インターンシップは、新卒採用を進める上での大切な取り組みのひとつです。自社で一から企画し学生を募集するのが一般的ですが、近年は「大学連携インターンシップ」という方法をとる企業も少なくありません。

大学連携インターンシップにはどんな特徴やメリットがあるのでしょうか。2021年度に岡山県立大学と連携してインターンシップを実施した企業で、建機用アタッチメントを製造する株式会社タグチ工業の社長・田口博章さんと、インターンシップに参加した大学院生の三宅翔斗さん、吉實隼稀さんにお話を伺いました。

準備期間は1カ月 大学連携インターンシップ導入の道のり

――タグチ工業では、どのような経緯で大学連携インターンシップを導入されたのでしょうか?

田口社長:2021年3月に、ちょっとしたご縁で岡山県立大学のプロジェクト担当者とお話しする機会があり、そこでお声がけいただいたことがきっかけです。それまでは自社でインターンシップを実施していましたが、大学と関係を築きつつ学生のために何かができれば、という思いがずっとあったので、参加を決めました。

株式会社タグチ工業 代表取締役社長 田口博章さん
株式会社タグチ工業 代表取締役社長 田口博章さん

――これまでもインターンシップは行われていたそうですが、新しい体制で取り組むことへの抵抗感や障壁はありませんでしたか?

田口社長:そういったハードルは特にありませんでした。ただ今回の場合、お声がけいただいてから募集開始まで1カ月ほどしかなく、準備期間としては短かった印象です。大学が設定した複数のテーマに沿って我々から提供できるプログラムを用意する形だったので、これまでに自社で実施したことがない内容で学生を受け入れようとすると、現場の準備が慌ただしくなりました。逆に言えば、以前から自社で行っていたインターンと類似する内容のものについては対応しやすかったですね。

――大学側のペースに合わせて準備する必要はあったものの、過去の経験も生かされたということですね。では改めて、大学連携インターンシップの具体的な内容を教えてください。

田口社長:当社が参加したのは、岡山県立大学の「『吉備(きび)の杜』創造戦略プロジェクト 」という人材育成カリキュラムです。企業によって異なるようですが、弊社は大学院の1年生を受け入れること、参加日数は原則20日間設けることを参加条件として提示されていました。岡山県立大学の授業の一環として実施するプロジェクトなので、インターンシップを体験した学生は単位を取得できます。

三宅さん:大学での募集は4月に始まりました。大学から渡された資料には参加企業のリストや必要な知識の一覧が記載されており、それを参考に3社ほどインターン先の希望を提出します。その後大学から配属が発表され、企業とのやりとりがスタートします。

タグチ工業のインターンシップでは設計エンジニア職として参加し、治具(じぐ)という、機械加工をする際に加工機と加工物の間をつなぐ部品の設計に取り組みました。工場を見学させていただいたのち設計室に入り、実際の現場で使われるPCソフトと同じものを使って治具を設計します。社員からフィードバックをいただきながら、計20日間で2個の治具を設計しました。

岡山県立大学 三宅翔斗さん
岡山県立大学 三宅翔斗さん

吉實さん:私はWEBデザイナー職として参加し、公式サイト内で製品を紹介するページの制作に取り組みました。要件定義からワイヤーフレームの作成、デザインやコーディングまで全ての業務に携わらせていただき、計25日間のインターンシップを通して実際に公開されるページを完成させることができました。

田口社長:受け入れ側として誤算だったのは、インターンシップの実施期間中にちょうど緊急事態宣言が出てしまったことです。WEBデザインはノートPCでも作業できるのでリモートに対応しやすかったのですが、治具の設計に使うソフトはノートPCに入っていないものですし、そもそも設計という仕事は現場で加工機などを直接見ながら進めていくべきものなので、リモートだとどうしても進行が遅くなってしまいます。このときは学校のPCに対象ソフトが入っていたのでそれを使い、出社は避けながらもなんとか取り組み続けてもらいました。

大学が企業と学生の仲介役になる 大学連携インターンシップのメリット

――いざというときに学校の設備も使うことができたのは、大学連携の強みとも考えられますね。その他に、大学連携インターンシップだからこそ感じられたメリットは何でしょうか?

田口社長:まず企業としての実務的なメリットは、求人の作業を大学が進めてくれることです。テーマに沿ったプログラムをこちらで用意すれば、学生への周知や選考はすべて大学が担ってくれたので楽でした。

三宅さん:参加する学生としても、必要な手続きに関して大学が主導してくれる安心感はありました。企業に送るメールもはじめは大学の担当教員がチェックしてくれるなど、右も左もわからない就活の第一歩を大学にサポートしてもらえる体制があるのは参加しやすかったです。

株式会社タグチ工業の社長・田口博章さんとインターンシップに参加した大学院生の三宅翔斗さん、吉實隼稀さん

――双方が信頼できる立場として、大学が仲介してくれるのはありがたいですね。

田口社長:また普通のインターンシップだと、プログラムを修了した参加学生とはそのまま関係が切れてしまいますが、大学連携なら来てくれた学生たちが離れた後も大学との関係性が残りますよね。当社の場合、こういった学校とのつながりはインターンシップ以外の場面でもたくさん生かせる。たとえば今後、もっと長いスパンで大規模な研究支援なども実現できればと考えています。

吉實さん:学生側のメリットとしては、このインターンシップに参加すれば卒業に必要な単位が取得できるということも大きかったです。今回参加したプロジェクトは必修単位の選択肢の一つとして組み込まれていました。単位が関わるからこそプログラムの内容も軽いものではなく、一般的に企業が募集するようなワンデーや3日間ほどのインターンシップでは決して経験できない貴重な学びが得られました。

岡山県立大学 吉實隼稀さん
岡山県立大学 吉實隼稀さん

――では反対に、大学連携でこそ感じたデメリットはありましたか? たとえば実施期間が20日間となれば、現場に負担がかかることはないのでしょうか。

田口社長:そういった弊害は特にありませんでした。現場の社員は学生に対して業務を細部まで説明することになるので、普段は結果ばかりを意識しがちになっていた業務を包括的に理解し直す良い機会になったのではないかと思います。学生たちは何か感じていたのかな?

三宅さん:実施期間については、本当に濃い時間を過ごせたので満足しています。一点、苦労したことを挙げるとすれば、インターンシップ修了後に大学での成果発表会があり、その準備などが大変でした。田口社長がビジネスの場で生きるプレゼンのイロハを教えてくださり、発表用スライドも目を引くデザインにして臨んだのですが、大学の先生からは「スライドには文字の情報を省かずに入れなさい」と言われてしまいました。田口社長が教えてくださったことは社会人として大切な技術で勉強になったのですが、企業が伝えたいことと大学が求めることにギャップがあると、学生としてはやりづらいところがあります。

田口社長:このときの大学側の反応は私も想定していませんでした。まだ始動したばかりのプロジェクトなので、企画者と担当教員と参加企業の認識がまだ擦り合わせられていないのかなと。

インターンシップは、学生が「自分の人生をどうしたいか」を考える場

――最後に、今後大学連携インターンシップを導入しようと考えている企業に向けてメッセージをお願いします。

田口社長:採用活動の一環とはいえ、まだ学生である子たちをそれなりの期間預かるわけですから、自社の利益のために彼らを使おうと考えないほうがいいです。彼らが「自分の人生をどうしたいか」ということを考えられる場を提供してあげないと、せっかく選んで来てくれたのにつまらない時間を過ごさせてしまうことになります。学生自身がいま興味を持っている分野について、それを本当に仕事にしたいのか、あるいは趣味でいいのかを、じっくり考えるための機会にしてあげるべきなのかなと思います。




<取材先>
株式会社タグチ工業
代表取締役社長 田口博章さん
岡山県立大学
三宅翔斗さん 吉實隼稀さん