリアをスタートする場合は、正社員登用という働き方が一般的です。また、農業は繁忙期と閑散期の作業量の差が大きいため、繁忙期にはパート・アルバイトでの求人が増加する傾向にあります。
農業の求人情報は、インターネットでも探すことができます。まずは、Indeed で「農業」「農家」「農作業」などのキーワードで検索してみてください。
Indeed なら、勤務地や年収、雇用形態などで条件を絞り込むことができるため、自分の探したい求人情報を効率よく探せます。
*出典:平均年収・月給・時給及び求人検索件数は、求人検索エンジン Indeed において検索可能なデータより抜粋(2021年4月現在)
まとめ
農業をはじめると言っても、実に多くの就農形態があり、現状の農業従事者は個人事業主や正社員など様々な形で生計を立てていることがわかります。また、農業をするために必要な資格はありませんが、農業に関する知識をあらかじめ学んでおくといいでしょう。
国や地方自治体による支援制度もあるため、農業をはじめる際には事前に確認して、積極的に活用することをおすすめします。
Indeed で、ぜひ農業の求人情報を検索してください。
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