デジタル化、オンライン化が必須? 在宅ワーク導入で見直すべき人事業務


新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの企業が在宅ワーク(テレワーク、リモートワーク)の導入を始めました。一方で、現場では様々な課題が浮き彫りになっています。その一つが、人事部における業務内容の変革です。
 
在宅ワークの導入が進むと、人事部の仕事はどのように変化するのでしょうか。見直すべき人事業務や、これから人事担当者に求められる役割について、専門家にお聞きしました。株式会社船井総合研究所HR支援本部のシニア経営コンサルタント・宮花宙希さんが解説します。

 
 

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在宅ワークは「手段」 何のために導入するのか「目的」を明確に


――新型コロナウイルスの影響で在宅ワークの導入が進むなか、現場ではどのような課題が挙がっていますか?
 
もっとも多いのは、社内コミュニケーションや情報セキュリティに対する不安の声です。また、「適切な労務管理が困難」「人事評価が難しい」「在宅ワーク社員の給与計算をどうすればいいのか」など、人事関連の悩みも多く聞かれます。
 
そもそも、個々の課題を考える前に、在宅ワークを導入すること自体が目的になっていないか見直す必要があるでしょう。在宅ワークはあくまで働き方の「手段」であり、その先にある「目的」を明確にしておかないと、良い効果が期待できません。
 
――何を目指して在宅ワークを導入するのか、事前に考えておかなければいけないということですね。では、どのような目的を設定すればいいのでしょうか?
 
在宅ワークの主な目的は、下記の4つです。

 

  1. 非常事態対応(疫病・災害等)
  2. 人材の確保・流出防止
  3. 働き方改革
  4. コストダウン


「非常事態対応」は、まさに今回の新型コロナウイルスのような状況への対応です。今後同じような事態になっても、ある程度の売上を確保し、仕事がストップすることのないよう準備しておかなければなりません。
 
「人材の確保・流出防止」は、人事において大きなメリットです。これまでは通勤できる場所に住んでいる人しか採用できませんでしたが、「在宅ワークOK」とすることで採用エリアを全国に広げられます。人口が減少しているエリアでは、通勤圏内で専門職を採用するのが難しくなっています。ところが、在宅ワークであれば別のエリアで活躍する人材を活用することもできるのです。
 
具体例を挙げると、とある地方の建築会社では、設計など専門職の職務をリモートで管理しています。ほかにも、「パートナーの転勤で引っ越すことになった優秀な従業員に、在宅ワークで引き続き勤務してもらう」といったように、離職を回避することもできるでしょう。
 
――なるほど。働き方改革は、数年前から議論されているテーマですよね。
 
「働き方改革」については、在宅ワーク導入による効果がすでに出ています。総務省「テレワークの最新動向と総務省の政策展開」によると、「テレワークを積極的に導入している企業の6割以上で、労働時間が減少した」という結果が報告されています。
 
これは主に、移動時間の短縮による効果と考えられるでしょう。通勤や「営業活動で1日に何社も回る」といった移動コストがなくなり、その時間を別の業務に充てることができます。
 
「コストダウン」は、オフィスのスペース削減による家賃のコストダウン、水道光熱費や消耗品費の削減といったメリットが挙げられます。
 
まずは上記のような目的を明確にした上で、社内の体制を構築し、環境を整備していくことが重要です。

 
 

「スカウト型」が増える? 採用活動の変革


――人事業務の中で大きな要素となるのが、採用活動です。最新の採用事情について教えてください。
 
2019年までは全体的に求人倍率が高く、企業は積極的に採用活動を行っていました。しかし、新型コロナウイルスの影響により、「このまま採用活動を続けていいのだろうか」と悩んでいる人事担当者が多いようです。事業計画や経営戦略に対して慎重になっており、採用自体をストップしている企業も少なくありません。
 
新卒採用でいうと、東京ビッグサイトや幕張メッセなど、大きな会場で合同企業説明会を開催するのが通例です。しかし今年はコロナの影響で、大手の人材会社が開催する合同企業説明会がすべて中止になってしまいました。
 
その代わりとして拡大したのが、オンライン面接とスカウト型の採用です。スカウト型とは、学生がネット上に公開したプロフィールを人事担当者が確認し、企業側からオファーをする仕組みです。もし学生が「話を聞いてみたい」と興味を示せば、オンライン説明会や選考へと誘導します。
 
会社説明会や書類選考、面接など、従来アナログで行っていたことのオンライン化はどんどん進んでいくでしょう。
 
――採用活動が変化するなかで、どのように選考を進めていけばいいのでしょうか?
 
新卒採用については、ただ人数を増やすのではなく、採りたい人材を絞る方向へシフトしなければなりません。いわば「量から質への転換」です。応募者のポテンシャルを見極め、「この人が欲しい」と思う人材に絞り込むことが重要となります。
 
中途採用の場合は、やはり即戦力が求められるでしょう。たとえばDX(デジタルトランスフォーメーション)による社内改革やインフラ整備などを目的とし、デジタル領域に長けている人に絞って採用していく戦略が考えられます。また、自社のマーケティングを遂行できる人など、専門的かつ経営の基盤となるような業務を担ってくれる人材を求める意識が強まるのではないでしょうか。

在宅ワーク導入で見直すべき人事業務のイメージ
 
 

求められるのは「仮説を立て、ズレを軌道修正する」能力


――在宅ワークが進むことにより、人事業務は今後どのように変化していくのでしょうか。
 
労務や勤怠管理、給与計算、社会保険などは、従業員を雇用しているかぎり必須の仕事であり、いくら在宅ワークが進んでもなくなりません。ただ「HRテック」と言われるような、システムやアプリケーションの導入が進む可能性は高いでしょう。
 
勤怠管理でいうと、昔ながらのタイムカードでの管理では、在宅ワークに対応できません。最近では、スマートフォンから業務開始の打刻ができる勤怠管理アプリやシステムがあります。初期費用の問題はありますが、そういったシステムを導入すれば、人事業務を効率化できるでしょう。
 
――HR系のシステムを導入するには、上司や役員層を説得する努力が必要になりますよね?
 
おっしゃる通りです。人事領域におけるデジタルツールの導入は、メリットは提示できても、費用対効果を説明しづらいという難点があります。「勤怠管理のシステムを導入することで、人事部の生産性がどれくらい上がるのか」と問われても、具体的に証明するのはなかなか難しいでしょう。
 
費用対効果の議論になると、稟議で却下されてしまう可能性があります。時代の流れを読みながら、「人材確保や働き方改革の実現にとって、デジタル化・オンライン化が必要不可欠である」といった理由づけをして、上司や役員層を説得してみましょう。
 
――今後、人事担当者はどのようなスキルが求められるのでしょうか。
 
仮説を立て、細かくスピーディーに動いていかなければなりません。コロナの影響がいつ落ち着くのか予測できず、以前にも増して先行き不透明な時代になっています。仮説を立てながら、進むべき方向性を模索するスキルが求められるでしょう。
 
また、競合他社の動きやお客様がどう感じているか、リアルタイムで情報収集していく必要があります。世間のマインドの変化や他社の動向など、できる限り情報を集めて、自分たちがやっていることがズレているなと感じたらすぐに軌道修正する。そういった機敏さが求められると思います。
 
――世の中の変化をつかみながら、業務を遂行する必要があるということですね。では、どのような手法で情報収集すればいいのでしょうか?
 
インターネットやマスメディアはもちろん、人事担当者が集まる勉強会などで話を聞くことも重要です。最近は人事関連のオンラインセミナーが増えています。ネット上のコミュニティやオンラインセミナーへ積極的に参加しながら、鮮度の高い情報を得ることを心がけましょう。

 
 
 

<取材先>
 

株式会社船井総合研究所 宮花宙希さん
株式会社船井総合研究所 HR支援本部
HRD支援部 シニア経営コンサルタント
宮花宙希さん
 
船井総合研究所に入社後、不動産ビジネス・通販ビジネス・自動車販売店のコンサルティングを手がけ、様々な規模の企業支援に携わる。現在は住宅・不動産部門の人財コンサルティングチームにて、主に評価制度を担当。人材採用から人を育てる評価制度構築支援などを手がけ、総合的なマネジメント強化による業績アップを得意としている。
 
船井総合研究所/人材開発コンサルティング ホームページ

https://hrd.funaisoken.co.jp/

参考:
総務省『テレワークの最新動向と総務省の政策展開』

http://teleworkkakudai.jp/event/pdf/telework_soumu.pdf

TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト

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