採用活動はどう変わる? 「ジョブ型雇用」を導入する場合の人事制度と4つの課題

面接をする男性

2020年はコロナ禍の影響により、従来の働き方を見直す動きが広まりました。中でも話題となっているのが、大手企業を中心に導入が進んでいる「ジョブ型雇用」。従来の雇用形態とは何が違うのでしょうか。
 
「ジョブ型かメンバーシップ型かという議論は、実は30年前から行われていたんです」
 
そう話すのは、株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門の林浩二さん。ジョブ型への移行がなかなか進まない日本の雇用慣行や、ジョブ型を導入する際の制度改革のポイント、採用活動のコツなどを聞きました。

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「ジョブ型/メンバーシップ型」の議論は、バブル経済崩壊後に始まっていた

――最近話題になっている「ジョブ型雇用」とは、どういう仕組みなのでしょうか?
 
「ジョブ型」とは職務内容や職責、必要な能力を明確にし、職務等級に応じて報酬を設定する制度です。従業員を雇用する際は職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)を作成し、明示する必要があります。欧米では主流の雇用形態です。
 
一方、日本で浸透している新卒一括採用を基本にした形式は「メンバーシップ型」と呼ばれています。職務を明確にせず組織の一員として採用し、ローテーションを繰り返しながら多様なスキルを磨いてゼネラリストを育成していく雇用形態です。
 
人事管理の専門用語では、ジョブ型は「職務等級制度」、メンバーシップ型は「職能資格制度」と呼ばれます。最近になってジョブ型・メンバーシップ型という名前で取り上げられる機会が増えましたが、実は30年ほど前から議論されてきたテーマなのです。
 
――「メンバーシップ型からジョブ型にしよう」という動きは、最近始まったわけではない、と。
 
そうですね。バブル経済が崩壊した後ぐらいから、「仕事の中身に関係なく、経験年数を重ねれば給料が上がっていく」という年功序列のメンバーシップ型(職能資格制度)は厳しいのではないか、と言われ始めました。日本経済が右肩上がりで成長しているときは問題なかったものの、バブル後は業績が上がらないにもかかわらず人件費がどんどん膨らむ状態になってしまったからです。
 
そこで注目されたのがジョブ型(職務等級制度)です。年齢や勤続年数に関係なく、職務内容および職責に応じた給料を支払うため、人件費を合理的な水準にコントロールできます。
 
しかし、ジョブ型への移行はなかなか進んでいません。理由は、従来の日本の雇用慣行と合わないから。新卒一括採用で、ローテーションをしながら育てていくやり方を手放せない企業が少なくありません。
 
――ジョブ型への転換は、どの程度進んでいるのでしょうか?
 
ある調査によると、メンバーシップ型を採用している企業は約5割、ジョブ型は2~3割程度となっています。ただ、本来のジョブ型の趣旨通りに運用できている企業は少ないのではないでしょうか。
 
というのも、形式上は「職務に応じて給料を決める」というジョブ型を採用しているものの、実際は年功序列の報酬体系になっているケースが多々あるのです。
 
たとえば、Aさんを営業部から人事部に異動させるとしましょう。本来のジョブ型だと、職務が変われば給料は下がる可能性があります。しかし、会社の都合で異動させるのに給料が下がるとなれば、Aさんのやる気が落ちてしまうかもしれません。そこで、営業部から人事部に異動しても給料を変えないのです。そのやり方ではメンバーシップ型と何ら変わりません。
 
ジョブ型への移行を模索しつつも、「ローテーションをしながら人を育てたい」というメンバーシップ型から脱却できない企業が多いのです。

 

ジョブ型雇用を導入するには? 人事制度改革と採用活動のポイント

――「ジョブ型雇用」を導入する場合、どのような制度改革をすべきなのでしょうか?
 
まず、給与体系を仕事の中身に応じた「職務給」に変える必要があります。たとえば営業課長と人事課長の職務・職責は同じではないため、“重みづけ”をしなければなりません。これが職務等級(グレード)です。
 
また、新卒者を一括採用する従来の方法は、ジョブ型とマッチしません。したがって、必要な人材を必要なときに募集する通年・随時採用の形となります。採用にあたっては、職務を明確にしたうえで職務記述書を作成することが必須条件です。

職務記述書の例 (資料提供:日本総合研究所)▲職務記述書の例 (資料提供:日本総合研究所)


上記は、教育研修マネジャーの職務記述書の例です。職務内容や職責はもちろん、その仕事をするために必要な経験、スキルなども細かく設定します。
 
――メンバーシップ型からジョブ型へ移行する場合の課題を教えてください。
 
ジョブ型への移行では、下記のような作業が課題として挙げられるでしょう。

  1. 職務記述書の作成
  2. 職務評価と職務等級の設定
  3. 職務等級ごとの報酬水準の決定と管理
  4. ゼネラリスト育成からスペシャリスト育成への転換


