プロアスリートを食の面からサポートする「専属シェフ」という仕事。ドイツへ移住し、堂安律選手の毎日の食事を作る専属シェフ・高見光さんにお話を伺いました。

高校卒業後、料理専門学校を経て都内のフレンチレストランにて修行を積む。その後、南米へ渡り、パナマやコロンビアで日本食レストランの立ち上げに携わる。コロナ禍に帰国後、知人の紹介をきっかけに、2021年より堂安律選手に帯同する専属シェフに。食の面からパフォーマンスを支えている。

アスリート専属シェフの仕事

  • 専属シェフとは、具体的にどのようなお仕事なのでしょうか?

    基本的には堂安選手の自宅キッチンが僕の仕事場です。毎日、彼の昼食と夕食を作り、彼の体調や目標に合わせて献立を調整しています。僕は元々料理人からキャリアをスタートしたので、栄養学を考慮しつつも、「とにかく美味しい料理を作る」ということに重きを置いています。

    一般的なレストランのシェフとの大きな違いは、店舗経営のコストなど数字の縛りを気にせず、「選手のパフォーマンス」だけを考えて料理にフルコミットできるという点です。塩、油、スパイスといった調味料一つから最高のものを選び、時間も手間も惜しみなく注げる、料理人としてこの上なく贅沢な環境に身を置いていると感じます。

    ただ、実は料理そのものは二の次、三の次だとも思っています。一番大事なのは、選手に気を遣わせないこと。選手の生活に入り込む仕事なので、ある時は空気のように、ある時は友達のように接しながら、彼がサッカーだけにフォーカスできる「居心地のいい空間」を作ることを何より意識しています。

実は、普通の少年の一面もある堂安選手

  • 堂安選手との出会いのきっかけを教えてください。

    知人からの紹介です。2019年頃、スペインを一人旅していた時に「有名選手にばったり会えたら、シェフを探していませんか?って声をかけようかな」なんて漠然と考えていたこともあったのですが、結局会えずじまいで(笑)。

    その後、帰国して大阪を旅行していた時に、たまたま出会った料理人の方が堂安選手と繋がっていて。「堂安律がシェフを探してるんだけど、やらないか?」と初対面で言われたんです。

  • その場で即決されたのでしょうか?

    はい、即決でした。海外にまた住みたいという思いもあり、迷いはなかったです。そこからマネジメントの杉本さんとの面談を重ね、2021年の10月からオランダで合流しました(当時、堂安選手はオランダのチームに所属)。

  • 実際に近くで働いてみて、堂安選手の印象はいかがですか?

    メディアでの強気な発言から「厳しい人」というイメージを持っていましたが、実際はとても物腰が柔らかくて優しい、普通の少年の面を持った方です。普段は「光さん」と呼ばれていて、僕は「律社長」と呼んでいます。一緒にゲームをすることも多くて、一時期ハマっていた電車で旅するすごろくゲームの名前からそう呼んでほしいと言われて定着しました。

  • 堂安選手のお気に入りの料理はありますか?

    そうですね、僕の麻婆豆腐が大好きだと言ってくれてます。試合終わりなど、区切りのいい節目にはご褒美として作ったりもしますね。

壁にぶつかったら、
その場で乗り越えればいい

  • 料理人の道を志した原点を教えてください。

    中学生の頃、美味しいものが好きで「自分でも作れるようになりたい」と思ったのがきっかけです。

    専門学校を出て、奈良のレストランを経てから東京・六本木のフレンチで3年ほど下積みをしました。そこで23歳の時に料理長を任せていただいた後、中南米のパナマやコロンビアで日本食レストランの立ち上げに取り組んでいました。

  • なぜパナマやコロンビアへ?

    知人からパナマで日本食レストランを立ち上げる話をいただいた時、「中南米からのオファーなんて二度とない」と思ったんです。日本食の経験はゼロでしたが、珍しい方へ飛び込みたいタイプなので(笑)。現地では言葉も通じないスタッフに一から教え、予約の取れない人気店にすることができました。その後のコロンビア時代も含め、未知の環境で「とりあえずやってみる」という精神は、今の海外での専属シェフの仕事にも活きていると感じます。

  • 専属シェフという形は、もともと目指していたのでしょうか。

    特に目指していたわけではなく、僕は「より珍しい方、聞いたことのない職種」に惹かれるタイプなんです。確かに未来が見えない仕事ではありますが、それに対する不安は全くありませんでした。とりあえずやってみて、壁にぶつかったらその場で乗り越えればいい。失敗を恐れず、まずは飛び込んでみるというこれまでの生き方が、たまたま今の仕事に繋がったのだと感じています。

律の活躍で、
たくさんの人に
幸せになってほしい

  • お仕事をする上での「信念」や大切にしていることはありますか?

    一番は「律の邪魔をしない」ことです。ピッチで頑張るのは彼自身。僕は彼が一人でいたい時やリラックスしたい時の空気を汲み取り、陰で環境を整える「空気」のような存在でありたいと思っています。

    また、「たくさんの人に幸せになってほしい」という思いがあります。しかし、通常のレストランの料理人とは違って、直接料理を届けることはできません。それでも、毎日僕の料理を食べている律が活躍することによって、感動したり幸せになったりしてくれるファンの方々がいます。だからこそ、その先にいる人たちまで見据えて料理を作るようにしています。

  • 料理そのものへのこだわりはいかがですか?

    食材の追求ですね。ヨーロッパ、特にドイツでは日本のような魚を手に入れるのは容易ではありません。移籍するたびに自分の足で仕入れルートを開拓し、現地の専門店や日本食レストランの大将からいい魚を回してもらえるよう工夫しています。

    自家製味噌を作ったり、ちょっとした隠し味にもこだわっています。普段と少し変えた時、彼が一口目で「味噌汁美味しくなった、味噌変えた?」と気づいてくれる時は、自分のこだわりが伝わったようで本当に嬉しいですね。

専属シェフは「積極性」と
「空気を読む力」が不可欠な職業

  • この仕事に興味を持っている人へ、アドバイスをお願いします。

    アスリートの専属シェフは待っていても絶対に来ない仕事なので、自分からきっかけを掴みに行く「積極性」が一番大事です。様々な方法で 自分をアピールすれば、僕がそうだったように、きっと道が開けると思います。

    技術面では調理スキルに加え、料理人が普段触れない「栄養学」を学び続ける姿勢が必要です。そして何より、選手の自宅という極めて近い距離感で毎日過ごすため、相手を思いやる「空気を読む力」が不可欠です。堂安選手がオランダ移籍当初は、彼の生活を整えてあげたい一心で、勝手に掃除や洗濯を手伝うこともありました。もちろんそれは料理人の仕事ではないのですが(笑)すべては彼がサッカーに集中できる環境を整えたいという想いからやっていることです。

高見さんの思う、
いい未来とは

  • 今後の展望や、高見さんが思い描く「いい未来」を教えてください。

    具体的なことは模索中ですが、将来は海外でお店を開きたいと考えています。日本人として海外に日本食を広めつつ、今の経験を活かしたアスリートのサポートも並行してできたら理想的ですね。

    今は彼一人のために料理を作っていますが、その彼が活躍することで世界中のファンに感動が生まれる 。彼の元気な姿が多くの人を間接的に幸せにしているのだと信じて、その先を見据えて包丁を握っています。これからも怪我のリスクを最小限におさえられるよう、食の面から彼の身体を支え、最高の舞台で輝き続けられる未来を作っていきたいです。

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