労働派遣契約の電子化とは

派遣元企業と派遣先企業との間で締結される労働者派遣(個別)契約。これまでは派遣契約の内容を書面で残さなければなりませんでしたが、2021年1月より電子契約化が解禁されたことにより、電磁的記録により作成すること、つまり契約の電子化が認められるようになりました。。今回はそれに伴う実務上のポイントについて解説します。

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労働者派遣法改正の流れ

これまで、派遣元企業と派遣先企業との間で締結される労働者派遣(個別)契約は書面の交付が義務付けられていました。この労働者派遣契約、とくに労働者派遣の個別契約に関しては、期間が短いものが多いため契約締結が繰り返され、通常の契約書と比べて数が多くなる傾向がありました。これは「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(以下、労働者派遣法)施行規則の21条3項にある、「労働者派遣契約の当事者は、当該労働者派遣契約の締結に際し法第26条第1項の規定により定めた事項を、書面に記載しておかなければならない。」というルールによるもので、契約時および契約更新のたびに紙での事務作業が頻繁に発生し、時間や費用等の面で実務上の弊害が多く、以前から電子化を求める声が多くあげられていたのです。
 
そこで労働者派遣法の改正と合わせて、民間事業者等が行なう書面の保存等における情報通信技術の利用に関する「e-文書法」も改正され、労働者派遣法施行規則21条3項で作成を義務付けられている書面について、書面に代えて電磁的記録の作成を行なえることになりました。
 
なお、このような電子契約解禁の動きは、2020年以降の急速なリモートワークの推進と無関係ではありません。コロナウイルス感染症防止対策の一環としてリモートワークが推奨されるなかで、日本特有の押印文化がリモートワークの定着を阻む課題としてたびたび議論されるようになったことは、ご存じの方も多いと思います。そうした趨勢に後押しされ、契約書の電子化は実現したといえるでしょう。

改正のポイント

今回の改正による変更点のポイントは、以下の通りです。

◆派遣契約書の電子化

2019年4月に派遣先企業から派遣社員への労働条件・就業条件の明示等については、電子メールやSNSの利用が認められました。そして、今回の法改正により労働者派遣契約の電子化が実現することと合わせて、書面を用意する必要がなくなりました。

◆派遣社員への教育訓練計画の説明の義務付け

派遣元企業は派遣社員に対して、雇い入れ時に教育訓練計画を説明することが新たに義務付けられました(教育訓練計画に変更があった場合も同様)。派遣社員は1つの職場でキャリアを積むことが難しいケースも多いため、派遣元企業が積極的に教育訓練やキャリアコンサルティングを行ない、派遣社員のキャリア形成に責任を持つように定められました。

◆派遣先における派遣労働者からの苦情対応

改正前は派遣社員からの苦情については、派遣元企業がその対応を担うケースが大半でした。しかし今回の改正では、派遣社員から労働関係法上の苦情があった場合、派遣先企業が主体的に対応することが義務付けられました。

◆日雇派遣社員の契約解除に対する休業手当の支払い

今回の改正により、日雇派遣社員の側に、責に帰すべき事由がないのに契約を解除する場合は、派遣元企業が休業手当の支払いなどの対策を講じ、雇用の維持に努めなければならないとされました。

電子化のメリット

今回の改正により労働者派遣(個別)契約については、電子署名を使って締結できることになりました。
 
電子署名とは、紙文書の印鑑やサインと同様に正式文書であることを証明するもので、当事者間での合意を電子文書で安全に記録することができます。これにより契約締結のフローがクラウド化され、紙ベースでは契約書の印刷、捺印、郵送、そして返送といくつものプロセスを要した事務作業が大幅に削減されるため、多くの企業で導入が進められています。

電子化に向けて実務面で気をつけるべきことは?

契約書の電子化は、電子契約サービスの導入のための費用や労力はかかりますが、費用対効果が高く、事業者に多くのメリットがあります。ただし利用にあたっては、デジタルやセキュリティに関する一定の知識が求められるため、派遣元企業および派遣先企業の双方にオペレーション担当者の育成が必要となるでしょう。業務の効率化や生産性の向上のため、自社に適したサービスを検討することをおすすめします。


※記事内で取り上げた法令は2021年6月時点のものです。
 
<取材先>
汐留社会保険労務士法人 社会保険労務士 池田優子さん
TEXT:友清 哲
EDITING:Indeed Japan + ノオト

 
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