まず、職務記述書の作成が大きな課題の一つです。管理職であれば、組織における業務内容があらかじめ規定化されているケースが多いため、それほど難しくはないでしょう。一方で、作成に時間がかかるのは非管理職です。メンバーシップ型では仕事の中身を明確化せず、「与えた仕事は何でもやってほしい」というスタンスで管理しています。したがって、どこからどこまでがAさんの職責なのか、曖昧になっているケースが少なくありません。その状況から職務記述書を作るのは、かなり骨が折れる作業です。
 
仕事の洗い出しを行った後は、報酬に紐付けます。同じマネジャーであっても、教育研修マネジャーと営業マネジャーでは職責が異なるため、報酬に差がつくかもしれません。どの仕事の職責が重いのか評価して職務等級を設定し、適切な給料を決める。これも簡単ではないでしょう。
 
あとは人材育成です。ジョブ型では職種別の採用・育成となるため、今までのゼネラリスト育成からスペシャリスト育成に転換する必要があります。
 
――ジョブ型を導入した場合、採用活動はどうすればいいのでしょうか?
 
職務内容を基準にした採用になるので、詳細な職務記述書をあらかじめ作成することが必須です。採用時は職務内容を丁寧に説明し、必要な知識や資格があるか、適した職務経験があるかを見極めなければなりません。
 
近年IT企業において、メンバーシップ型の枠内では雇用できないハイスペック人材を採用する動きがあります。かつては「高報酬で3年間」など契約社員として雇用していたものの、2015年ぐらいから売り手市場が進み、有期契約では採用しづらい状況となりました。そこで、正社員として高い報酬を支払うジョブ型の仕組みを導入する企業が出てきたのです。
 
ベースはメンバーシップ型を維持したまま、職種のスペックが明確化されている部署だけ部分的にジョブ型で採用するといったケースもあります。それは一つのソリューションとなるでしょう。
 
――ジョブ型では、職務記述書に書かれていない仕事は拒否できるわけですよね。その点は、社員側からするとメリットになるのではないでしょうか?
 
そうですね。ジョブ型では、突然違う部署に配置転換されることはありません。プロフェッショナル意識の高い方にとっては、大きなメリットといえます。
 
採用する側は、「ローテーションはなく、決められた枠内で力を発揮してもらいたい」という点を大いにアピールすべきでしょう。

 紙を見ながら考える男性

 

ジョブ型を導入すれば、中小企業であっても大企業に対抗できる?

――今後、人事・採用担当者はどのような対応をすべきなのでしょうか?
 
まず重要なのは、人材活用の方針を明確にすること。その上で、ジョブ型に舵を切るのであれば、慎重な制度設計が求められます。
 
欧米など、グローバルスタンダードはジョブ型雇用です。長い目で見れば、日本もメンバーシップ型からゆるやかにジョブ型へ変わっていくことは間違いないでしょう。ただ、従来の雇用慣行と馴染まないところもあるので、多くの会社では漸進的なアプローチでジョブ型に移行していくのではないでしょうか。
 
たとえば育成ステージである非管理職は、様々な仕事を経験して力を蓄える必要があるためメンバーシップ型を維持する。一方、管理職については、職務内容や職責が明確なのでジョブ型にする。そんなハイブリッド形式を導入している会社も増えています。
 
――スキルを持っている若手人材にとっては、一括採用で同じ給料から始まるメンバーシップ型より、ジョブ型を採用する企業の方が魅力的に映るのではないでしょうか?
 
その可能性はありますね。「若手であってもスキルがあれば、2~3段階上の等級で採用する」といった、少し差をつける手法が好まれるかもしれません。
 
従来のメンバーシップ型は年次管理なので、高い報酬をもらうためには長期間下積みを重ねる必要がありました。その点を嫌う人にとっては、職責に応じて給料をもらえるジョブ型のほうが魅力的に映るでしょう。
 
――もしかすると、大企業よりジョブ型雇用を導入した中小企業のほうが、採用活動において優位に立てる可能性もあるのではないか、と思いました。
 
おっしゃる通りです。大企業が新卒一括採用やローテーションを手放せない一方で、中小企業がジョブ型で差別化を図り採用活動を進める。これは採用戦略として有効です。
 
職務内容に応じて給料を払うジョブ型であれば、若い人でも良い待遇を提示できます。中小企業にとってジョブ型雇用は、スペックの高い人材を自社に呼び込む大きな武器となりうるでしょう。

 

<取材先>
林浩二さん
Profile
林浩二さん
株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門 プリンシパル
 
厚生労働省を経て日本総合研究所。人事労務管理を専門フィールドとし、国内系から外資系まで幅広い企業において人事制度改革を支援。著書に「基本と実務がぜんぶ身につく 人事労務管理入門塾」「コンサルタントが現場から語る 人事・組織マネジメントの処方箋」(いずれも労務行政)などがある。

 
 
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト

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