「将来に希望を抱ける社会が必要」
遠隔操作の分身ロボットを開発、オリィ研究所が考える就業環境
外出や意思疎通が困難な人の「孤独」という課題をテクノロジーで解決し、「これからの時代の新たな社会参加」を掲げるオリィ研究所。
難病・身体障害などにより移動困難な方が遠隔操作できる分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」をはじめ、目の動きで意思を伝えられるデジタル文字盤などを開発。2021年には、ALSなどの難病や重度障害で外出が難しい人が分身ロボットを遠隔操作して働く分身ロボットカフェを常設開店しました。
新しい働き方を提案し続ける同社。障害がある人と働くことや同社が考える新しい社会へのビジョンについて、同社人材事業部FLEMEEチーム部門責任者の加藤寛聡さんにお話を伺いました。
難病・身体障害などにより移動困難な方が遠隔操作できる分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」をはじめ、目の動きで意思を伝えられるデジタル文字盤などを開発。2021年には、ALSなどの難病や重度障害で外出が難しい人が分身ロボットを遠隔操作して働く分身ロボットカフェを常設開店しました。
新しい働き方を提案し続ける同社。障害がある人と働くことや同社が考える新しい社会へのビジョンについて、同社人材事業部FLEMEEチーム部門責任者の加藤寛聡さんにお話を伺いました。
「分身ロボットカフェDAWN ver.β」の店内では、外出困難者がロボットを遠隔操作して接客している
公開日:2023/07/07
障害がある子どもが将来を思い描くとき、職業選択ができる未来になってほしい
――加藤さんは理学療法士としてキャリアをスタートし、その後オリィ研究所に入社されています。これまでの勤務経験から障害がある方々と触れ合う機会が多かったと聞きました。当事者に共通する困難や課題には、どんなものがあると考えますか。
私がオリィ研究所に入社した理由にもつながるのですが、障害がある子どもたちが自分の将来を想像した時、明るい未来を描けないことが挙げられます。理学療法士として勤務していた頃から、先天性の小児疾患を持つ子どもや、成長した大人に関わってきました。呼吸器を装着したり、車いすだったり、疾患は様々ですけど、小学生の間はその子なりに楽しく生きていけるんです。
でも中高生で進路を考え始めると、変わっていきます。やりたいことや進路について聞かれても、「選択肢なんかないでしょ」という気持ちになってしまうんですよね。「将来何をやりたいか」ではなく、「私がやれることは何だろうか」という方向でしか考えられなくなるのです。
――障害がある子どもたちの将来の選択肢は、現在どのようなものがあるのでしょうか。
障害といっても様々な性質があるので一概には言えませんが、勉強ができて能力が高くても、車いすが大きいから会社に物理的に入れなかったり、呼吸器を装着しているから出社できなかったりして就労できないケースがあります。そうすると、高校卒業後は馴染みのある福祉関係の仕事に進むか、それも難しければ生活介護、就労支援に通うしかほとんど道はありません。福祉関係の仕事は本人が面白みを感じればもちろんよいですが、本当に働きたい業界や職業が別にある場合は挫折感を味わってしまいます。
仮に一般企業へ入社しても体調を犠牲にしたり体力的な無理をして疲労困憊になり、20代は何とかなっても長くは続けられない働き方をしている方もいます。
新しいことへ挑戦するマインドを育む教育の必要性
――オリィ研究所では、孤独を抱える人の困難をどのように解決しようとしているのでしょうか。
代表的な開発の一つに、分身ロボット「OriHime」があります。iPadやパソコンから操作して動かせるロボットで、子どものユースケースとしては、現在は引きこもりや入院中の子どもの分身として、学校で授業を受けたり放課後に友達と話したりするのに使われています。
分身ロボット「OriHime」
デジタル透明文字盤「OriHime eye+Switch」の画面
――その人の障害に合わせた新しい働き方を提案しているんですね。そんな中、どのような課題を感じていますか。
OriHimeはパソコンやiPadを使って動かしますから、ITリテラシーや新しいことに挑戦するマインドがどうしても必要です。それがある人は、OriHimeのパイロットとして活躍されているように感じます。
一方で、挑戦する気持ちがわかないのは本人が悪いのかというと、そういうわけでもありません。特別支援学校や福祉の現場では、どうしても手厚くサポートされる経験が多くあります。だからある意味、本人が何もしなくても生活が回っていくような部分があるんです。
OriHimeが開発されて、障害がある人の選択肢が広がるといっても、特別支援学校の先生たちはすごく忙しい。子どもたちにどんなことを教えればいいのか、新しい情報をインプットするだけの時間的余裕がありません。
何かに挑戦しようと思えるようになるには、将来に希望を抱ける社会が必要です。その根本を変えるには、学校教育の現場も巻き込んでアップデートしていく必要があると感じています。
相手の仕事に対して、感謝とリスペクトを持つことが大切
――障害がある人がさまざまなツールを活用して社会参加しようとするとき、周囲の人たちはどんな姿勢、振る舞いで受け止めるべきでしょうか。
大切なことは2つあります。一つは障害者の特性とどう向き合うか。障害によって必要な配慮事項があるから、そこを十分に理解することが必要です。例えば、定期的な通院に対して時間的配慮が要るのか。急に体調不良になる場合、どんなサポートをするか。
「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」で働くパイロットは、1時間前に出勤が難しくなってもほかのパイロットがバックアップできるような仕組みを作っています。そういう仕組み設計や配慮があれば、障害がある人も安心して働けると思います。
「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」で接客する「OriHime-D」
そういうリモートワークの仕組みは、決して障害がある人だけに必要なわけではないんです。出産や育児、介護など、人生でリモートワークが必要となるフェーズはいくつもある。だから、すべての人にとって働きやすい環境を考えればいいんだと思います。
――加藤さんやオリィ研究所の社員の方々は、業務に携わる中で障害がある方にどんな配慮をされていますか?
カップを運ぶ「OriHime-D」
だから、まずはコミュニケーションが取りやすいように、ちょっとしたことでもしっかりとリアクションやフィードバックをするようにしています。特に最初は、週に1回以上はオンラインミーティングで顔を合わせて話す。そして、チャットのやり取りでは忙しくても放置せず、「後で返します」とまずはコメントを残す。1日返事がないだけで人って疎外感を抱くものです。
あとは、特別扱いしないことも大事です。決して上から目線にはならないように、相手をリスペクトするんです。ここで大切なのは、「やってもらいたい仕事をしてもらう」ことです。たとえばシンプルな書類整理の仕事でも、本当にやってもらわないと困る仕事であればお願いしてもいいですが、業務効率化すれば不要になる仕事なのに、その人の仕事がなくなるから残しているというのは良くないと考えています。
お願いしている側も、心から「ありがとう」という気持ちがわかないんじゃないでしょうか。やらなくてもいいことを頼むとリスペクトが失われてしまうので、そういった関係性とならないようにすることは大切だと思います。
自分が社会のお荷物に感じられる時って、きっと自己肯定感は生まれてこないですよね。障害がある人が自信をもって自分の仕事や役割を示す。そういうことができるWin-Winな仕事であることが、お互いの関係性に結びついていくと思います。
誰もが働きやすい、柔軟な選択肢が見つかる未来に向かって
――障害がある方々と一緒に働くとき、企業として考えるべきこと、一緒に働く人たちが考えるべきことについて、それぞれメッセージをいただけますか。
SDGsやダイバーシティなどのトピックが社会で重要視されるようになり、障害というキーワードもその中に入ってくるようになりました。これからは、人的資本の情報開示なども重要視されていきます。現在は女性が活躍する社会から盛り上がりを見せていますが、障害も同様に重要なトピックとなっていくでしょう。
特に1990年代後半から2010年代に生まれたZ世代は、障害がある人々やマイノリティに対する姿勢に敏感です。就職する企業の選択においては、年収だけではなく、障害やマイノリティに対する取り組みを評価する傾向にありますから、企業としてもこの課題に積極的に取り組み、人材確保につなげることが大切です。そうすれば、従業員は働きやすく、結果として企業にとってもプラスとなるでしょう。
一方で、一緒に働く人たちには、障害者雇用の制度自体をあまり知らない人も多いと思います。もしかすると、会社が障害者雇用率を達成するためだけに採用された人と一緒に働くことになった方もいるかもしれません。でも、「やらなきゃいけないから仕方なくやる」というのは誰にとっても嬉しい状況ではないですよね。
だから、「どんな条件でも、誰もが働きやすい環境って素敵だよね。そこを目指そうよ」という考え方に視点を置いてみてはいかがでしょうか。障害だけでなく、子育てや介護、LGBTQ+の自己開示、さまざまな課題があるけれど、やっぱりあらゆる人が働きやすいのは素晴らしい。なぜなら、自分たちがいつ同じ立場になるか、分からないからです。
誰もが働きやすい世界を作る。そのためには、たくさんの柔軟な選択肢があるといいはずです。たとえばテレワークや時短勤務、フレックスタイム制、途中で抜けられる中抜けの仕組み。そこにあるのは誰かのために我慢して仕事をカバーするんじゃなくて、ゆくゆくは相手にしたことが自分にも戻ってくるような「お互い様」の世界だと思います。
Profile
株式会社オリィ研究所 人材事業部FLEMEE(フレミー)チーム 部門責任者
加藤寛聡 さん
名古屋大学大学院にてリハビリテーション療法学を修了後、先天性の小児疾患を持つ子どもから大人までの在宅リハビリテーションで理学療法士として8年間勤務。その後、オリィ研究所に入社し、事業開発部で人材事業の新規立ち上げ、推進を担当する。
加藤寛聡 さん
社会への取り組み
Indeedは、「We help people get jobs.」をミッションとし、
あらゆる人々が自分に合った仕事を見つけられるような社会の実現を目指して、
人々が仕事やキャリア形成に向けて多様な可能性を感じられる機会の創出に取り組んでいます。