「著作権」には二つの意味がある?
――著作権とはどのような権利なのか、教えてください。
著作権について、その意味をきちんと理解しきれている方は、意外と多くはないかもしれません。そこに、著作権の難しさの理由があると思います。実は、「著作者の権利」の中に、「著作権(財産権)」(狭義の著作権)と「著作者人格権」があるのです。この二つを合わせて、「著作権」(広義)と呼んでいる場合もあり、混同してしまいがちです。その上で、「著作権(財産権)」(狭義)と、「著作者人格権」について説明します。
まず大前提として、著作物とは「「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」」(著作権法2条1項1号)のことです。著作物を作ると、自動的に著作者の権利が発生します(著作権法17条)。
【著作権(財産権)】
狭義の著作権(財産権)とは、著作物をコピーする(複製権)、インターネット上にアップする(公衆送信権)、商品パッケージにして販売する(譲渡権)など、著作物の扱い方に関する様々な権利の集合体です。つまり、著作物に対する権利をいくつも集めた「花束」のようなものが「著作権(財産権)」となり、これらの権利は譲渡したり貸与したりすることができます。
【著作者人格権】
一方の著作者人格権とは、著作者のこだわり、考えや気持ちを守る権利のことです。著作権(財産権)は譲渡できますが、著作者人格権は譲渡できず、著作者自身が持ち続けることになります。具体的な権利の内容には次の3つがあります。
・氏名表示権
著作者が氏名を表示するか、表示する場合には本名にするか、ペンネームにするかを決められる権利。
・公表権
著作物を公表するか、公表する場合はどのような方法で公表するかを決める権利。
・同一性保持権
著作者が自分の著作物の内容を、他の人に勝手に変えられないようにする権利。
著作権の契約を結ぶ際に、著作権(財産権)はきちんと網羅されていても、著作者人格権が置き去りとなり、後々トラブルにつながるケースもあるので、こうした権利があるということもぜひ知っておいてください。著作者と契約を結ぶときに、「著作者人格権を行使しない」とあらかじめ約束しておくなど、著作者人格権についてきちんと話をしておくと、事後のトラブルを防ぐことが可能です。
著作権はあらゆる場面に関わっている
――労務関係で、著作権が関わる事例にはどのような場面がありますか。
著作権の侵害に抵触する恐れがある場面は様々ですが、実例を踏まえていくつか紹介します。
たとえば、営業関係で競合他社の情報をインターネットから探して資料を作り、それを社内会議で配るというケースです。また、自社が掲載された新聞紙面を、新聞社の許可を取らずにホームページに載せたり、新聞を1部しか購読していないのに記事をコピーして社内で配布したりするケースもよくあることだと思います。
いずれの場合も「少人数の社内で行うことなので著作権の侵害にはならないだろう」と考えてしまうかもしれませんが、そうとは限りません。
――上記のような事例で、訴えられるケースもあるのでしょうか。
実際に著作権の侵害にあたると判断されたケースもあるので注意が必要です。2021年に政府の個人情報保護委員会が、全国紙、地方紙を含む約100媒体の新聞記事のコピーや電子ファイルを利用許諾を得ずに無断で共有していた事例がありました。2015年から続いていたため、遡って各社に記事の使用料を支払うことになりました。
――社内だけで使用・閲覧するケースでも、著作権には注意が必要なのですね。
もともと著作者への弊害を少なくするために作られた法律なので、会社のような営利目的の組織で使う場合は少人数の部署内であっても認められないケースが多いと思います。ただし、「個人的」または「家庭内その他これに準ずる限られた範囲」で使う場合は「私的使用」と定義され、著作者への許諾なしで自由に使うことができます(著作権法30条「私的利用のための複製」)。
たとえば、自分が勉強するために著作物をコピーする場合には自由に使えます。その点をしっかり押さえておくとよいでしょう。
――逆に、企業側が著作者で、権利が脅かされないように注意すべきケースもあるのでしょうか?
独自に作り上げてきたメソッドやノウハウで利益を上げる企業において、リモートワークの増加や人材の流動性の高まりから、それらのアイデアが流出するリスクを心配している担当者も多いのではないでしょうか。この場合、アイデアには形がないので、それ自体を著作物とするのは難しいことが多いですが、教材や動画、マニュアルという形あるものは著作物となります。その権利を守りつつ、アイデアそのものが流出することを防ぐために、従業員と秘密保持義務や、競業避止義務(※1)を結ぶ、または就業規則で規定するなどしてカバーして権利を守る必要があると思います。
※1…所属する企業の不利益となる競業行為を禁止するもの
悪意がなくても、著作権を侵害してしまう代償は大きい
――もし著作権を侵害してしまった場合には、どのような罰則がありますか?
著作権を侵害した場合の罰則には、大きく分けて刑事と民事があります。
刑事罰は、著作権法第119条に書かれており、著作権、出版権または著作隣接権を侵害した場合、「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、または併科する」、人格権を侵害した場合は「5年以下、もしくは500万円以下の罰金、または併科する」と規定されています。これは、なかなか重い罰則です。
民事の場合は、損害賠償や不当に得られた利益の返還、著作権侵害に当たる商品などの販売の差し止め、インターネットからの削除などが求められます。商品のデザインに関する著作権を侵害した場合、商品回収だけでなく、生産工場の金型や型紙なども全部変えなければならなくなるなど多大な影響が及んでしまいます。これらに加えて、企業の信頼に傷が付き、大きな痛手となってしまいます。
これらのリスクを回避するため、また自社の著作権が侵害される事態を防ぐためにも、著作権に関する正しい知識を身につけておくことが重要だと思います。
※記事内で取り上げた法令は2021年10月時点のものです。
<取材先>
恵美法律事務所 代表 鈴木恵美さん
弁護士。名古屋大学法科大学院実務法曹養成専攻修了(法務博士)。法律事務所所属を経て、2019年に恵美法律事務所を開設。各種講演、知的財産権を中心に、大学での講師、執筆活動、著作権に関するゲーム制作などを手掛けている。
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト