目標管理制度(MBO)の目的
◆目標管理制度(MBO)とは
マネジメントで有名な経営思想家ピーター・ドラッカーが提唱した「目標管理制度(Management By Objectives=MBO)」。組織への貢献と、自己成長の両方が達成できる個人目標を設定させ、社員のモチベーションを高めることを目指す人事制度として知られています。
◆目標管理制度(MBO)を導入する2つの目的
企業が目標管理制度を導入する目的は大きく分けて2つあります。
一つは個人のモチベーションを高めることです。金銭・名誉などの報酬(外部要因)ではなく、興味・関心など個人の内面から湧きあがる意欲=「内発的動機づけ」によって仕事へのモチベーションを高めます。自分がやりたいと思う目標を見つけることで、「やらされ感」を持つことなく、自らの目標に対して「ベストを尽くしたい」と思えるようにするのが目的です。
もう一つは、マネジメント能力の向上です。管理者にとって、個人が「どんな目標を持っているのか」「どこに価値を置いているのか」など、個の性質を知ることは、マネジメントの大きな助けとなります。
◆個人と組織の目標をどう業績に役立てる?
目標管理制度では、社員一人ひとりの目標を、経営目標や部門目標と連動させることで、業績アップを目指します。たとえば、目標管理制度で設定する項目として次の4つが挙げられます。
- 業績目標
- 職務遂行目標
- 業務改善目標
- 能力開発目標
具体的な運用イメージ例として、社員が売上の向上(業績目標)、新規顧客の獲得(職務遂行目標)、資格の取得(能力開発目標)など、「自分にとって望ましい目標」を具体的に自ら設定します。それを元に上司が個人の立てた目標と組織の方向性の適正を確認し、組織目標と結びつけながら、目標達成に向けて導いていく、というように活用します。
目標管理制度(MBO)のメリット
◆メリット1:個人のモチベーションが高まる
目的と重複する部分がありますが、従業員個人の「仕事で役に立ちたい」という意識を可視化して満足させることで、個人のモチベーションが向上しやすくなります。
社員一人ひとりが企業の業績アップにつながる目標を設定できれば、会社の経営目標を社員が「自分ごと化」することができ、達成すれば「自分は企業の役に立つ人材だ」という自信にもつながっていきます。
◆メリット2:管理者が部下をマネジメントしやすくなる
MBOの面談を通して目指す方向性を確認し、一緒に考えることで部下に対する理解が深まります。仕事のアサインの最適化につながるだけでなく、長期的な視野では社員の最適なキャリア構築支援にもつながります。
目標管理制度(MBO)の運用方法
◆上司との面談で目標を決める
社員を配属したら、まず上司と面談を設定します。上司は従業員が「どのような業務を頑張りたいか」など目標設定の基になる内容をヒアリングし、期待していることを伝えましょう。その上で、従業員の個人目標を設定し、シートに書き込むなどして記録します。
◆半期~1年ごとに目標の達成度を振り返る
一般的な運用だと、半年~1年ごとに以前立てた目標を振り返り、次の目標を設定します。賞与のタイミングに合わせて実施する企業が多くみられます。
目標管理制度(MBO)課題点と、うまくいかないときに見直すポイント
◆課題1:会社と個人の目標が一致しない
MBOの課題点の一つとして、会社側が持つ目標と、個人が掲げる目標が噛み合わないケースがあります。
たとえば、個人は「顧客満足の向上をめざしてていねいに時間をかけて顧客と接したい」と思っているのに対して、会社は「質より量、とにかく数を回してスピーディーに対応する」という方向性だった場合、個人と会社の目標は一致しません。
他にも、高すぎる売上の数字などをMBOの面談で半ば強制的に目標に設定させてしまうケースもあります。その場合、企業側の目標を個人に押し付けることになり、個人のモチベーションが逆に下がってしまうこともあります。経営陣やマネジメントをする側は、会社のビジョンや方向性を従業員にわかりやすく伝え、その上で従業員に実現の可能性があり、納得感を持って取り組める目標設定をすることが重要です。
◆課題2:目標が形骸化してしまう
目標管理制度(MBO)の多くは、目標設定や振り返りを半期や1年に一度に行います。スパンが長いため、常に目標を意識し続けることが難しく、設定した目標がそのまま放置されたり、設定した本人が目標の内容を忘れてしまったりすることも珍しくありません。
日常的に目標を意識させるためには、より細やかな目標設定や振り返りを行うことが必要です。
具体的には、上司と従業員が1週間に一度を目安にした15分ほどのミーティング、いわゆる1ON1の実施です。短いスパンで業務の進捗や個人の状況を共有することで目標の形骸化を防ぎます。こまめなコミュニケーションをとることは、互いの信頼の醸成にも役立ちます。
◆課題3:上司にマネジメントの知識がない
従業員に目標設定を促す上司にマネジメントの知識や経験が乏しいと、従業員の性質や個性を理解しないまま、本人に合っていない目標を進めたり、上司の目標を押し付けてしまったりすることもあります。
特にプレイヤーの1人として現場に立ち、管理職の仕事も担う「プレイングマネージャー」の場合、自分が難なくできた業務や目標を、相手もできると認識して、その従業員に向かない目標設定のまま進めてしまうリスクもあります。
人事担当はそうした事態にならないよう、上司となる人がマネジメントの知識を取り入れ、個人が高い意欲を持って目標設定や達成に取り組めるようにサポートできる仕組みづくりを行いましょう。
◆目標設定を適切に行うコツ
会社と個人の方向性を合わせて、内発的動機付けを高める目標設定は難しいもの。目標設定に悩んだら、「SMARTの法則」にのっとって考えてみましょう。
<SMARTの法則>
- Specific=具体的であること
- Measurable=測定可能であること
- Attainable=達成可能であること
- Relevant=関連性があること
- Time-bound=期限があること
これらを元に目標設定を行うと、会社と個人の不一致が起こりにくく、達成することのできる現実的な目標設定に有用です。
※記事内で取り上げた法令は2020年10月時点のものです。
<取材先>
合同会社Summerfield 代表社員/中小企業診断士 夏原 馨さん
人と組織を「鍛える」トレーナーとして中小企業を支援。IT業界を経て人材業界でコンサルタントを経験後、独立。東京しごとセンターをはじめ、関東経済産業局のセミナーや全国の区市町村などで多くの登壇実績がある。特に、インターンシップ・OJT・従業員満足度の向上といった採用・定着の領域で活躍中。100を超える企業に“1の戦力を1.2、1.5にする”を実現させるため、人材・ITの活用など、それぞれの企業にあった手段を探し、実行までサポートしている。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト