2022年4月1日から、101人以上300人以下の中小企業にも、女性活躍に関する情報公開などが義務化されました。今後、女性の採用に力を入れていく際に知っておきたいことの1つが、女性労働者の保護という観点から労働基準法で定められている規定です。うたしろFP社労士事務所の社会保険労務士、歌代将也さんに規定のポイントや注意点を伺いました。
労働基準法で女性労働者が保護される理由とは?
労働基準法とは、戦後間もない1947年に、新憲法のもとで労働者の最低労働基準を確保するという社会正義の実現を目指して成立・施行された法律です。その際、女性労働者については、妊娠・出産の機会があり、また男性に比べて体力などが劣ることを理由に様々な女子保護規定が設けられました。
しかし、時代は変わり、国際的にも男女差別撤廃の考え方が広がるなか、日本でも男女雇用機会均等法の改正などと併せて、男女が同一の基盤で働くことができるように女子保護規定も改正されてきています。
1999年には労働基準法の「時間外労働の制限や休日・夜間労働の禁止」の撤廃、2007年には「女性の坑内労働の原則禁止」の緩和など、男女差別につながるような一部の女子保護規定を改正。現行の労働基準法では、主に母性保護・母性健康管理の観点を重視した女性労働者に対する一定の規定が残っている状況になっています。
また、男女雇用機会均等法にも、女性労働者に対して「保健指導または健康診査を受けるための時間を確保する」「婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを禁止する」などといった、母性保護規定が設けられています。
労働基準法の女性の保護規定とは?
現行の労働基準法では、妊娠・出産に関する労働者への母性保護の観点から規制するものを中心に、主に以下のような女性の保護規定が設けられています。
・産前・産後休業(法第65条第1項及び第2項)
本人から請求があった場合、産前は6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性を就業させることはできません。また、産後は8週間、女性を就業させることはできません。ただし、産後6週間を経過後に、女性本人が請求して医師が支障ないと認めた業務については、就業させることができます。
・妊婦の軽易業務転換(法第65条第3項)
妊娠中の女性から請求があった場合には、他の軽易な業務に転換させなければなりません。
・妊産婦等の危険有害業務の就業制限(法第64条の3)
妊産婦(妊娠中の女性および産後1年を経過していない女性)を妊娠、出産、哺育などに有害な業務に就かせることはできません。
・妊産婦に対する変形労働時間制の適用制限(法第66条第1項)
変形労働時間制(繁忙期や閑散期に合わせて所定労働時間を柔軟に調整できる制度)がとられる場合であっても、妊産婦が請求した場合には、1日および1週間の法定時間を超えて労働させることはできません。
・妊産婦の時間外労働、休日労働、深夜業の制限(法第66条第2項及び第3項)
妊産婦が請求した場合は、時間外・休日労働、深夜業をさせることはできません。
・育児時間(法第67条)
1歳未満の子どもを育てる女性から請求があった場合には、休憩時間のほかに、1日2回、それぞれ少なくとも30分の育児時間を与えなければなりません。
・生理休暇(法第 68 条)
生理日に就業が困難な女性から請求があった場合には、就業させることはできません。なお、半日または時間単位で請求が行われた場合は、その範囲で就業させなければ良いとされています。
また、上記のほかにも、坑内業務の就業制限(法64条の2)や、危険有害業務の就業制限(法64条の3)もあります。
違反した場合の罰則は?
労働基準法の上記の項目に違反した場合は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。ただし、坑内業務の就労制限は1年以下の懲役または50万円以下の罰金、生理休暇については30万円以下の罰金となっています。
女性保護の観点で注意しておくべきことは?
妊娠や出産は、女性に直接的に影響のあるライフイベントですが、その後の育児については、性別を問わず関わりのあることがらです。
しかしながら男性中心の組織では特に「女性には、妊娠や出産があるから」と一部の人のみの問題にしてしまいがちです。日本はジェンダーギャップが大きいと言われていますが、こういった昔から根付く考え方が、女性の管理職が増えない要因の1つにもなっているのではないでしょうか。
男性の育休取得を促進するため育児・介護休業法が改正され、2022年4月から段階的に施行されています。女性だけを特別視するのではなく、性別に関わらず、仕事とプライベートが両立できるよう社内の制度や体制を整え、従業員一人ひとりを保護するという考え方を持つことも大切ではないでしょうか。
※記事内で取り上げた法令は2022年6月時点のものです。
<取材先>
うたしろFP社労士事務所 社会保険労務士 歌代将也
TEXT:武田明子
EDITING:Indeed Japan + ミノシマタカコ + ノオト