身近で起こりうる著作権侵害の事例とは
――著作権の侵害が起こってしまった事例を教えてください。
1 外注で著作権侵害が発生したケース
2018年、焼菓子のパッケージに描かれたパンダのイラストが、自身の描いたイラストに酷似しているとして、著作者であるイラストレーターが製造会社を提訴した事例があります。(判決日 2019年3月13日)
訴えられた企業は、「同商品のパッケージ等は外注業者である補助参加人が制作したものであり、外注業者の制作に係るデザインについて全てを管理することは事実上困難である」と主張しましたが、裁判所は「他人のイラストに依拠していないかを確認すべき注意義務を負っていたと認めるのが相当である」と制作を依頼した企業の過失を認定し、企業は損害賠償を支払うことになりました。
これは一例ですが、企業が外部の事業者にイラストやデザイン制作を依頼するケースは非常に多いので気をつけなければならない事例です。万が一、そこで著作権の侵害が起こった場合には、企業がその責任を問われうることになります。この例を見ても分かるように、お金を支払って外部に委託していても依頼した企業には責任がないということにはなりません。
少なくとも企業側は、そのような危険性がないかを仕上がった制作物や外注先に確認することが必要です。仕事を依頼する際に、制作物がオリジナルであることを確認するチェックシートを作っておき、納品時に提出を求めるといったフローも有効でしょう。
2 無許可の画像を広報誌に使用してしまったケース
もう一つ、多くの企業であり得る例を紹介します。大分県の農林水産研究指導センターの研究員が、2012年に内部用の予算資料を作るために、インターネット上のヒラマサの画像を使用しました。使用後はパソコンに画像を保存していたのですが、別の職員はインターネットから勝手に入手したものだとは知らず、その写真を加工して2014年に広報誌に利用したという事例がありました。ヒラマサを撮影した写真家が2020年に指摘し、県は写真家に使用料と賠償金を約49万円支払いました。
この事例のように、出所が分からないまま画像データを保存し、他の誰かが使ってしまうというケースは多くの企業で起こりうることです。社内のパソコンに画像を保存する際は、購入画像であるか分かるようにするなど、著作物の出所をはっきりさせておくことが重要です。
著作権にまつわる社内ガイドラインの作成を
――このような事態を防ぐために、どんな対策が必要でしょうか?
人事労務担当者が中心となって、いくつかの事例を挙げ、それが著作権法の侵害になるかどうかを示すなど分かりやすい社内ガイドラインを作りましょう。たとえば、「買い取った画像やイラストなどの素材データは使用できるが、出所が分からないものは使ってはならない」など具体的なケースごとにOKかNGかを示すのが良いでしょう。
加えて、著作権について知ることが重要なので、著作権の情報が得られるサイトの情報などを社内で共有しておくとよいでしょう。公益社団法人著作権情報センター(CRIC)のホームページには「みんなのための著作権教室」で、著作権について分かりやすい解説を掲載しています。こうした手掛かりを案内することで、従業員の皆さんの意識も変わってくると思います。
また、文化庁のホームページ内の「誰でもできる著作権契約」や、「誰でもできる著作権契約マニュアル」を上手に活用すると便利です。
――著作権とはどういう権利なのか、ポイントを押さえておくことでトラブルを未然に防げるのですね。
著作権と聞くと「知らず知らずのうちに侵害してしまっているのでは?」と不安を抱える人も少なくないでしょう。しかし、そもそも著作権は、著作者の権利を守るためのルールであり、著作者の権利を保護しながら文化を発展させることを究極の目的としています。
みんなが気持ち良く、著作物を活用しながら文化の発展につなげていくためのものなので、多くの皆さんが著作権についてのポイントをしっかり押さえて、安心して著作物を利用し、創作物を生み出していけるようになればと願っています。
※記事内で取り上げた法令は2021年10月時点のものです。
<取材先>
恵美法律事務所 代表 鈴木恵美さん
弁護士。名古屋大学法科大学院実務法曹養成専攻修了(法務博士)。法律事務所所属を経て、2019年に恵美法律事務所を開設。各種講演、知的財産権を中心に、大学での講師、執筆活動、著作権に関するゲーム制作などを手掛けている。
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト



