サーバント・リーダーシップとは
サーバント・リーダーシップとは、リーダーがピラミッドの一番上に君臨してチームを引っ張るのではなく、チームメンバーを支えるポジションを担うことです。
「サーバント(Servant)」には「召使い」「使用人」、「リーダーシップ」は「指導」「 統率」「 指揮」の意味があり、サーバントリーダーシップとは相反する言葉を合体させた言葉です。
この言葉は、1969年にアメリカのロバート・K・グリーンリーフ氏によってつくられました。彼は「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」というリーダーシップ哲学を提唱し、多くの企業経営者に影響を与えてきました。
サーバント・リーダーシップを耳にするようになった背景
従来は、リーダーの指示によってメンバーを動かしていく、支配型のリーダーシップが多く見られました。しかし近年は、時代の流れや環境変化によってリーダーシップのあり方が変容してきているといわれています。
その背景の一つに、労働者にとって個を重んじた働き方がより大切だという価値観が広がっていることがあります。以前は、仕事をする上では義務感や愛社精神などが重要だと考えられてきました。現在はやりがいや生きがい、働きがいなどを重視する傾向があり、そうした「働き方」への価値観の変化からサーバント・リーダーシップが注目されていると考えられます。
企業が導入する際のメリット、デメリット
◆メリット
- リーダーがメンバーの意見を尊重し、支援していくことで、双方向のコミュニケーションが密になり信頼関係が生まれる。
- リーダーがメンバーの意見を取り入れる機会が増えるため、メンバーは指示を待つのではなく、自ら思考し行動する主体性や当事者意識が生まれる。
- 顧客接点(企業が顧客と接する機会)にあるメンバーが主体的に取り組むことで、顧客やマーケットの変化に対応した活動が可能になる。
- メンバー個々を尊重するので、多様性に対応した組織になる。
- リーダー個人の能力の限界を超えて、組織の総合力を発揮することができる。
◆デメリット
- サーバントリーダーシップでは、リーダーがエゴではなく「大義のあるミション・ビジョン」を示すことが重要だが、それがないと「単なる優しい人」になる可能性がある。
- リーダーはメンバーの意見に耳を傾けることが重要だが、判断して受け入れるかどうかは別である。その区別をしないと、単なる迎合になる危険性がある。
- リーダーが自分を律する努力が必要となる。
- 浸透させるのには中長期的な努力が必要。
導入・運用のポイント
◆実践する前に哲学として理解する
ハウツーやスキルを手に入れても、それだけではうまくいかないことがほとんどです。
人をパソコンで例えるならば、ハウツーやスキルは「アプリケーション」にあたります。せっかくパソコンに最新のアプリケーションをインストールしても、OSが古ければ機能しないのと同じように、最新のハウツーやスキルもそうです。
この場合、人にとってのOSは「人間観・世界観・価値観・哲学」などです。サーバント・リーダーシップはアプリケーションではなくOSであり、リーダーシップ哲学であることを理解しましょう。
◆書籍やセミナーで学ぶ
サーバント・リーダーシップを一番詳しく知るには、提唱者であるロバート・グリーンリーフの『サーバントリーダーシップ』を読むことです。一人で読むと、なかなか難解です。そのため、社内で読書会を開くなどして、複数名で取り組むのがおすすめです。互いの意見を交わすこともでき、より理解が深められます。
比較的読みやすい他の書籍から学び始めることもおすすめです。特に現代の企業事例などが紹介されている実践的な本は取組みやすいでしょう。これらの本を数冊読んでから、グリーンリーフの著書にチャレンジしてもいいでしょう。
また、外部のセミナーや勉強会に参加するのも効果的です。
◆実践するための10項目
サーバント・リーダーシップの理解を深めた後は、下記にある10の項目を意識して社内で実践してみましょう。
1.傾聴
相手が望んでいることを聞き出すために、どうすれば役に立てるかを考える。
リーダーはメンバーと話す時、往々にして自分が「知りたいこと」「聞きたいこと」を聞きます。これは自分のためであることが多いものです。しかし、ここで言う「傾聴」は、相手のためを指します。相手の立場になって話を聞くことでリーダーはメンバーをより理解できます。メンバーは傾聴してもらうことで、自分の考えが整理され、内省できるようになります。また、傾聴してくれるリーダーに信頼を寄せます。
2.共感
相手の立場に立って気持ちを理解する。
「共感」とは、「相手の考えや感情」に全く同意する「同感」ではありません。自分の考えや感情は違っても、相手の立場に立ってどのような考えや感情を持つのか理解し、受けとめることです。
3.癒し
相手の心を無傷の状態にして、本来の力を取り戻させる。
恐れ、極度の不安などを感じている状態では、人は本来持っている力を発揮できなくなります。本来の力を取り戻すには、癒しが必要です。信頼できるリーダーやメンバーからのフォローを受けることは、その助けになります。上記の「傾聴」と「共感」は癒しに欠かせない要素です。
4.気づき
鋭敏な知覚によりものごとをありのままに見る。
思い込みや偏見を捨て、物事の一部でなく全体像を観察します。観察眼が養われると、チーム内の雰囲気の変化などに気づきやすくなります。また、チーム内で気づいたことをメンバーと共有することで、新たな気づきが得られることがあります。
5.納得
権限に依らず、服従を強要しない。相手に納得を促すことができる。
権限で強制的に物事を進めることができても、メンバーが納得しないと結果的に良い成果は得られません。相手とコンセンサスを得ながら納得を促すことで、メンバーに当事者意識が芽生えて意欲が向上します。
6.執事役
自分の利益よりも相手の利益を考えて行動できる。
リーダーは自分の評価が上がるかどうかを第一に考えるのではなく、メンバーを主役にして、彼らにとっていい結果につながるかを優先して考えます。
7.人々の成長に関わる
仲間の成長を促すことに深くコミットしている。一人ひとりが秘めている力や価値に気づいている。
一人ひとりの特性や資質を把握し、適した役割や課題を与えてメンバーの成長を促します。
8.コミュニティづくり
人々が大きく成長できるコミュニティを創り出す。
組織を機能的な集団としてだけで捉えるのではなく、愛情と癒しに満ちたコミュニティーとして捉えることで、人が成長できるような環境をつくります。
9.概念化
大きな夢やビジョナリーなコンセプトを持つ。日常業務を超えた志の高いイメージを持つ。
リーダーが日常業務レベルの目標だけを語っていては、メンバーのモチベーションやチームの力は高まりません。リーダーが日常の業務を超えた大きな夢やビジョン、志の高いイメージを持ち、メンバーと共有することで、メンバーの意欲やチームの力が高まります。
10. 先見力、予見力
現在と過去の出来事を照らし合わせ、そこから将来を予想する。
この力を磨くことで、あらゆる場面でリーダーは正しい判断ができるようになります。
サーバント・リーダーシップは、社内にいる様々なリーダーがその概念を理解し、取り入れることがポイントとなります。まずはリーダーの意識改革を行うことが最も重要といえるでしょう。
※記事内で取り上げた法令は2021年6月時点のものです。
<取材先>
NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会 理事長 真田茂人さん
早稲田大学卒業。リクルート、外資系金融会社、教育研修会社設立を経て(株)レアリゼを設立、代表取締役就任。NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会設立。理事長就任。日本企業、医療機関、NPO、地方など様々な分野でのリーダーシップ教育を通じ、活力ある日本になるよう目指して活動している。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト