Z世代は性的マイノリティであるクィアの割合が最も多い世代だと言われています。ダイバーシティやインクルージョンへの関心が高いZ世代が、将来の職場に求めることとは。米国のZ世代の率直な意見や、企業へのアドバイスを紹介します。


米国の世論調査会社、ギャラップが2月に発表した調査では、Z世代の成人の6人に1人が自身のジェンダーアイディンティはLGBTQ+だと回答しました。この数字は、ミレニアル世代でLGBTQ+を自認している人数のほぼ2倍に等しく、さらに上の世代ほど差は広まります。

この結果は、将来の働き方にどう影響するのでしょうか。若い求職者やキャリアが浅めの社会人の意見に耳を傾けると、Z世代はダイバーシティやインクルージョン、インターセクショナリティ(人種や宗教、ジェンダーといった複数の属性を基に多層的な差別が行われている構造)に高い関心を持ち、人を大切にした働き方を求めていることが見えてきます。

将来勤めるかもしれない会社や職場にZ世代は何を求めているのか。それを理解するため、今回の記事では、米国のZ世代の率直な意見や、企業へのアドバイスを集めて紹介します。

聞き取り調査に応じてくれたのは、クリエイターやリーダー、LGBTQ+コミュニティのメンバー、LGBTQ+支援を表明するアライの皆さん。将来の働き方はこうした若い社会人が形作っていくのかもしれません。

その内の1人、Maia Ervinさんは「上の世代に比べ、Z世代は採用企業へ求めることが多いと思います。ミレニアル世代では問題のなかったことでも、Z世代には通用しないでしょう」と話しています。

Kahlil Greeneさん : Z世代のインクルージョン専門家

Greeneさんは学校や非営利団体、一般企業と協力し、Z世代のためのインクルーシブな職場の実現に取り組んでいます。SNSでは「The Gen Z Historian」というアカウント名で、米国の歴史や政治について解説しています。

多様なZ世代の求職者を惹きつけて定着させるため、求職者が何を求めているのかについて、企業がダイバーシティとインクルージョンの専門家にアドバイスを求めることが増えています。米ホワイトハウスで働いたこともあるGreeneさんは、そうした依頼に応える専門家の1人です。

「ダイバーシティとインクルージョンの専門家は、組織が直面し得る問題や解決策を熟知していますが、提供できるのはアドバイスのみです。組織の改善点は、そこで働く人たちが一番よく理解しています」と彼は言います。

だからこそ、従業員が不安や疎外感を感じた時には自ら声を上げ、社内に伝える方法があることが大切です。そのためには、アクセスしやすく、有意義なフィードバックを提供できる機関を整える必要があるでしょう。

Greeneさんはまた、インターセクショナリティがもっと意識されるべきだと考えています。インターセクショナリティとは、人種や宗教、性的指向など、個人やグループの持つ属性により、差別は多層的で交差しているという考えです。

「ある職場主導のLGBTQ+コミュニティのイベントに参加すると、出席者のほぼ90%が出生時の性別と性自認が一致するシスジェンダーの白人男性だったことがありました。

また、アフロラテン系である私の友人は、ラテンアメリカ系のアフィニティグループ(小規模の社会活動グループ)に彼女のような見た目の女性はほとんどいないと言っていました。

このように、ダイバーシティ推進を目的とする場自体に、多様性が欠如してしまっているのではないかといった議論を、現場で耳にすることはほとんどありません」。

Lily Joy Winderさん:非営利団体「Gen-Z for Change」のコミュニティインクルージョンコーディネーター

スタンフォード大学の1年生のWinderさんは、Z世代間の議論と政治活動を推進する非営利団体「Gen-Z for Change」で、Community Inclusion Coordinatorを務めています

LGBTQ+従業員は、他の属性の従業員と比較して経済的な苦境を経験することが多いため、採用企業にはもっと思いやりをもって対応してほしいとWinderさんは考えています。

たとえば、米国で実施された2021年度の国勢調査によると、LGBTQ+以外の家庭と比較した場合、十分な食料を買えなかったり、経済的な不安を感じたことがあるLGBTQ+の家庭は2倍近くあるという結果が出ています。

「私は、LGBTQ+であることを理由に両親から経済的支援を打ち切られることを常に恐れ、最低賃金の仕事で働き続ける10代後半のクィアや、トランスジェンダーの人々を目にしてきました。

これは黒人やヒスパニック系のLGBTQ+の人々には特に顕著に見られる傾向です。採用企業はすべての従業員の人間性を尊重して対応する必要がありますが、従業員がLGBTQ+であることを把握している場合には、なおさら思いやりが求められます」とWinderさんは話します。

「雇用主からのちょっとした思いやりと理解が持つ影響力は、長期的かつ大きなものです」。

Claire Tadokoroさん:コメディアン、クリエイター

Tadokoroさんは、現代の職場に存在する奇妙な習慣を笑い話にするライター、コメディアン、クリエイターです。

Tadokoroさんは人事部門の弱点や失敗について、数えきれないほどのコメディのネタを集めてきました。

「人事関連の動画が多いので、私が人事の仕事をしていると勘違いしている方も多いです」と彼女は話します。Tadokoroさんのコンテンツは主に人を笑わせるものですが、従業員が雇用主に求めるべきことについては、真剣に考えてきたと言います。

「LGBTQ+の従業員に限らず、すべての従業員に対して雇用主ができる最も重要なことは、アクセシビリティの向上に向けた取り組みだと考えています」。

Tadokoroさんは、企業は説明責任を果たしていくために、次のような厳しい問いに自ら答え続けていく必要があると話します。

「従業員向けにリソースグループを提供しているか。LGBTQ+の従業員に対して、不妊治療費用の払戻しや有給の育児休暇、性別適合のヘルスケア、従業員支援プログラムなどの福利厚生があるか。すべてのジェンダーアイデンティティの従業員が安全にアクセスできるトイレになっているか」などです。

Tadokoroさんはまた、従業員主体でダイバーシティとインクルージョンを実現する職場を目指す従業員リソースグループ(ERG)は、もっと広まるべきだと言います。「ERGは人々が自分にとって大切なことを話し合い、質問できる安全な場所です」。

Shruti Rajkumarさん:ジャーナリスト、非営利団体「Asian Americans with Disabilities Initiative」支援活動担当ディレクター

最近エマーソン大学を卒業したRajkumarさんは、社会から疎外されてきたコミュニティ、社会問題、そして人種と障がいによる二重差別について取材するジャーナリストです。

「最近では、(He か She かなど)自分が呼ばれたい代名詞を伝える機会も増えてきました」とRajkumarさんは言います。これは良い傾向ですが、細かな配慮は欠かせません。

「呼ばれたい代名詞の共有は、トランスジェンダーの人が安心できない状況下では、自分自身についての開示を強要されていると感じてしまう場合があります。アプローチとしては、当事者が安心できる場合のみ、代名詞を共有すれば良い伝えると良いでしょう。この条件を追加するだけでも、大きな違いです」。

Rajkumarさんはまた、障がいのあるアジア系アメリカ人を支援する非営利団体「Asian Americans with Disabilities Initiative」の支援活動担当ディレクターでもあります。

自身もアジア系であり障がいを持っているRajkumarさんは、Kahil Greeneさんほか多くのZ世代と同様に、真のインクルージョンとはインターセクショナリティであると考えています。

「インターセクショナリティの観点からインクルージョンに取り組むには、まず最初に雇用主が、従業員の属性はひとつではなく、また、単純にアイデンティティ別にグループ化できるものでもないのだと理解することが重要です。

たとえばLGBTQ+の白人は、LGBTQ+の有色人種の人たちとは異なる経験を経ています。また、障がいのある白人も、障がいのある有色人種の人とは異なる経験をするでしょう」。

Gabe Garciaさん、Maia Ervinさん:「JUV Consulting」の最高人材責任者(CPO)

GarsiaさんとErvinさんは、Z世代のマーケティングエージェンシー、JUV Consultingで社内外におけるダイバーシティとインクルージョンを推進しています。

JUV Consultingは先日、さまざまなブランドのプライド月間グッズの成功例と失敗例についてオンラインで批評しました。企業やブランドは毎年6月だけでなく、1年を通じてLGBTQ+コミュニティを支援するべきだとGarciaさんは説明します。

その基本となるのが、他者の感情や経験を理解する共感と、やさしさです。

「若者は、人生の多くの時間を長びくコロナ禍の中で過ごしています。彼らは新型コロナウイルスの感染拡大により深刻な影響を受け、社会生活だけでなく学業や仕事でも、多くの苦難を経験してきました。そんなZ世代が求めるものを雇用主が理解し、尊重し、サポートする姿勢を示せば、彼らはより成功のために努力し、職場と深く関わるようになるでしょう」。

「クィアでトランスジェンダーである自分に対して、職場の同僚が示してくれた共感とオープンな姿勢がなければ、他の人にやさしさと思いやりを伝える今の仕事はしていなかったと思います」。

Ervinさんは、企業が従業員の意見に耳を傾けられるよう、マネージャーなど権限のある人物のオフィスドアを開けておくオープンドアポリシーの採用を提案します。

「私自身、黒人のクィア女性として、特に軽視されがちな少数派の人の意見を取り上げる重要性を理解しています。オープンドアポリシーにより、従業員は自分の意見や感謝の気持ち、懸念についていつでも発言しやすくなります」と彼女は話します。

「Z世代はこれまでになく多様な世代で、自由にアイデンティティを公表したり模索したりできる安全な場所を求めています。雇用主には、勤務中にもこうした生き方を制限することなく、奨励してほしいです」。

Gia Leeさん:「NinetyEight」 共同創設者兼最高戦略責任者(CSO)

Leeさんは起業家で、Z世代によるマーケティングエージェンシー、NinetyEightの共同創設者です。NinetyEightは、PepsiCoやPaul Frank、Metaなど有名企業のキャンペーンを制作しました。

NinetyEightは最近、スタッフの個性的なメール署名を取り上げたTikTok動画を作成しました。Celineさんの「Seeyas later」、Trumanさんの「That's all」、Leeさんの「hehe bye」などがその例です。

見た人に笑ってもらおうと公開された動画ではあるものの、その真意は別のところにあるとLeeさんは話します。それは、自分の同僚も仕事の外に充実した生活があり、さまざまな経験を重ねてきたひとりの人間だと知ることの大切さです。

「職場では単純に選別されたり、レッテルを貼られたりすることもあります。誰もが自分の言葉で自分にとっての真実を話せるプラットフォームを持つべきです」と彼女は言います。

この点についてLeeさんは、個性が感じられるメール署名以上に、「職場の垣根を超えて、互いの経験やアイデンティティについて質問したり話を聞いたりできる」安全でオープンな環境を作るよう企業のリーダーに提案しています。討論会でも、気楽に互いの話を聞き合う集まりでも良いでしょう。

Leeさんは、真にインクルーシブな職場とは、すべての従業員が自分の意見を言えるような、「職場のヒエラルキーがなく、フィードバックを頻繁に戻しあえる環境」だと言います。

「上司が部下を評価するだけでなく、インターンを含むすべての従業員が上司を評価する機会を与えると良いでしょう。個人的には管理職として、部下が私から学ぶのと同等、またはそれ以上に、私が部下から学ぶことがたくさんあると気付きます。

インクルージョンに関しては、従業員の要望やニーズを勝手に推測するのではなく、彼らに直接尋ねることが大切です」。

この記事は米国版 Indeed LEADから翻訳・編集しました。

翻訳・編集:Indeed Japan 編集部

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