勤務態度を把握しづらい? 在宅ワークの人事評価が難しい理由
――各企業で在宅ワークが広がる一方、「既存の人事評価制度を適用しづらい」という声が挙がっているようです。なぜ評価が難しくなってしまうのでしょうか。
在宅ワークでの人事評価が難しくなる理由としては、下記のようなポイントが挙げられます。
- 勤務態度が見えづらい
- 成果につながる行動を把握しづらい
- 勤務時間を正確に把握しづらい
- 評価項目の設定が難しい
人事評価に紐づく要素として、労務管理や給与体系があります。「在宅ワークだと管理や評価ができない」「給料の計算ができない」といった事態にならないよう、勤務時間や勤務態度をきちんと把握しなければなりません。
――在宅ワーク社員の勤務態度を把握するには、どうすればいいのでしょうか?
勤務態度を把握して正確な人事評価をするためには、スケジュール管理が必須です。「9~10時はお客様と商談、13~14時は営業部の○○さんとミーティング」など、その日の予定を報告してもらったり、業務終了時に日報を提出してもらったりするのが現実的な対応でしょう。
私の部署では、在宅ワークに移行してから必ずオンラインで朝礼を行っています。朝しっかり顔を合わせて確認できる場があると、その後の仕事もスムーズに進められるでしょう。終礼を行い、業務報告をする時間を設けるのも効果的です。
また、対策の一例として、WordやExcelなどソフトの起動時間を計測するITツールを導入し、システムで管理する方法があります。ただし社員の立場からすると、常に監視されているような気持ちになってしまう可能性があり、注意が必要です。
――「評価項目の設定が難しい」という理由が挙がっていますが、評価項目とは具体的にどういう内容なのでしょうか?
評価項目には、「積極性があるか」「報告・連絡・相談ができているか」といった定性評価と、売上金額や契約件数などの定量評価があります。在宅ワーク社員と話したり、業務の進捗報告を受けたりするなど、オンライン上のコミュニケーションを積極的に取れるかどうかが、正確な人事評価のカギとなるでしょう。
個人の成果が見えにくい場合は? 人事評価で見直したいポイント
――在宅ワークを導入する場合、人事評価制度をどのように修正するべきなのでしょうか?
在宅ワークになると、「上司はちゃんと働きぶりを見てくれているのだろうか」といった不信感が生まれるかもしれません。評価に対する不満を減らすには、MBO(Management By Objective、目標管理制度)や定量的な評価が適しています。数字で示せば、「この評価には納得できない」という反発が減るからです。
MBOとは、年初や新しい期が始まる前に従業員自身で売上目標を設定し、その達成度合いを評価していく手法です。日本ではこの評価制度を導入している企業がもっとも多いでしょう。
――「売上目標金額○○円に対し、達成率△△%」など、一般的に使われている評価制度ですね。では具体的にどのような評価項目を設定すればいいのでしょうか。
KGI(Key Goal Indicator、重要目標達成指標)、つまり目標に対する評価は、在宅ワークであっても大きく変えなくてよいでしょう。もっとも分かりやすい指標は、売上金額や契約数などです。それに加えて、プロセスの中で大事な目標、KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)も定量的に評価しなければなりません。
たとえば「9月の商談数は10件、そのうち契約数は4件なので、契約率は40%」と数字を出し、評価する。それとともに、最終的な売上金額も評価する。プロセスと最終結果、どちらも大事な評価項目です。ただし、KGIとKPIの評価の割合は、業界や職種によって適切に変えなければなりません。
――なぜ業界や職種によって変える必要があるのでしょうか?
個人の結果が見えやすい仕事と、見えづらい仕事があるからです。たとえば保険会社の営業マンでいうと、Aさんは売上500万円、Bさんは800万円……と1人ずつの売上があり、その合計が会社全体の売上になります。個人の成果が見えやすく、目標管理制度を導入しやすいでしょう。
一方IT系の企業では、Aさんは営業、Bさんはマーケティング、Cさんはプログラミングと、チームで1つのサービスに携わるケースが少なくありません。チーム単位で「初年度売上○○万円を目指そう」「新規ユーザーを△△名獲得しよう」という目標は立てられますが、Bさんがどれだけ貢献したかは明確に区分しづらいでしょう。
個人の成績が見えやすい場合は「結果に対する比重を高めにした評価制度」に、チーム単位で目標を設定する場合は「プロセスに比重をおく評価制度」にする必要があります。
――総務や経理など後方支援の部署に対しては、どのような人事評価をすればいいのでしょうか?
事務系も成果が見えづらい職種の一つですね。そのため定量ではなく、定性的な評価をしている企業が多いでしょう。定性評価では、仕事の正確性や処理スピードをみるのが一般的です。また、「積極性があるか」「チャレンジ精神を持っているか」「チームワークがあるか」という点も加味します。
一方で、事務コストをきっちり計測している企業があります。たとえば、事務スタッフのAさんが見積書を5件作成したとしましょう。見積書1件につき5,000円の価値があると設定すれば、2万5,000円分の仕事をしたことになります。どれぐらい貢献しているのか数値で示せば、在宅ワークであっても成果の見える化が可能です。ただ、そこまで数値化できている会社はまだ少ないかもしれません。
労働条件の再確認を 在宅ワークで変わる給与体系
――人事評価に紐づいて考えなければならないのが、給与計算です。新型コロナウイルスの影響で給与体系の変化は起きていますか?
固定給と変動給の比率を変えようという動きは出ています。固定給は基本給や役職手当など、変動給は売上に対する歩合給を指します。
昨年までは求人倍率が高く採用難だったので、「固定給で月●万円~」と募集要項に提示し、優秀な人材を採る動きが活発でした。しかし新型コロナウイルスの感染が拡大してからは、「変動給の比率を上げたい」という声が挙がっています。変動給の比率を上げれば、利益が上がった場合に給料を増やし、利益が少ない場合は給料を減らすことができます。経営者としては安心ですが、働く側にとってはデメリットになるかもしれません。
――交通費や残業代についてはいかがでしょうか? 見直すべきポイントを教えてください。
在宅ワークによって変化するのは、おもに「通勤手当」と「みなし残業」でしょう。もし完全に在宅ワークとなれば、交通費を払う必要がなくなります。
みなし残業とは、「月30時間」など一定時間の残業代をあらかじめ給料の中に含ませておく制度で、固定残業制度ともいわれています。30時間分のみなし残業代を払っているのに、在宅ワークによって残業時間が月10時間になれば、余分に払うことになります。
新型コロナウイルスの影響で仕事が減っている中、「みなし残業代を多く払い過ぎているのでは?」と疑問に感じている経営者もいるでしょう。
――在宅ワークによって残業が減れば、そのぶん残業代も少なくせざるをえないということですね。しかし、従業員から反発や不満が発生する可能性があるのでは?
給与体系を変更する場合、基本的には就業規則の変更や従業員との合意が必要です。一方的な判断で行うと、あとでトラブルになりかねません。評価指標とともに、基本の勤務時間や残業手当、休日勤務など、労働条件を再確認し、双方が納得した上で在宅ワーク導入を進めましょう。
<取材先>
株式会社船井総合研究所 HR支援本部
HRD支援部 シニア経営コンサルタント
宮花宙希さん
船井総合研究所に入社後、不動産ビジネス・通販ビジネス・自動車販売店のコンサルティングを手がけ、様々な規模の企業支援に携わる。現在は住宅・不動産部門の人財コンサルティングチームにて、主に評価制度を担当。人材採用から人を育てる評価制度構築支援などを手がけ、総合的なマネジメント強化による業績アップを得意としている。
船井総合研究所/人材開発コンサルティング ホームページ
https://hrd.funaisoken.co.jp/
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト