2021年3月1日から障がい者の法定雇用率が引き上げられ、民間企業でも2.3%となりました(従業員が43.5人以上の場合)。また、SDGsのターゲットの一つにもなっていることから(※1)障害者雇用への関心が高まっています。一方で、障がい者を雇用したことのない企業からは「どんな仕事を任せたらいいのか分からない」といった不安の声も聞かれます。


LORANS.の取り組み

 
カフェを併設したフラワーショップの経営をはじめ、ギフトやイベント用の装花の制作なども手掛ける株式会社LORANS.(ローランズ)は、60人の従業員のうち45人が障がい者です。代表取締役の福寿満希さんに、障がい者と共に働き、企業の成長にとってかけがえのないパートナーとなってもらうための工夫をお聞きしました。

 

SDGs17の目標(出典:国際連合広報センター)


※1 「目標8 すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する ターゲット8.5 2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性および女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する。」

「障がい者だからできない」と決めつけない


――LORANS.では障がいのある人を採用する際に、重視していることはありますか?
 
チームで行う仕事がほとんどなので、既存のスタッフと心地良く仕事ができるかどうかを考えます。採用基準として特に大切にしているのは、何か上手くいかないことがあったときに「他人のせい」にしない人かどうか。問題を自分事として捉えて、周りと協調しながら改善していける人と一緒に働きたいですね。
 
――障がいのない人を採用する時の基準と変わらないのですね。
 
障がいがあるからといって、「これはできない」と最初から決めつけないようにしています。できないことよりも、その人が「何ができるか」に注目することが大切です。
 
確かに、障がいのために体調が安定せず、休みがちになってしまう人もいます。でも、「働く上での障がい」は、実は誰もが持っているのではないでしょうか。
 
たとえば、小さなお子さんを育てている人や、家族を介護しながら働いている人も、何かあれば勤務時間中でもすぐ帰らなければならないことが起こりますよね。急にお休みしなければならないのは障がい者だけではないはずです。
 
会社として、みんなが持つ「働く上での障がい」をどう無くしていくかを一緒に考えていける環境を作っていきたいと思っています。自分が体調不良で休んだら、次は子育て中の方が早く帰れるように助け合おう、など社員が互いにカバーしあって働けるように呼びかけています。

ソーシャルフラワー&スムージーショップLORANS.原宿店の店内(提供:株式会社LORANS.)

業務環境を変えて生産性アップ


――障がいのある人はどんな業務を担当されていますか。
 
店舗での接客から、オンラインショップの発送作業、ノベルティや催事用の装花作り、ビルの周りの植栽の管理まで、あらゆる部署で様々な仕事を担当しています。
 
外部からは、精神障がいのある人が接客など、場合によってはストレスが大きくなりがちな業務にも携わっていることに驚かれます。確かに、その人が一人で全ての責任を負う体制になっていると、負荷が大きく長続きしません。業務に慣れたベテランメンバーのアシスタントから始めて、本人に適性があればそのまま続けてもらい、難しいようなら別業務にチャレンジしてもらう、という働きかけをしています。
 
当社では、社内全体で1グループ5人程度を10のグループに分けて仕事を進めています。グループ内で業務の進め方を工夫したり、互いにケアしたりする中で、新しく入った人も次第に自信をつけていきます。今では障がいのある人がリーダーを務めるグループもあります。
 
――障がいのあるなしに関わらず、社員が力を合わせて良いチームになっているのですね。ここまで到達するには大変な苦労もあったのでは。
 
もちろん、初めから上手くいくことばかりではありませんでした。障がい者雇用を始めたばかりの頃は、障がいのある人に「この作業はできません」と言われると、他の社員が引き取っていました。障がいのためにどうしてもできないことなのか、それとも「甘え」なのかの判断ができなかったのです。当然、仕事を引き取った社員の負担がどんどん増えて、毎日残業ばかり……という状態に。
 
そこで、発想を変えてチーム管理者の仕事を「目先の納期に間に合わせること」ではなく「その人のできない理由を探して、環境を変えること」と定義し直しました。
 
例えば、障がいのある人が「できない」仕事が1から10までの工程があるとして、どこができないのかを確かめます。5番目の工程が難しいのであれば、5番目だけをサポートして、他は一人で担当してもらう。他にも、工具を変えたり、作業に必要なものの配置を変えたりといった工夫を重ねました。
 
――仕事ができないのは、必ずしも「障がい」が理由ではなかったのですね。
 
ええ、当初は「障がいがあるからできないだろう」と考えていたのですが、今はとても失礼だったのではないかと反省しています。仕事を代わりにやってしまうのではなく「どうしたら、できると思いますか?」と本人に聞くと、たくさんのアイデアを出してくれました。自分で考えて改善していく機会を奪ってはいけないですね。結果として、働く人がみな主体的になり、生産性も向上しました。

中小企業ならではの柔軟さを障害者雇用にも生かす


――SDGsが注目される中、障害者雇用を始めたいと考える中小企業も増えています。まずはどんなことから取り組むといいでしょうか。
 
人事担当が一人で頑張るよりも、障害者雇用に興味・関心のあるスタッフを社内で募り、一緒に進めていくことで、少しずつ社内に理解を広げていくといいと思います。
 
どんな業務を任せていいのか分からないとよく言われますが、今、外注している仕事を内製化できないかと考えてみるのも一つの方法です。たとえば、社内の清掃や名刺の印刷、お中元・お歳暮を社内で作るなどの仕事を、障害者雇用で採用したスタッフで担当するのも良いと思います。
 
障害者雇用は「大企業だからできる」と考えられているかもしれません。しかし、様々な個性を持つ人に合わせて、柔軟に業務を切り出したり、サポートするチームを作っていけたりするという点で中小企業の強みを生かせるのではないかと思います。
 
私たちは「生花店でできる社会貢献は何か」と考えた時、一番は雇用だと考えて障害者雇用を進めてきました。それが今、SDGsのゴールに合致したことで、当社の考えがより多くの人に伝わりやすくなりました。
 
他社から「SDGsに取り組みたいので、何か一緒にできませんか」とお問い合わせをいただくことも増えました。社内で新しいビジネスを考えるときも、SDGsの17の目標のどこに貢献できるだろうか?と考えると、より良いサービスを生むことができるように思います。
 
障害者雇用もSDGsも、「やらなければいけないこと」ではなく、会社をより良くしていくために必要なことと捉えて、身近なことから取り組んでいくといいのではないでしょうか。

 
 

※記事内で取り上げた法令は2021年3月時点のものです。

 

Profile
福寿 満希さん
株式会社LORANS.  代表取締役
 
大学卒業後、スポーツマネジメント会社に就職。アスリートの社会貢献活動の企画運営に関わり、ソーシャルビジネスと出合う。 2013年、株式会社LORANS.を設立しフラワーサービスや廃棄花を紙に変えるプロジェクトなどをスタート。2016年より障害者雇用に取り組み、都内に3拠点あるフラワーショップやアトリエなどで障がいや難病と向き合うスタッフを雇用している。

 


TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト