採用難のなか、「求職者に選ばれる企業」になるために、各業界が人口動態の変化にも対処しつつ、求人への応募数を確保する方法を模索しています。事実、労働人口が縮小していきつつある現代においては、人材獲得や維持の方法も、時代に合わせて変化させる必要があります。
Indeed とGlassdoorのエコノミストによる「2023 Hiring and Workforce Trends Report」(採用と職場に関するトレンドレポート)では、景気の変動にかかわらず、人口の高齢化が進展することにより、全体的な人材の減少につながることが分かっています。特に米国やイギリスなど、生産年齢人口(15~65歳)が減少していく国は数多く、2025年以降は人口増加の要因が移民のみとなるため、市場の競争がさらに激化すると予測されています。
人材争奪戦に加え、2021~2022年に企業や組織に打撃を与えた大退職時代(Great Resignation)、あるいは大いなる気づき(Great Realization)と呼ばれる現象は、今後加速するトレンドの前兆かもしれません。労働市場が2020年以前の状況に戻っていくことを期待している企業は、大きく失望することになるでしょう。
「過去を振り返っても、身動きが取れなくなるだけです。前に進む道を見出さなければなりません」と、全米のホテルのポートフォリオを管理するIsland HospitalityでHuman Resources担当Senior Vice Presidentを務める、Tonya Moore氏は語ります。
そこで解決の鍵となるのが採用企業ブランディングです。採用ブランドを人材が自社に対して抱く本音として考えることが、求職者の観点から他社と差別化を図る方法となるでしょう。またGlassdoorが実施した調査によると、従業員の69%は、雇用主のブランドは自分が誇れるものであってほしいと回答しています。
それでは2023年、求職者に選ばれる採用企業になるにはどうすれば良いのでしょうか。最初のステップとして、Reckitt、Virgin Orbit、WIS International、Island Hospitality各社のHRおよび人材獲得のリーダーに聞いた、5つのヒントを参考にしてみましょう。
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求職者にとって高給がすべてではないことを知る
報酬や福利厚生は重要ですが、それは解決すべき課題の一部にすぎません。過去数年で賃金は上昇し、米国では2021年春、Indeed 上で時給20ドルの求人を検索する求職者の割合が、時給15ドルの求人を検索する求職者の割合を超えました。近年において、公平な給与や給与の透明性は最低要件であり、求職者は採用企業にそれ以上のものを期待するようになっています。
「企業はまず最初に、自社が基本的なことを正しく行っているかを確認することが大切です。給与や福利厚生などは、不満足の原因となる、いわゆる衛生要因であると考え、特に気を配りましょう。その後で、他社との差別化に着手すると良いでしょう」と、国際的な消費財メーカーであるReckittでHuman Resources担当Senior Vice Presidentを務める、Christine Geissler氏は語っています。
つまり、給与は人材と交渉を始めるきっかけにはなりますが、必ずしも採用オファーの受諾を決定的に左右する要因ではない場合があります。自社が提供できることを包括的に検討することが大切であり、これは給与を上げる代わりにその他の待遇で工夫をこらすしかない組織にとっては特に重要かもしれません。
「他社のほうが多少給与が高くても、求職者は自社が提供する福利厚生やダイバーシティ、ワークライフバランスに魅力を感じる可能性もあります」と、Virgin OrbitでHead of Talent Acquisitionを務めるJoey Lee氏は言います。
求職者が共鳴する文化やミッションを醸成する
求職者にアプローチするだけでなく、自社を働きやすく、キャリアアップを目指せる職場にしましょう。企業文化はこれまで以上に重要となり、従業員は仕事に幸福度とウェルビーイングの向上を求めるようになっています。
「私たちは従業員への価値提案に注力し、従業員のビジョンや価値観がちゃんと仕事に反映されるように努めています。Virginは、従業員がありのままの自分でいることを歓迎する、エゴを持たない企業です。それがRichard Bransonが体現する文化であり、すべての対外サイトでそれを伝えています。また、Glassdoorや Indeed のクチコミページに書かれたフィードバックを通して当社に対する意見を知り、必要な対応を検討しています」とLee氏は話します。
Indeed のデータによると、従業員の86%は、仕事で抱く感情はプライベートでの感情にも影響すると回答し、46%は職場での幸福度に対する期待が過去1年で高まったと回答しています。ストレスとバーンアウトが原因で、従業員がより条件の良い仕事を求めるようになれば、自分の勤務先を他者に薦める可能性は低くなるでしょう。
「企業は、自社のコアバリューを明らかにし、それを日々実践していると宣言するべきです。常に目標を実現することはできないかもしれませんし、ときには失敗もあるでしょう。しかし、コアバリューを基本理念としてアピールすることが大切です」と、小売業者やメーカーのソリューションパートナーであるWIS Internationalで、Senior Director of Talent and Engagementを務めるErik Kershner氏は語ります。
自社ならではの長所を見つける
求職者の理想に完璧に応えられる企業はありませんが、他社より優位に立てる分野を戦略的に創り出すことは可能です。たとえば、在宅勤務の選択肢を提供できない場合、有給休暇の日数を大幅に増やしたり、キャリア開発のトレーニングを用意したり、無償で食事を提供したりできるかもしれません。
「企業として売り込める長所を選びましょう。従業員にどのような価値提案ができるでしょうか。たとえ平均的な給与しか出せないとしても、自社の目的や長所に一致するその他の福利厚生を充実させることは可能かもしれません」と、Geissler氏は言います。
Gessler氏の説明によると、粉ミルクのブランドであるEnfamilの親会社、Reckittでは、子育て中の従業員に配慮する組織であることを特に強調しているそうです。
Geissler氏は、「私たちは、乳児を持つ親を粉ミルクでサポートする組織として、育児休暇を重視し、その日数を増やしました」と、社内規定を変更して有給の産休を16週間から26週間に延長したことについて話します。もちろん、粉ミルクは無償で提供され、新しく親になった従業員が、スムーズに職場復帰するのを支援するトレーニングも受けられます。「生まれたばかりの赤ちゃんにとって、人生のスタートができる限り良いものになるように、業界水準を超える福利厚生を提供しています」。
実行可能なDEI戦略を策定し、実践する
従業員全体の年齢が下がると、優先事項が変わる可能性があります。Indeed のデータによると、世代が異なる従業員は、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)に対する考え方も異なることが分かっています。
18~34歳の従業員のうち72%は、自分の上司がDEIの取り組みを支援しないと感じる場合、採用オファーを断る、または離職を検討すると回答しました。多様性のある職場とインクルーシブなリーダーシップに向けて、口先だけでなく実際に行動すれば、他社との差別化も図れると言えるでしょう。
「あなたの企業にとって、ダイバーシティは単なるタスクの1つに過ぎませんか、それとも、それ以上の意味がありますか?」と、Lee氏は問いかけます。「現在は求職者の期待値が高く、企業にさらなる主体性や積極的な取り組みを求めています。Virgin Orbitではダイバーシティの実現が採用サイトにも掲載しているミッションであり、多様性のあるパネルが採用面接を実施しています」と、Lee氏は語ります。
社内人材を育成する
新規顧客を獲得するより、既存の顧客を維持する方が簡単ということは、大昔からビジネスの基本です。従業員についても同じことが言えます。
Island HospitalityのMoore氏は、社外の応募者に依存する代わりに、社内異動や昇進を会社のパイプラインプログラムによって促進していると説明します。ディレクターや管理職に最も適した人材がいる場合、そうしたキャリアパスに配属するそうです。
「その方がすばやく対応できます。私たちは、必要なさいには、パイプラインを通して従業員から人材を獲得できるようにしています。また、従業員に機会を提供するために連携し、カスタマイズされた多様なキャリアパスを用意できるようにしています。従業員は社内で働きながら、希望するキャリアへ進むことができるのです」とMoore氏は話します。
2023年も、人材獲得と維持には困難が予想されます。そして、求職者に選ばれる採用企業の定義は時代とともに変化しています。企業が現在の採用市場で競争力を維持し、求める人材を獲得し続けるは、まず社内の環境を改めて見つめ直し、自社が従業員に提供できる価値を真に理解する必要があるでしょう。