連載 動画が広げる採用情報発信の可能性vol.2/ニチイ学館 人財開発事業本部 大越健介氏

2022年6月14日、米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭「SHORTS SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA 2022」において、国内外のブランデッドムービーを表彰する「BRANDED SHORTS 2022」が開催された。

今年で7年目を迎える「BRANDED SHORTS」は、国際的な映画祭における日本で唯一の広告映像部門であり、SHORTS SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA(以下、SSFF & ASIA)が独自の基準でブランデッドムービーを評価している。発表されたのは、エントリー687作品の頂点に輝く「Branded shorts of the Year(インターナショナル部門/ナショナル部門)」のほか、「Deloitte Digital Award」「HR部門 supported by Indeed HR Award」「観光映像大賞 観光庁長官賞」。

企業、ブランドが伝えたい理念やメッセージをストーリーに描き、視聴者の心を動かすことを目指したブランデッドムービーとはどのようなものなのか。動画を使った情報発信が盛んになっているHR業界の受賞作品を中心に、企業やブランドの情報発信において動画が果たす役割について最新のトレンドを紹介する。

「Deloitte Digital Award」はPenny、Oppo、講談社が受賞

第1部の冒頭に登壇した講談社 取締役副社長 金丸徳雄氏(右)、デロイト トーマツ コンサルティング Deloitte Digital クリエイティブディレクター 二澤平治仁氏(左)
第1部の冒頭に登壇した講談社 取締役副社長 金丸徳雄氏(右)、 デロイト トーマツ コンサルティング Deloitte Digital クリエイティブディレクター 二澤平治仁氏(左)

第1部の冒頭で発表されたのは、デジタルと人間らしさの融合を表現した作品に贈られる「Deloitte Digital Award」。講談社の『Taking Flight』、Penny(ドイツに本部を置くディスカウントストア)の『The Wish』、Oppo(中国に本部を置くスマートデバイスメーカー)の『Unspoken Love』の3作品が選出された。

プレゼンターとして登壇した、デロイト トーマツ コンサルティング Deloitte Digital クリエイティブディレクターの二澤平治仁氏によると、本アワードの指標は「Purpose(社会的存在意義)、New(新奇性)、Design(デザイン性)、Human Experience(人の体験・体験価値)、Engagement(愛着)」の5つ。

「Pennyの『The Wish』は、企業のパーパスを意外性あふれる方法で伝えた点が見事でした。Oppoの『Unspoken Love』はヒューマンエクスペリエンスとエンゲージメントを強化する、まさにブランデッドムービーのお手本のような作品だと思います。講談社の『Taking Flight』は、美しい映像を通して、これまで講談社が創造してきたユーザー体験の世界に引き込まれました」と総評を述べた。

会場には、講談社 取締役副社長 金丸徳雄氏が登壇。OppoからはエグゼクティブクリエイティブディレクターであるJoseph Lau氏、Pennyからは『The Wish』のクリエイティブチームがオンラインで参加し、受賞の喜びを笑顔で語るとともに、作品のテーマやブランデッドムービーの可能性について意見を交わした。

「HR部門 supported by Indeed HR Award」は介護のイメージ変革に挑んだ​​ニチイ学館へ

受賞の意義を語るニチイ学館 人財開発事業本部 大越健介氏
受賞の意義を語るニチイ学館 人財開発事業本部 大越健介氏

続いては、2022年からIndeed Japan株式会社が参画する「HR部門 supported by Indeed HR Award」の発表へ。本アワードは、人材採用につながるブランディングの観点から「Purpose、企業の魅力、メッセージ、視聴維持、オリジナリティ、視聴後の想起」を審査基準とし、最もエンゲージメント性の高い映像作品を表彰するもので、多様なブランデッドムービーのなかでも大きな注目を集める分野です。

52点の候補作品からアワードに選ばれたのは、ニチイ学館が制作した「ニチイ新卒介護職 採用MOVIE『やさしさも、自分らしさ。』篇」。

進路に迷う高校生の視点で描かれた、ニチイ新卒介護職 採用MOVIE『やさしさも、自分らしさ。』篇

ニチイ学館は、介護の魅力向上に資する取り組みの一環として、若い世代が介護の仕事をより身近に感じられるようにと新卒採用サイトを一新。『やさしさも、自分らしさ。』は、同サイト内で公開されたもので、高校生が進路に悩みながらも健やかに過ごす日々を、心に響く曲とともに描いている。

日常にある様々な“やさしさ”の風景を目にしながら、“やさしさ”が自分にとって大切な価値観であることに気付く高校生。その“やさしさ”は、介護の仕事においても大切な価値観であり、同じ価値観を共有できる介護という仕事を志すようになる、というストーリーだ。

登壇したニチイ学館 人財開発事業本部の大越健介氏は、介護業界全体が抱える課題として「若い人材の採用の難しさ」に言及。「若い世代に介護の仕事を身近に感じてもらい、業界の仕事イメージそのものを変化させるという挑戦だった」と、作品に込めた想いを語った。

「就職活動をするときは、誰もが一度は『自分にはどんな強みや魅力があるのだろう』と悩むのではないでしょうか。その悩みに対して、介護では“やさしさ”が強みになること、仕事を選択する一つの要になると伝えたかった。1人でも多くの方に私たちの仲間になっていただき、介護のリーディングカンパニーとして業界を牽引したい」(大越氏)

また、人材採用の立場から見たブランデッドムービーについては、「見る人の価値観によって様々な捉え方をされる一方で、その価値観を覆すことができるのもブランデッドムービーの良さ。特に新卒採用において、介護の仕事を知るきっかけを学生に与えることができる時期は短く、短期決戦では映像が必要不可欠なツールとなるでしょう」と、映像コンテンツの重要性を語った。

同賞のサポーターであるIndeed Japanは、HR Awardをサポートする背景として、Indeedが推進する、自社のオウンドメディアを使って採用のための情報発信をする「Owned Media Recruiting(オウンドメディアリクルーティング)」との親和性を考察した。

採用マーケティングにおいては、企業を働く場所として認知し興味を持つフェーズ、職場として応募し面接を受けるフェーズ、採用オファーを受けて働きながら定着していくフェーズがあり、それぞれに課題があります。ブランデッドムービーのメリットは、オウンドメディアリクルーティングの一手法として、様々なフェーズにいる人に対し、歩留まりを上げるアプローチが可能であることでしょう。本アワードにも、それを実証する多様な作品が集まりました」(Indeed)

受賞作『やさしさも、自分らしさ。』については、「働くことが生きることとして捉えられており、新卒者一人ひとりの人生と向き合う視点が印象的です。考えてみると、介護職も、高齢者の人生に向き合うという側面を持つ仕事。事業に対する姿勢が映像にも表れている、企業の真摯な姿勢を感じました」と印象を語った。

さらに、積極的な人材採用に取り組み企業やオウンドメディアリクルーティングを実践する企業などに対して、「映像は、企業のミッション・ビジョン・バリューやパーパスを表現することが得意であり、職場のカルチャーや雰囲気を伝えやすい特徴もあります。企業や働く人の魅力は、リアリティをもった生々しい表現の方が求職者に響きやすいと言えます。そのため、人材採用のための映像は、費用をかけてリッチな映像を作る必要は必ずしもありません。ぜひ自社の魅力を自分たちの手で掘り起こし、求職者に伝えてください」とエールを送った。

「より多くの求職者にメッセージを届けるために、『SNS・ブログ・イベント』をオウンドメディアとして活用する方法」についてはこちらへ

「観光映像大賞 観光庁長官賞」は、地域の魅力をストーリーで伝えた『宇久島』

過去と現在を交錯させながら宇久島の伝承を見事に描いた、宇久町観光協会の『宇久島』/観光庁長官賞 発表時の様子
過去と現在を交錯させながら宇久島の伝承を見事に描いた、宇久町観光協会の『宇久島』

