愛知県内の人口10万人以上の自治体の中で、高齢化率1位となっている瀬戸市。同市でダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を経営方針に取り入れている大橋運輸では、積極的に高齢従業員を採用して活躍の場を生み出しています。高齢の従業員が活躍するために、従業員の健康管理に力を入れながら、地域の課題解決にも携わる同社の取り組みについて鍋嶋洋行代表と、同社で管理栄養士を務める太美善さんに話をお聞きしました。

健康な高齢者の活躍を創り出す

――高齢者の採用に積極的に取り組むようになった背景について教えてください。

鍋嶋代表:全国の各地域と同様、大橋運輸がある愛知県瀬戸市でも高齢化が進んでいます。会社が定める年齢に達したら、どんな人でも定年退職となる現状はありますが、定年を迎えてもまだまだ働ける人は大勢います。せっかく本人の努力や習慣で健康を維持し、まだまだ働ける状況なのに、活躍の場がなく困っている人がいるのはおかしいという思いから、2012年に60歳以上の高齢者の採用を積極的に取り組み始めました。これまでに70歳の人を採用した実績もあり、65歳以上の従業員は5人在籍しています。(2022年3月現在)

高齢従業員のドライバーに対しては、かなり綿密な健康チェックを行って万全な安全管理を行っています。また、採用時ドライバーであっても、65歳以上からは適齢診断、健康診断、本人との面談を通じて、運転を継続するか、転移配置するかを決めています。また、2018年から管理栄養士の雇用を始めて以来、さらに健康サポートに力を入れています。そのかいもあってか、直近5年間は高齢者による車両事故、人身事故は発生しておりません。

高齢従業員へのサポートを意識した具体的な取り組み内容としては、雇用延長制度を導入しています。そして、「何よりも健康が大事」という考えのもと、80歳までに20本の歯を残すことを目指す「8020運動」として、4月18日(よい歯の日)、11月8日(いい歯の日)に全従業員に歯ブラシを無料配布するほか、日曜日に地域の歯科医の協力を得て無料歯科検診を実施し、必要があれば治療も行ってもらっています。禁煙の取り組みにも力を入れていて、禁煙外来の診療費補助や禁煙成功者の表彰も行っています。さらには、「健康の基本は食事」という考えのもと、生産農家から栄養価が高い旬の野菜や果物などの食材を仕入れて、全従業員に無料で配布する活動も行っています。

「治療より予防」を掲げて管理栄養士を配置

――中小企業において、社内に管理栄養士がいるのは珍しいことだと思います。管理栄養士の太さんはどのような仕事に取り組んでいますか?

太さん:大橋運輸では、「治療より予防」という考え方を大切にしているので、健康な体づくりの基本となる食育をメインに従業員の健康管理に取り組んでいます。いつでも健康相談ができるよう社内用のLINEグループを開設し、それを通じて毎週月曜日の夕方に、健康に役立つ情報を配信しています。

また、健康診断の結果についても再検査となった項目だけでなく、要観察の項目にも着目し、生活でどんなことに気をつけたらよいかなどのアドバイスを個別で行っています。

仕事上も健康第一ですが、定年後も元気で暮らせることが大切で、そのためにも現役のうちから健康習慣を身につけていくことが必要だと考えています。こうした健康指導は、社内だけでなく地域でも実施しています。毎週水曜日に市内で無料の健康相談を実施し、地域の皆さんの健康にも携わる活動も行っています。

――健康づくりに取り組むにあたり、工夫した点はありますか?

鍋嶋代表:たとえば、朝食を食べない人に、バナナやトマトジュース、ゆで卵などを提供しているのですが、「今まで朝食を食べなくても問題なかったのに、なぜ食べないといけないのか」という意見も出て、長年の習慣を変えることの難しさを痛感しました。しかし、朝食を取ることにどんなメリットがあるのか、朝食が必要な理由を一つ一つ説明していくことで、少しずつ社員全体の意識は変わってきたと感じています。

地域課題解決で企業イメージと従業員スキルを向上

――高齢者雇用も地域貢献につながると思いますが、他にも地域のために大切にしていることを教えてください。

嶋代表:大橋運輸では、事業を通して社会課題を解決していくCSV(Creating Shared Value)経営に取り組んでいて、毎月1回は、従業員が参加して地域のイベントを実施しています。

たとえば、小学校での交通安全教室や特殊詐欺被害防止講座、防災イベントの開催などです。これらのイベントに従業員が出向いて話をするのですが、当初は「人前で話をするなんて……」と及び腰だった人も次第に慣れ、今では上手に説明できるようになり、確実に個々のスキルアップにつながっています。また、絶えず毎月イベントを実施することで、地域の皆さんに対する企業のブランディングにもなり、仕事の問い合わせが増えるという成果につながっています。

物流の仕事は製造業などと違って、かたちがあるものではなく身近に感じてもらう機会も少ないので、地域活動を通じて会社や従業員のことを知ってもらうことが、会社への信頼感の醸成に役立っていると感じています。

――高齢者を採用することで、どのようなメリットが生まれていますか?

鍋嶋代表:経験豊かな高齢ドライバーの高い技術が、若い社員にも良い刺激を与え、チームワークは確実に良くなりました。

また、高齢になればなるほど、健康への意識が高くなってくるので、それが若い従業員にも影響し、社内全体の健康意識の高まりにつながっています。

中小企業こそ従業員の健康管理を

――今後、高齢者雇用を推進していく中小企業の皆さんにメッセージをお願いします。

鍋嶋代表:高齢者雇用を支える重要な役割を果たすのが管理栄養士の存在です。中小企業で管理栄養士を配置している会社はまだまだ少ないと思いますが、従業員全体の健康管理は、会社の業績や従業員の幸福度に大きく関わります。もし、社員が不調になった場合に大きなダメージを受けやすいのは、大企業よりも中小企業です。それを防ぐためにも、日頃から行う従業員の健康管理を通じて、管理栄養士が大きな役割を果たしてくれるはずです。

私たちは、売上だけを追い求める企業ではなく、従業員が働きやすく、地域の中で信頼感を持ってもらえるような存在を目指しています。現在は、年間1000万円ほどを従業員に対する健康管理や増進の取り組みに使い、酸素カプセルやバランスボールなどを用意して就業中でもリフレッシュできる時間を設け、個人のプライベートの趣味を支援する取り組みも行っています。

地域の皆さんに「大橋運輸は良い取り組みをしているね」「大橋運輸なら安心だ」と言っていただきながら、これからも従業員が健康でいきいきと活躍できる環境で仕事に取り組んでもらいたいと考えています。




※記事内で取り上げた法令は2022年2月時点のものです。

<取材先>
大橋運輸 代表取締役 鍋嶋洋行さん
管理栄養士 太美善さん

1954年創業。愛知県瀬戸市に本社を構え、従業員数106人。法人を対象に陶器や自動車パーツなどの輸送を請け負うほか、街づくりに貢献するための地域の環境活動やSDGs、D&Iのセミナーなど社会課題の解決を目指した取り組みを継続している。

TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト