荒天時営業のトラブルは増加している
災害写真データベースより(http://www.saigaichousa-db-isad.jp/drsdb_photo/photoSearch.do)
――2018年には台風21号が関西を、2019年には台風15号が長野や関東を直撃しました。超大型台風がもたらす大雨による冠水も毎年さまざまな場所で発生し、各地で深刻な被害が出ました。自然災害が予想される状況下において、飲食店の経営者や店長はどんな問題に直面するのでしょうか?
まずは悪天候による客足を考えつつ、店を開く・開かないの判断をすることになります。ただ、売上を考えると、経営側はなるべくお店を閉めたくはないんですよね。そのため、荒天時であってもアルバイトスタッフを出勤させようとしてしまう。これが1つ、大きな問題になります。
でもこれって、実際は従業員を危険にさらしてしまう行為ですよね。お店の営業に必死になりすぎて周囲が見えていない経営者は、残念ながらこのような行動をしてしまいます。
――従業員を危険にさらすのは、雇用する側としてどうなのでしょう……。
過去には、通勤中にパートさんが乗っていた車が大雨で水没したというケースもありました。最悪の場合は命に関わる事態になるかもしれません。出勤を無理強いすることで従業員が危険な状況に陥ると、店側が賠償責任を問われる可能性も十分にあります。
それ以前に、アルバイトスタッフがSNSに強制出勤を非難する内容を投稿し、これが拡散してしまったら、店のイメージダウンは確実です。Twitterでは「#台風だけど出社させた企業」みたいなハッシュタグがあるくらいですから。
いずれにせよ、従業員の人権を軽視するお店は、インターネットで瞬くまに悪評が広がり、世間の厳しい目に晒されます。そんな時代だということをしっかり意識するべきでしょう。
「そもそも荒天時に開店させたところで」という意識も必要
――そもそも、荒天時の営業は売り上げにつながるのでしょうか。
ここ数年は荒天が見込まれる時に、公共交通機関も対策をしています。電車が運行を取りやめる場合もありますよね。交通機関の運転見合わせに準じて、多くのお店も開店時間を短縮するなどしています。そうなると、街に人が歩いていないんですよね。
――たしかに。
帰宅困難なレベルの荒天なら、そもそも開店させたところで儲かる見込みなんてないじゃないですか。経営者や店長はいかに売り上げを上げるかを考えなければいけませんが、そもそも上がりがないならリスクを背負ってまで店を開ける意味がありません。
――では、本当に天候が荒れるかわからないケースはどうでしょう? 警報は出ているものの、とくに外の天気が悪いわけではなく、街にも人が歩いている。近隣のお店も閉店する様子はない、みたいな。
その場合は、店長ひとりで店を回せるくらいにまでその日の営業規模を縮小するのがよいでしょう。予約の来客だけ対応する、テーブル席は使わずカウンター客のみ入店可にする、等々。店舗の規模によって、いろんな選択肢が考えられますね。
――予約客のみにすると、その日の売り上げも立てやすいですね。
フリーのお客の入り具合はどうしても読めませんからね。
ちなみに、悪天候が予想される場合、予約客にはお店から連絡を入れるのが安全です。「台風だし、どうしようかな……」と、お客さんもキャンセルするかどうか迷うものです。悪天候が理由だと、当日のキャンセル料を請求しづらいですよね。材料のロスを出さないためにも、すでに予約が入っている場合はお店側から先にアプローチしてみましょう。
アルバイトの自宅や学校、交通手段を把握しておくと安心
――どうしても最低限の人員を確保しておきたい場合は、どうすればいいのでしょう。
お店から徒歩圏内、または自転車圏内に住むアルバイトを採用しておくのがよいでしょうね。徒歩圏内であれば店長が送ったり、行き帰りでタクシーを手配したりといった対応ができます。もちろん、自転車通勤の人には、その日は自転車通勤しないよう事前に通知します。
――近場に住むアルバイトだと、天候の変化にも対応しやすいですね。
あと、店長はアルバイト全員の自宅や学校、自分の店以外の勤務先、交通手段を把握しておくことが大切です。誰がどこから、どんなふうに通ってくるかを知っておけば、当日の交通状況によって誰を休ませればいいか、誰に勤務をお願いすればよいか、判断しやすくなります。交通機関が計画的な運休を発表したなら、電車通勤のアルバイトスタッフには休むよう伝えましょう。
また、どういう形であっても、悪天候時に出勤してくれるアルバイトには、それに見合ったフォローを忘れないことです。臨時ボーナスをつけるとか、まかないを奮発するとか。昔と違って、現代のアルバイトは丁稚奉公的な精神を持ち合わせていません。店舗都合で働いてもらった場合には、きちんとお礼を返すことが大切です。
――そういう経営者や店長さんがいると、雇われる側としても信頼関係ができそうですね。
そのとおりです。しかし、アルバイトを「ただの労働力」と考えがちな雇用主も、残念ながらいます。アルバイトスタッフにも、それぞれの生活や事情があるわけでしょう。ひとりの人間としてフラットに考えれば、悪天候時に無理をして来てもらうのが当然……なんてことはありませんよね。
また、ハラスメント防止の観点から考えても、アルバイト側から「休みます」と言われたら、これを受け入れざるを得ません。そこでムッとするか、OK!と機嫌よく答えられるかは、普段どんな心持ちでアルバイトスタッフに接しているかで、違いが出てくるでしょう。
普段からアルバイトに無理をさせないように配慮していれば、スタッフもお店側が困った時には助けてくれるかもしれません。常によい人間関係を築いておくことが、何かあった時の一番のリスクヘッジになるはずです。
<取材先>
白岩大樹さん
株式会社アップ・トレンド・クリエイツ代表取締役。中央大学を卒業後、板前として和食の名店「なだ万」に勤務。その後「牛角」のSVに転身し、2009年に「汗を流すコンサルタント」として独立。飲食店の現場に入りながらアルバイトを労働力ではなく戦力にする現場特化型のコンサルティングの第一人者として、テレビ・新聞などのメディアに多数出演。これまで800店、約15,000人のアルバイトを教育し繁盛店へと導いている。
TEXT:ヒラヤマヤスコ(おかん)
EDITING:Indeed Japan + ノオト