マイナンバー法の改正
2021年9月1日、マイナンバー法が改正されました。これは同年5月に成立した「デジタル社会形成整備法」(デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律)によるものです。「マイナンバーを活用した情報連携の拡大等による行政手続の効率化」をはかるための関連法律として、マイナンバー法も整備されました。
◆マイナンバー法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)
マイナンバーにかかわる必要事項をまとめた法律として、2015年に施行されました。
マイナンバーは「社会保障」「税」「災害対策」の3分野において、それぞれの機関に存在する個人情報を一元管理し、効率的に情報を共有するために設けられています。これによって、分断されていた情報が横断的なつながりを持つようになり、3分野における行政手続きにおいて個人の特定を確実かつ迅速に行うことが可能になりました。
マイナンバー法改正(2021年9月1日施行)のポイント
9月1日に施行されたマイナンバー法改正の大きなポイントは、「従業員本人の同意があった場合における転職時等の使用者間での特定個人情報の提供が可能」になった点です。
従来のマイナンバー法では、たとえ本人の同意があっても、第三者への「マイナンバーを含む特定個人情報」(以後、特定個人情報)の提供は禁じられていました。企業が管理する労働者の特定個人情報は、親会社と子会社といったグループ企業内であっても共有することは不可能でした。
そのため、労働者は職場を変更するたびに、改めて自身の特定個人情報を出向・転籍・再就職先などに提供する手続きを繰り返さなければなりませんでした。
しかし、今回の改正によって、個人から法人、法人から法人など、ある組織や個人を超えて情報を渡す「第三者への提供」が認められたのです。
情報提供にかかわる労務対応の注意点
マイナンバー法改正によって、企業の労務担当者は、当該労働者の特定個人情報を第三者(出向・転籍・再就職先など)に提供する業務が加わることになります。その際に、担当者が配慮するべき事項は以下の点です。
◆労働者からの同意の取得
第三者への情報提供が可能になったとはいえ、そこには「本人の同意を得て」という条件がついています。どのような特定個人情報が第三者に提供されることになるのか、当該労働者が同意するか否かの判断を適切に行えるよう説明する必要があります。
ちなみに、労働者からの同意の取得方法については、口頭による意思表示のほか、書面やメール、確認欄へのチェック、デジタルによる同意する旨のボタンへの入力など、様々な方法が認められています。口頭による意思表示が認められているとしても、企業側としては、書面やシステム上で労働者の同意を記録する運用を取っておくと安心です。
◆提供できる情報の範囲
第三者に提供できる情報は、従来のマイナンバー法と変わりません。社会保障、税分野にかかわる健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届、給与支払報告書や支払調書の提出など、行政手続に必要な範囲に限られます。本人の同意があったとしても、利用目的を超えて特定個人情報を利用することは禁じられているので注意してください。
◆第三者への情報提供時期
第三者への情報提供は、当該労働者の出向・転籍・再就職先などが「確実に決定」した以後になります。
マイナンバー法に違反した場合の罰則
マイナンバー法は、個人情報保護法よりも罰則の種類が多く、法定刑も重くなっています。
法人は、「個人番号関係事務、または個人番号利用事務に従事する者、または従事していた者が、正当な理由なく、特定個人情報ファイルを提供した」「上記の者が、不正な利益を図る目的で、個人番号を提供または盗用」した場合、最大で「1億円以下の罰金」が科せられます(第57条第1項第1号)。ただし、罰則は故意がなければ構成要件を満たしません。
過失による情報漏えいに、いきなり罰則ということは考えられませんが、漏えいの様態によっては、特定個人情報保護委員会からの指導や改善命令が出される可能性はあります。また、民事の損害賠償請求がなされることも想定されます。
企業の信用・信頼の観点からも適切な安全管理措置の実施は不可欠です。情報を提供する企業も、情報を受け取る企業も、特定個人情報の管理と運用には、十分に配慮してください。
※記事内で取り上げた法令は2021年11月時点のものです。
<取材先>
寺島戦略社会保険労務士事務所 社会保険士 大川麻美さん
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト