みなさんは、「キャリア」という言葉から何を連想しますか? 

一般的なイメージとしては、デスクだけではなく、はしごや階段、地面から雲に向かって伸びる矢印などがよく見られます。辞書の出版などを手掛けるMerriam-Websterによると、本来、英語の「キャリア(Career)」とは、「訓練を受けた職業」で「継続的な進歩の達成」を伴うものを指します。つまり、現状に留まることを意味するものではありません。 

キャリアが流動的であることは明らかです。リモート勤務かオフィス勤務かに関わらず、新入社員はただ与えられた仕事をこなして、1つの職場や職種に留まるために入社するのではなく、自分のキャリアを長期にわたり発展させていくために仕事に励むのです。

従業員に学びと能力開発の機会を提供することの重要性は、先行きが不透明だったこの1年でさらに注目されるようになりました。新型コロナウイルスの影響により、新しい職種や業務を引き受けた従業員や、転職する候補者を採用する企業が増え、人材育成のニーズが一気に高まったのです。 

それでは、従業員にキャリアにおける成長や能力開発の機会が与えられないと、どのようなことが起こり得るのでしょうか。次のように、ビジネス上の重要な領域に悪影響が及ぶ可能性があります。 

新たな従業員の採用にかかるコストは、退職した従業員の年収の最大33%

人材育成の機会を提供しなければ従業員は退職する、ということは明確に証明されています。 

米国で実施されたEmployee Benefit Newsによる大規模な調査では、34,000件以上の退職面談に基づく驚くべき統計結果が明らかになりました。退職理由の第1位(22%)はキャリア開発で、そのうちの21%は「成長の機会がない」ことでした。さらに、欠員補充にかかる費用は、直接コストで退職者の年収の最大3分の1(33%)に達するという報告もありました。

こうした数字はもちろん、経済状況や業種全体の景気など、さまざまな要因によって変わります。しかし、状況を問わず、従業員が離職すると企業にとって費用がかかる、という全般的な傾向は変わりません。ただし、そうしたリスクは、従業員に十分な人材育成の機会を提供することである程度、緩和することができます。

さらに、上記の22%という数字は、高い離職率に対する責任をマネージャーに負わせるという、最近よく見られる傾向に反する結果でもあります。同じ調査報告において、退職理由として経営陣やその行動を挙げた従業員は、11%のみでした。

従業員の退職はどの方面にも多大な損失となる

退職した従業員の代わりを補充するのに、なぜ年収の33%にも及ぶ資金が必要になるのでしょうか。その資金の用途には、たとえば、未消化の有給休暇や病気休暇の支払い、企業負担の健康保険料、失業保険税の増額、退職金、転居手当、入社支度金(サインオンボーナス)など、長いリストが続きます。 

また、中小企業で欠員が出た職種を補充する場合、平均で41日もの日数がかかり、採用活動を担当するチームにとって多大な時間と労力を費やすことになります。大企業では38日に減りますが、それでも、後述するとおり、数多くの機運を失うのに十分な時間です。最後に、業界報告書の最新状況によると、米国における従業員あたりの平均研修予算が1,886ドル(約24万円)であることも計算に入れる必要があります。

チームやワークフロー、企業文化にも影響がある

学びや成長が感じられないことを理由に従業員が退職する場合、その退職自体が職場にさまざまな影響を及ぼします。チームの結束力を高める取り組みは、メンバーの満足度をチーム内で広げてくれます。しかし、メンバーに不満があった場合には、結束力が高いチームほど、不満もすばやく広がってしまう可能性があります。特に、プロジェクトベースで協力して働く小規模なチームではそれが顕著です。 

貴重なチームメンバーを失うことは職場の機運を停滞させるだけでなく、重要な目標の達成を妨げることにもなります。こうした影響を緩和するには、1対1ではなく、グループごとの研修を実施すると良いでしょう。

グループ研修には、効果的なチームビルディングや、コスト削減、士気の向上、優れた成果につながりやすくなるなど、具体的なメリットがあります。何かあれば話し合い、アイデアを出し合えるチームで働くことによって、メンバーの学習体験の質が高まり、サポートが必要な場合に互いを頼れるようになるのです。結果として管理職の負担を軽くすることにもつながるでしょう。

人材育成の質を高める4つのステップ

ここまでで、人材育成の重要性をご理解いただけたら、強固な人材育成の基盤を築くために重要な4つのステップを実施しましょう。  

  • 自社の抱えるスキルギャップを見極める

2019年に人事専門家の会員制組織であるSHRMが米国で実施したスキルギャップに関する調査では、人事担当者の実に83%が採用活動における悩みを抱えており、その内の75%は「候補者が募集中の職種に必須のスキルを持っていない」と回答したことが明らかになりました。

市場の圧力や予算不足により、従業員研修への投資を先延ばしにしている可能性もありますが、新規採用者と既存の従業員の両方に研修の機会を与えることが、このギャップを埋める一番の近道かもしれません。あらゆるレベルの職種における具体的なスキルギャップを特定し、学習モジュールで学びの機会を提供すれば、パフォーマンスやエンゲージメントの向上に役立つでしょう。

  • 全従業員の研修に対する「ニーズと要望」を調査する

特定の職種に必要なスキルやニーズだけでなく、個人のキャリアの要望についても深く掘り下げ、把握します。

調査は組織内のあらゆるレベルの従業員を対象に実施し、全員に人事育成の基盤作りに関わるチャンスが与えられるようにします。こうした取り組みにより、人材育成プログラムが全社的な活動となり、前向きな学びの文化を構築していくことができます。

  • 別途でマネージャーに調査を行う

​​マネージャーには、別途、マネージャー自身と、チームの研修ニーズの両方について調査を行いましょう。チームへのサポートとして、日常的に学習不足やスキルギャップに対応しているマネージャーは、誰よりもニーズを把握しています。

チーム内のスキルギャップをマネージャーのせいにして責めたり、マネージャー自身が成長する機会を奪ってはいけません。マネージャーにも、スキルを伸ばす適切なチャンスと機会を与える必要があります。

リーダーシップやコミュニケーション、対立解消、ダイバーシティとインクルージョンなどの研修を提供し、マネージャーが上級職に昇進できるようサポートしましょう。 

  • 将来の課題を予測する

ミュンヘン工科大学とエラスムス・ロッテルダム大学がヨーロッパと米国の数か国で実施した最近の調査では、興味深いパラドックスが明らかになりました。一般的に人々は自分の仕事が機械に奪われるのではないかという懸念を持っていますが、実際にはロボットよりも、他の人間に奪われることの方を心配しているという結果です。

現状、ほとんどの従業員は、将来的に拡張労働力(Augmented Workforce)として人工知能 (AI) やRPAなどのテクノロジーが活用されていくことに対する準備ができていません。企業は、認知機能を持つ機械や人工知能(AI)を使いこなすなど、近い将来必要となるスキルを開発する機会を従業員に与える必要があります。 

従業員を信じることで企業も信頼される

従業員を定着させたいのなら、研修が終われば退職してしまうという考え方はやめるべきです。なぜなら、現実はその真逆であるからです。今日の従業員は自分自身とその価値に自信があります。そして、同じように自分を信頼してくれる雇用主のために働きたいと考えています。

常に「働きがいのある会社100選」などに選ばれる企業が、従業員のキャリア開発のために豊富な研修を提供する傾向にあるのは、決して偶然ではありません。実は、『Fortune 100』の全企業を対象にした最近の調査では、成功している組織は他社と比較して2倍以上の研修時間を提供し、離職は3分の1に留まっていることが分かっています。 

こうした企業は、自社の従業員を信じているというメッセージを明確に発信しています。 

従業員が時間と労力を費やしてくれることへの感謝として、雇用主は従業員の成長を支援する必要があります。従業員を信じることで、企業も信頼されるようになり、従業員の定着率が高まります。


著作者プロフィール

Meghan M. Biro氏は世界的に有名なアナリスト、著作家、講演者、ブランドストラテジストです。TalentCultureの創業者として、#WorkTrendsという人気の高いTwitterチャットとポッドキャストで毎週、ホストを務めています。彼女のキャリアは、スタートアップ企業から、MicrosoftやIBM、Googleのようなグローバルブランドまで、数百社における採用担当、人材管理、デジタルメディア、ブランド管理など多岐に渡ります。また、HRテクノロジーブランドのトップ企業のための諮問委員会のメンバーでもあります。Biro氏の記事はForbesやSHRMなど、さまざまなメディアに定期的に掲載されています。TwitterInstagramのアカウントもあります。

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この記事は米国版 Indeed LEADから翻訳・編集しました。

翻訳・編集:Indeed Japan 編集部