ワーケーションを導入する前に人事労務で決めておくべきこと

旅先で仕事をする女性

昨今注目を集める新しい働き方「ワーケーション」。旅先など職場以外の場所で働くにあたり、社員の勤怠管理やセキュリティ、労災などの課題に対して、企業側はどんなことを事前に決めておく必要があるのでしょうか。うたしろFP社労士事務所の社会保険労務士、歌代将也さんに伺いました。

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ワーケーションとは

「ワーケーション」とは、「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせた造語です。観光地やリゾート地、あるいは帰省先などに泊まりがけで滞在中にリモートワーク(テレワーク)を活用し、働きながら休暇をとる過ごし方として、近年注目を集めています。
 
アメリカをはじめとする欧米では、2000年頃から活用する企業が増え、多忙なビジネスパーソンを中心に、ワークスタイルの一つとして浸透しています。日本では、2017年に日本航空株式会社(JAL)が実験的にワーケーションを導入して話題になりましたが、日本の企業ではまだ実施例は多くありません。コロナ禍によりリモートワーク(テレワーク)は普及したものの、ワーケーションを取り入れている企業はまだまだ少ない状況です。

ワーケーションのメリット

ワーケーションにより、旅先などから会社にリモートアクセスできる環境があれば、社員は「必要最低限の業務をこなしつつ、並行して休暇も楽しむ」といった働き方が可能です。有給休暇や長期休暇を取りづらい職場環境の改善や、社員のモチベーションアップ、また働き方の多様性を認めている優良な企業として認知され、採用者数の増加が見込めることなどが企業としてのメリットとして挙げられます。
 
また、普段の会社勤務では得られない新たな仕事上のアイデアが浮かぶなど、環境の変化による効率性アップも期待できるといわれています。

ワーケーションにおける人事労務の課題

◆就業規則の見直し

人事労務上の課題としては、まず社員の就業場所の変更を認めるか否かという問題があります。会社は従業員の採用に際して、賃金や就業場所、従事する業務、労働時間、休日などの労働条件を明示しなければなりません。そのため、ワーケーションの導入によって就業規則を変更する必要が出てくる可能性があります。

◆セキュリティの強化

旅先で、不特定多数の人が利用する公共Wi-Fiなどのインターネット回線を利用すると、不正アクセスにより、パソコンのネットワークを通じて社外秘の情報が漏洩するリスクがあります。利用するPCのセキュリティソフトのアップデートや、専用のポケットWi-Fiを貸し出すなどの対策が必要です。
また、屋外や店舗などで無防備にノートPCを開いていると、ほかの人から画面が見えてしまうこともあります。企業側の環境整備とともに、ワーケーションを行う社員の、セキュリティへの認識を高めることも重要でしょう。

◆労災に関する課題

ワーケーションの実施中に事故などでケガをしてしまった場合、業務時間内のケガなのか、休暇中のケガなのか判断が難しくなります。社員が病院に行った際に、健康保険または労災保険のどちらを利用するのかという判断に関係してくるため、会社側は、労働時間と私的な時間を明確に区別できるようルール作りを行う必要があります。

◆職種・業種が限定される

同じ会社の中でも、社員の所属する部署や職種によりPCがあれば会社や自宅以外でも仕事ができるケースと、決まった場所でないと業務ができないケースがあります。業務内容によってワーケーションが可能な社員と不可能な社員がいる場合、社員間で不公平感が生まれるリスクもあります。ワーケーションの導入・実施にあたっては、社員の意見をしっかりと聞いておくことが必要でしょう。

課題解消のために決めておくべきこと

◆明確な定義づけをする

ワーケーションをスムーズに実施するためには、ワーケーションに関する明確な定義付けが必要です。就業を許可できる場所や環境(電話やWi-Fiがすぐにつながる場所)、期間、緊急で会社に戻る必要がある際には何日以内で会社に戻れるかなどの条件も決めておくとよいでしょう。

◆労働時間を記録・管理する

先述したとおり、労災の問題を避けるためや、労働時間の管理のために、就業時間と休日・休暇時間を明確にしておくことが重要です。
 
たとえば、4泊5日でワーケーションを行う場合、どの日程に、どの場所で、何時から何時まで仕事をするのかを事前に把握しておくことが必須です。
 
オフィス勤務や通常のテレワークに比べ、特定の場所にとどまることが少ないワーケーションでは、PCの使用時間を記録する、労働時間を自己申告制にする、勤怠管理システムを導入するなどして、リモートワーク時でもスムーズに管理できるように準備をしましょう。

◆経費について決めておく

ワーケーションにあたって、旅費などの経費もどちらが負担するのか、会社側がどの項目の金額を負担するのか、負担にあたっての上限額など、経費についても事前に決めておきましょう。


※記事内で取り上げた法令は2021年2月時点のものです。
 
<取材先>
監修:うたしろFP社労士事務所 社会保険労務士 歌代将也さん
 
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

 
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