LGBTQ+従業員の心理的安全性を
担保するためにすべきこと

昨今、ダイバーシティ推進施策の一環としてLGBTQ+に関する取り組みが企業に求められています。しかし、残念ながら正しい情報と認識を持っていない人による偏見や差別は今でも存在します。そのため、まだまだLGBTQ+の当事者にとっては生きにくい社会といえるでしょう。

職場でLGBTQ+従業員の心理的安全性を保つためには何が必要なのでしょうか。正しい知識を得る方法や周囲の人たちができる具体的なアクションについて、LGBT法連合会・事務局長の神谷悠一さんに伺いました。
公開日:2023/07/28

LGBTQ+従業員の心理的安全性の担保には「知識」が重要

LGBTQ+当事者の約9割は、職場でカミングアウトをしていません注1。当事者であることが周囲に伝わることで、異動や退職勧奨、ハラスメント、差別による不利益な扱いを受けることを懸念しているからです。これからも同じ職場で働きたいと思うと、自らの性的指向や性自認を隠す選択をしてしまうのです。

しかし、カミングアウトをしていないと、プライベートに関する日常会話に神経を尖らせなければならない状況が多々発生します。同性パートナーと過ごした話を異性パートナーの設定に変えるなどは典型的な例です。些細な日常の出来事を伝えるだけでも、自身の性的指向や性自認が露呈しないように神経を張り詰めて会話をしている当事者は少なくありません。

また、プライベートでは自身の性自認に基づいた性別で過ごしているにもかかわらず、会社では同僚たちに認知されている出生時の性別で生活することを強いられる場合もあります

LGBTQ+の従業員が不安や緊張を強いられずに働くためには、何よりも差別やハラスメントのない社内風土の確立が重要になります。LGBTQ+の基礎的な知識、そしてどのような行為がハラスメントに当たるのか、当事者を含め、従業員全員が一定の知識を共有することが大切です。

ハラスメントやLGBTQ+について正しい知識を得る方法

◆ ハラスメントの知識を得る方法

ハラスメントについては、該当する行為が法律で明確に規定されています。それにのっとり、企業はハラスメント防止制度を確立し、周知・啓発しましょう。

2020年6月に施行された「改正労働施策総合推進法」(通称、パワハラ防止法)によって、ハラスメント防止措置は企業の法的義務になりました(中小企業は2022年4月から)。LGBTQ+に関するハラスメントやアウティングの禁止規定、起こってしまった場合の懲戒規定を就業規則などにきちんと明記し、それを従業員全員に周知・啓発しなければなりません。

同制度で示されているセクハラ指針には「セクハラは異性間だけでなく同性間でも成立する」なども規定されています。企業が啓発の一環として研修などを開くことで従業員はより知識を得ることができ、ハラスメント防止につながります。

◆ LGBTQ+の知識と理解度を深める方法

LGBTQ+に対して知識がないがゆえに、差別や偏見を持っている人は少なくありません。積極的にLGBTQ+について知識を得る機会を増やしていきましょう。現在、企業によってさまざまな取り組みがなされるようになりました。以下は一例です。
  • マンガやイラストを使って、LGBTQ+についてわかりやすく説明した冊子をつくり周知・啓発
  • Eラーニングのプログラムに組み込み、理解度を図るテストに合格するまで履修
  • 「ALLY(アライ)」を増やし、カミングアウトしやすい環境づくり
ALLYとは、LGBTQ+を理解し支える支援者のことです。ALLYの人たちは、LGBTQ+のシンボルカラーである6色のレインボーフラッグを職場のデスクに置いたり、缶バッチやキーホルダーなどのグッズを身につけたりすることで、「自分はLGBTQ+に対して差別や偏見がない」ことをアピールします。こういった意思表示をする人がいれば、当事者がカミングアウトしやすくなる場合もあります。

ただし、アピールばかりが先行してしまうこともあるようです。形ばかりレインボーを身につけるALLYが増えたとしても意味はありません。

従業員の一人としてできるアクション

カミングアウトされた従業員のアクションとして、最低限、気をつけなければいけないのが次の2点です。

1.あからさまに動揺しない

相談を受けた人が動揺すると、相談者はより動揺してしまいます。「相談しないほうがよかった」と後悔してしまい、より居心地の悪さを感じてしまいます。

2.担当者の自己判断で他者の性的指向・性自認について相談する相手を選ばない

カミングアウトされた担当者の勝手な自己判断によって、当事者を精神的に追い詰めてしまった事例があります。

(例)カミングアウトされた従業員が「上司に伝えておけば、当事者を守ってくれるのではないか」と勝手に判断し伝えてしまった結果、情報の適切な取り扱いを知らなかった上司は、カミングアウトした従業員の人事調書にLGBTQ+であることを記載してしまった。後にその事実が当事者に伝わり、自分がLGBTQ+であることを誰が知っているのか、不利益なことが起こるのではないかと、毎日ビクビクしていた

カミングアウトされた人が自分では抱えきれないと感じた場合でも、勝手に他者の性的指向・性自認について相談する相手を選ぶことはアウティングに該当します。そういうことが起こらないためにも、企業はハラスメント防止制度の一環として、専門の窓口を設置しましょう(外部に委託する場合もあります)。

◆ 相談窓口をつくる

企業は、当事者が安心して相談できる窓口や担当者を設置してください。相談者の相談をしっかり受け止め、寄り添うことは、どのような課題でも原則です。

性的指向や性自認は、ハラスメント法に基づく政府の指針において「機微な個人情報」と位置づけられています。本人の同意を得ずに暴露することは、パワーハラスメントに該当することがあるので、相談を受けた際には、「誰に」「何を」「どこまで」伝えていいかの確認が必須です。

職場でのケーススタディ

パワーハラスメントには、プライベートに過度に立ち入りすぎる「個の侵害」という類型があります。もともと厚生労働省は、異性間であっても交際相手について執拗に聞くことはパワハラに当たると周知しています。

つまり、職場での言動や、職場以外での交流について、LGBTQ+にかかわらずパワハラに該当しないかどうかを意識する必要があるでしょう。

◆ 飲み会でプライベートの話題の深追いは禁物

仕事関連以外の話題を展開する際には、明確に嫌がられた場合は当然ですが、反応が薄い、口数が少なくなるなどの対応が見られたら深追いは禁物です。

◆ バレンタインなどの社内慣習を見直す

バレンタインの際にチョコを贈り合うような風習も、LGBTQ+以前に男女平等の観点から、いわゆる「女性」に過度な負担を負わせるものとして社会的に問題になりつつあります。慣習としてなんとなく続いているケースも多々あると思います。そういった慣習について一度見直すことをおすすめします。

支援者を増やし、話しやすい職場環境をつくる

昨今、従業員一人ひとりの個別の事情を職場で共有し、業務分担や働き方の柔軟性に反映していくことが推奨される傾向にあります。たとえば、介護を抱えている従業員がそれを打ち明けられず、仕事と介護の両立に疲弊して突然倒れてしまうような職場では、安定的な生産性は望めません。

LGBTQ+の課題も同様です。今後、差別や偏見をなくしていくことで、最終的には性的指向や性自認について気兼ねなく話すことができる職場環境づくりが求められるでしょう。

カミングアウトは強制するものではありませんが、カミングアウトできない場合に大きな心的疲労を感じる人もいます。当事者の心理的安全性を保つために、本人自らが自然とカミングアウトできる話しやすい環境や、カミングアウトすることがリスクとならない環境をつくることが大事なポイントになります。

そのためにも、前述したように周囲の人たちが一定の知識を得ること、そして一人でも支援者を増やしていくことが大切です。


※記事内で取り上げた法令は2023年4月時点のものです。
取材先
LGBT法連合会 事務局長 
神谷悠一 さん
早稲田大学教育学部卒業。一橋大学大学院修士課程修了(修士/社会学)。専門分野はジェンダー・セクシュアリティ研究。LGBTを支援するNPOなどの役員を歴任し、2015年にLGBT法連合会の事務局長に就任。「多様性のある社会の実現」や「LGBTとハラスメント」などをテーマに講演会を行なっている。

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