職務分掌とは? 導入メリット・デメリットを解説

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従業員の役職や階層ごとの役割を整理・配分し、権限や責任を明確化する「職務分掌」。会社が職務分掌を定めるメリット・デメリットについて社労士法人ビルドゥミー・コンサルティング 代表で特定社会保険労務士の望月建吾さんに聞きました。

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職務分掌とは

「職務分掌」とは、企業が従業員の役職や階層ごとの職務や権限・責任を明確にするために、それぞれの職務を整理し、規定することをいいます。
 
会社が職務分掌を導入する契機として多いのが、IPO(新規の株式公開)と人事評価の可視化です。IPOは株式上場の準備のさらに前段階として、必要に迫られて職務分掌規程をつくるパターンが多いようです。人事評価は、評価基準が可視化されていない・明確になっていないといった問題点を改善するために評価基準の大前提となる職務分掌規程を作成するなどのケースが該当します。

職務分掌のメリット・デメリット

職務分掌を定めるメリットは、以下の通りです。

◆職務分掌のメリット

・組織を運営しやすくなる

組織の規模が大きくなり、業務が複雑化されると従業員一人ひとりの役割や権限・責任が見えにくくなります。職務分掌規程を作成する際には、職務の洗い出しを行い、職務の各階層の権限や責任などを明確にします。各職務ごとの権限・責任や指揮命令系統などが明確になることで、健全な組織運営につながります。

・人材育成に役立つ

職務分掌に基づき、階層ごとの職務における権限や責任を明確にすることで、従業員が所属長の適切なマネジメントを受けながら業務をスムーズに行える」「ステップアップのためにはどういったスキルを身につければいいのかなどの目標を立てやすくなる」など、人材育成上のメリットがあります。

・経営上のリスクコントロールができる

リスクの源泉を1カ所に集中させないことは、リスク管理において重要です。職務分掌を定めることで、職務における権限と責任を適切に分散させられるようになります。また、複数の従業員が業務をチェックできるようになるため、不正防止にもつながります。

◆職務分掌のデメリットとその回避方法

このようなメリットがある反面、それぞれの職務や責任が明らかになることで生じるデメリットもあります。

・業務の硬直化

それぞれの職務における階層ごとの責任や役割が明らかになることで、新しい業務やイレギュラーな業務が発生した際に「これは自分の担当じゃない」などと各階層の従業員同士で仕事を押し付け合う「業務の硬直化」につながりかねません。

・従業員のモチベーション低下

職務分掌がうまく作用していれば、ステップアップの目標に向けて主体的に働くなど、従業員のモチベーション向上につながります。しかし、自分の職務ではないと判断したことに対しては上司の指示待ちの状態が起こりやすく、生産性の低下や従業員のモチベーション低下を招く恐れもあります。
 
このデメリットを回避するには、以下の2点を見直すことが肝心です。

・新たに発生した業務やイレギュラー業務の担当部署を明確にすること

自社の”ある程度大きなくくり”(例:役員エリア など)ごとに、その部門の新たに発生した業務やイレギュラー業務を担当する部署を明確にしておくことが大切です。
 
例)ある会社の営業本部の場合
営業本部には、担当する商品や相手先ごとに営業第1部から第5部まであるが、それ以外に本部長直轄で「企画グループ」を設置する。新商品や新しい大口取引先については、まずはこの企画グループが担当し、業務の標準化の後に新たな専門営業部を設置する。

・評価のあり方の見直し

人事評価に「コンピテンシー」(いうなれば「その会社の理想の従業員像」)を設定し、その達成度で評価する「役割責任達成度評価」の概念を入れるのが有効です。この場合、社内の等級は役割責任に基づく等級となり、現在の等級から上位の等級に昇格するには当該上位等級の中庸評価(SからDの5段階評価ならB評価)と同等の動きと働きがあって初めて可能となります。
 
たとえば、課長クラスに昇格したい課長代理クラスの従業員は、課長代理クラスでありながら「課長クラスの動きと働き」が求められます。これにより、前述の「業務の硬直化」とは無縁の組織となるでしょう。加えて、評価点に見合うだけの処遇(昇格・降格、給与改定、賞与)のメリハリも重要です。

・職務分掌規程の見直し

会社の組織変更や役職や階層の定義の変更、業務内容の変化などに応じて職務分掌規程を見直し、アップデートする必要があります。

職務分掌と業務分掌の違い

職務分掌と対のように語られる言葉に「業務分掌」があります。職務分掌がそれぞれの職務の権限や責任を明確化させるのに対し、業務分掌は部署ごとの担当業務や権限・責任を明確化させること指します。
 
両者の区別がつきにくい場合は、縦軸を業務分掌、横軸を職務分掌で考えるとイメージしやすくなります。
 
業務分掌:組織を部署ごとに縦軸で分割し、そこに担当業務を振り分けたもの
職務分掌:部署をさらに「部長」「課長」などの役職や階層ごとに横軸で区切り、それぞれに権限や責任を分類したもの
 
ただ、会社の成長度合いやビジネスの成熟度、実情などにより、これらの必要性は異なります。たとえば、全従業員に経営者の目が行き届き、経営者が社内のすべての業務を把握できるような状態であれば、職務分掌や業務分掌を設けなくても問題なく組織が運営できているケースもあるのです。

職務分掌規程のつくり方

職務分掌規程の作成は、経営者が自らつくることもあれば、経営管理部門などの経営者直属の担当部署が中心に取りまとめる場合もあれば、小さな会社では秘書が経営者の指示を受けながらつくることもあります。また、外部の人事系コンサルティング会社と経営管理部門と連携してつくるケースもあり、企業によって様々です。

◆職務分掌規程のつくり方

1.組織図をつくり、全従業員の所属と役職の洗い出しを行う

従業員一人一人ひとりの所属と役職が分かる詳細な組織図を作成します。この作業で、各部署や従業員の所属・役職階層の構造上の問題点を確認できます。

2.「職制規程」「等級制度規程」の整備

全社的な職制や等級の統一ルールとして、「職制規程」「等級制度規程」を作成します。

3.責任者から集めた情報を元に権限を振り分ける

2で確認した内容をもとに権限を振り分けます。作成者によって情報量や記入内容に差があるため、集めた情報をすり合わせることも大切です。

4.職務分掌規程を作成する

作成した組織図や職務の役割・権限などをもとに職務分掌表を作成します。
 
会社の変化に応じて職務分掌規程を随時アップデートさせ、円滑な組織運営に役立てましょう。


<取材先>
社労士法人ビルドゥミー・コンサルティング 代表 特定社会保険労務士 望月建吾さん
 
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

 
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