社内アンケートから生まれた企画 「ハタラク」×「オンガク」
――以前から、アーティストを積極的に採用していたのでしょうか。
明確には意識していませんでしたが、髪型や服装が自由であることを求人のアピールポイントにしていました。結果的に、クリエイターとして何らかの夢や目標を持つ方が一定数集まっている形です。
――そんなスタッフの活動を応援するプロジェクトを始めたのはなぜでしょうか。
きっかけは、当社社長・中澤による全国行脚です。中澤は日頃から各地の事業所を回って、現地のスタッフの声を集めては経営に落とし込む取り組みをしています。その過程で、「夢を持ちながら働いている人が多い」と気づいたのです。
そこで「エボルバで、あなたの夢かなえませんかプロジェクト」を立ち上げて、一部事業所のオペレーターを対象にアンケートをとった結果、回答者の1割弱が何らかのアーティスト活動をしていました。内訳として最も多かったのが「ミュージシャン」です。この結果をヒントに、「ハタラク」×「オンガク」という社内公募企画を2016年6月に始めました。
――「ハタラク」×「オンガク」とは、どのような企画なのでしょうか。
デジタル音楽流通サービス「TuneCoreJapan」に希望者のオリジナル楽曲を半年間登録すると、「iTunes Store」など、提携先の各種音楽配信サービスで配信される仕組みです。楽曲の登録料を始め、広告記事の出稿などは全額会社が負担し、売り上げは全て楽曲制作者に還元します。
これを決定した背景には、夢を目指すスタッフに当社が安定収入の環境を提供し、長期的に就業いただく狙いがあります。ワークライフバランスの実現に向けた、福利厚生の一環というような位置付けですね。同時に、採用PRとして求職者の応募動機につながる効果があると考え、かけるべきコストだと判断しました。
この企画の応募対象は雇用形態に関わらず、KDDIエボルバに在籍しながらミュージシャンとして活動しているスタッフです。グループで活動する場合も、メンバーの1人が弊社のスタッフであれば対象になります。
――配信だけではなく、社内外への広報活動も行われるそうですね。
社外には、自社オウンドメディアへの掲載や他社媒体への広告記事出稿などを行います。
また、社内に向けては、2万5000人の在籍社員に活動の様子を伝えています。そのほか、年に一度の社内表彰イベントで演奏する機会を設けています。
社内表彰イベント「Evolva Award」での演奏の様子
――応募者の選考基準は設けていますか。
勤怠状況が良好であるかは確認します。自身の芸能活動によって勤務時間が少ない方でも、KDDIエボルバで働く意志を持って業務にあたっているならOKです。
――この制度について、社内の反応はいかがですか?
もともと当社には、スタッフの声をヒントに生まれた「柔軟な働き方」を目指す制度が多数あり、ミュージシャン活動を行うスタッフへの職場の理解は進んでいました。楽器持参で通勤する方がいる光景が職場の日常になっていたこともあり、「ついにこんな制度まで!」と面白がってもらえたように思います。制度の周知は、社内に掲示したポスターやWebサイトで行いました。
開始から3年が経ち、のべ約60組のアーティスト社員に活用していただきました。現在は応募者数こそ落ち着きましたが、定期的に申請を受けるので、社内に根付いたと言えます。
スタッフを応援すると、新しい人材と出会える
――「ハタラク」×「オンガク」のような、いわば会社の事業に直接関係のない取り組みを進めるのはなぜでしょうか。
BPO・コンタクトセンター業務はデジタル化が進む分野ではありますが、最終的にお客様に寄り添うのはスタッフという「人材」です。そのため、スタッフが心地よく働ける職場環境をきちんと用意したいと思っています。「仕事以外に大切にしているものを、私たちは応援します」と会社が意思表示することは、スタッフの安心につながると考えています。
こうした取り組みは、採用面にもメリットがあると感じています。たとえば、ミュージシャンの社員が登場するPR動画を作成するなど、広報活動に活かすことができました。「こんなユニークな制度がある会社で働きませんか?」と、求人におけるフックのひとつになっています。
――それによって、実際の応募は増えましたか?
急激に増えたわけではありませんが、人材確保には一定の手応えを感じています。面接で応募者の方から、「ハタラク」×「オンガク」の話題が出ることもありますから。
社内では、友人を紹介してくれたスタッフに紹介料を支給する「友人紹介制度」との併用効果がありました。バンドや劇団に所属するスタッフが、「理解がある職場」として周囲の人に口コミで薦めてくれているようです。どんな仕事なのか理解が進んだ状態で応募してもらえると、入社の確度も高く、採用後も定着する傾向があります。5人組バンドのうちメンバー4人が当社のスタッフとして働いている、なんてこともありました。
このように、インターネット上での求人を中心にしながらも、口コミなど幅広い方法で採用を行なっています。
――スタッフの夢を応援することが、新しい人材との出会いを呼んでいるわけですね。
そうですね。採用後のミスマッチを防ぐという意味でも、とても高い効果を感じています。他にも、「ハタラク」×「オンガク」をきっかけに音楽専門学校から企業説明会の打診を受け、学生の採用に至ったことがありました。
この時に同校の先生に言われた「生徒は音楽の道でキャリア形成を目指すけれど、全員がプロにはなれない。かといって、彼らのライフワークを理解してくれる環境での就職も難しい。そうやって取り残されてしまう人を救い上げてほしい」という言葉が印象に残っています。
――これまで働き手として活躍してもらうのが難しかった人材を採用できる、と。
創作活動をしながら働きたい方は、正社員だと拘束時間が長いため、安定したパートタイムの仕事を探している人が多いんですよね。そんな方の受け皿になれたら嬉しいです。
弊社は、夢を諦めずに働ける会社です。もちろん勤務中はしっかり集中してもらいますが、ライブの日はしっかり休みを取れますし、条件を満たせば有給休暇の取得もできます。
夢を追うスタッフの「その後」はどうなる?
バンド活動を行うスタッフ
――夢を追いながら働くスタッフが、実際に夢を叶えることもあるわけですよね。
もちろんです。夢を叶えて当社を卒業する方は、気持ちよく送り出しています。その一方で、目標に届いてからもWワークを続ける方も結構いらっしゃいますね。
というのも、音楽や演劇の世界で安定した収入をすぐに得るのは難しいからです。新しい職場を探すのは本人にとっても負担なので、それなら働き方を調整して在籍してもらえたらと思います。
――働き方を調整するとは、具体的にどのような勤務になるのでしょうか。
たとえば、週あたりの就業回数や就業時間を減らしたり、通いやすい別の事業所に異動したりすることができます。「X時からY時まで働きたい」など、既存のパターンにないシフト希望にもできるだけ対応しています。
――夢を叶えるまでの道のりに苦戦している方は、その後どんなキャリア選択をされていますか…?
「夢は諦めた。今の仕事をもっと頑張りたい」と思った方には、キャリアアップの制度を活用してもらいます。コンタクトセンターのスーパーバイザー(現場管理者)として活躍する方もいますし、試験と面接を通過すれば、「正社員」という新しいステップに進むこともできるわけです。ただし、これは本人の考え方次第です。夢を仕事にすることを諦めた後、何を目指すかは人それぞれですから。
キャリアアップを目指す方もいれば、プロは諦めてもライフワークとして音楽や演劇を続けるために有期雇用のまま働き続けたいという方もいます。採用・人事としては、できるだけ各自の希望を叶えられるよう取り組みつつ、画一的なキャリアプランを押しつけることはしません。一人ひとりのライフスタイルを応援することで、安心して長く働ける職場を制度や企業文化の面から作っていきたいですね。
<取材先>
株式会社KDDIエボルバ
採用企画部 採用統括グループ 黒木さん 阿部さん
https://www.k-evolva.com/
TEXT:森夏紀/ノオト
EDITING:Indeed Japan + ノオト