「観光映像大賞 観光庁長官賞」は、ノミネートされた5地域の代表者がオンラインで参加するなか、受賞作品が発表された。観光庁長官賞に輝いたのは、宇久町観光協会が制作した『宇久島』。壇ノ浦で敗れて宇久島に漂着した平家盛が、島の人に命を救われたという伝承をもとに、宇久島の豊かな自然と人々の温かさを表現した作品だ。

プレゼンターとして登壇した観光庁地域振興部長の大野達氏は、コロナ禍で現地を訪れにくい状況が続くなか、映像による観光プロモーションが重要性を増していると分析。地域の自然や文化をそのまま映像化して届けるだけでなく、『宇久島』のように魅力あるストーリーと結びつけて視聴者を惹き付ける工夫が必要だと評価した。

687作品の頂点に立ったのは、HEINEKENとNETGEAR Japan

「BRANDED SHORTS 2022」のトロフィー

第1部の最後には、「BRANDED SHORTS 2022」の審査を行った審査員長の木村健太郎氏(博報堂 執行役員/博報堂ケトル エグゼクティブ クリエイティブディレクター)、太田光代氏(タイタン 代表取締役社長)、長田麻衣氏(SHIBUYA109エンタテイメント マーケティング戦略事業部ソリューション 戦略部リーダー SHIBUYA109 lab.所長)、たちばな やすひと氏(ドラマプロデューサー)、藤井道人氏(映画監督・脚本)、ゆりやんレトリィバァ氏(コメディアン)、そしてSSFF & ASIA代表の別所哲也氏が登壇。

687作品の頂点に輝く「Branded shorts of the Year」は、インターナショナル部門がHEINEKEN(オランダに本部を置くビールメーカー)の『A LOCKDOWN LOVE STORY』、ナショナル部門がNETGEAR Japan(ネットワーク機器の販売やサポートを手がけるIT企業)の『AIM』に栄誉が贈られた。

「Branded shorts of the Year」は、「必然性、認識変化力、シェアラブル、メッセージ力、視聴維持力、オリジナリティ、時代性、視聴後の想起力」の8視点で審査された、最もシネマチックなコミュニケーションを実現している映像作品に対して贈られる賞。審査員長の木村氏は、ブランデッドムービーについて、「直接的な広告と違ってエンターテイメントを先に感じることができ、ムービーを楽しむうちにブランド自体が好きになっている。様々なコンテンツを生み出す可能性に満ちたジャンル」と解説した。

「受賞作品の『A LOCKDOWN LOVE STORY』は、コロナ禍で表出した“リアルとバーチャルはどちらがいいか”という問題をエンターテイメントとして解きほぐした作品。『AIM』は21分とブランデッドムービーとしては長編ですが、“世代による価値観の違い”という大きなテーマを、視聴者を飽きさせずに描き切りました。2作品とも今の時代に合った問題提起を行い、考えさせる物語を見事にブランディングにつなげています」(木村氏)

「Branded shorts of the Year」表彰の後、会場協力などでSSFF & ASIAをサポートする日鉄興和不動産 代表取締役社長 今泉泰彦氏と、SSFF & ASIA代表の別所哲也氏が登壇。これからの企業は自社の価値観を発信する必要があり、映像を活用したマーケティングに力を入れる企業がさらに増えていくだろうと展望を語った。

ブランデッドムービーの可能性を語る、SSFF&ASIA代表の別所哲也氏
ブランデッドムービーの可能性を語る、SSFF&ASIA代表の別所哲也氏

「ブランデッドムービーを視聴した生活者は、企業に対して新たな愛着やつながりを感じることがアンケート結果からわかりました。具体的には7割以上が“ハッピーになった”と感じ、題材になった企業や製品を利用してみたいと回答しています」(別所氏)

同映画祭を通じてショートフィルムの価値や認知が拡がってきたなかで、「BRANDED SHORTS」という新しい世界が生まれており、ジャンルも、従来の観光だけでなく、HRなどほかの分野へと広がりつつあると話す別所氏。人と人がつながるというコミュニケーションの場において、物語性を持つ短編映像がもたらす可能性が大きく、さらなる発展に寄与していきたいとセレモニーを締めくくった。