OJTの目的とメリット
◆OJTとその目的とは
OJTとは、「On-The-Job Training」の略称であり、実際の職務現場で業務を通して研修を行う教育訓練のことです。OFF-JT、自己啓発支援とならんで企業内での基本的な社員研修の一つとして数えられます。
通常の業務を通じて仕事の進め方などを学ぶことで、学んだことをすぐに実戦で使えるようにし、即戦力となる社員を育成することが目的です。主に上司や先輩社員などが教える側となり、部下や新入社員に業務内容や知識、ノウハウを伝えます。
◆OJTのメリット
OJTのメリットには次の点が挙げられます。
1. 現場の業務内容を習得しやすい
OJTでは、実務に沿って人材を育成します。そのため、研修内容と実際の仕事とのズレが少なく、実務を通じて仕事の流れや知識を習得できます。現場で仕事を任せられるようになるまでていねいにOJTを重ねることで、人材をスムーズに戦力化できます。
2. 教える側の育成・成長にもつながる
OJTのメリットとして一番大きいのは、実は「教える側」の人材の成長です。特に、今まで後輩のいなかった若手はOJTの育成担当を務めることで人材育成の意識が醸成され、以降リーダーやマネジメントの育成につながる、という調査結果があります。そのため、新入社員のOJT担当は研修を受ける新人となるべく近い、入社2~3年目程度の先輩が指導係を務めるのが理想的です。
入社員と年齢の近い社員がOJT担当になることで、新入社員からのコミュニケーションが取りやすく、相談しやすいメリットがあります。また、教える側はOJTを通して業務への理解度がより深まり、部下への指導力や仕事への責任感の向上が期待できます。
若手の先輩社員は、自分がトレーナーとして人材育成に携わることで育成の大切さを学んだり、戦力が育ち事業にコミットするのを実感したりすることが、成功体験につながります。
3. 研修コストが抑えられる
OJTは、実務の中で研修が行われるため、OFF-JTの研修に比べて研修費などの直接的な外部への金銭的コストが発生しません。一方で、マニュアルの作成など現場社員の手間が発生するため、OJTは計画的に実施できるようOFF-JTと組み合わせて設計するのがおすすめです。
Off-JTとの違い、それぞれどんな業務に向いているか
◆Off-JTとは
Off-JTとは「Off-the-Job Training」の略称です。現場での通常業務を通じて教育を行うOJTに対し、職場や通常の業務から離れ、時間をとって行う教育を指します。
コミュニケーションの基礎やマナー研修、マーケティングの基礎、営業の基礎など「知識を習得する」目的の研修内容が適し、体系的な知識を身につける場となります。
◆OJTとOff-JTはバランス良く取り入れるのが理想
一般的には、工場勤務など、現場作業が多い職種はOJTを多く取り入れると良いとされています。営業職の場合は、Off-JTで基礎知識を習得した後に、先輩や上司に同行して営業の流れを体感するためにOJTが有効です。
OJTもOff-JTも、それぞれメリットがあるため、両方をバランスよく取り入れて人材の育成計画を立てることが望ましいです。
OJTの有効な進め方と、気をつけるポイント
◆OJTの環境が整っているかを確認
OJTは数多くの企業が実践していますが、なかにはOJTの場となる現場の業務が忙しすぎて、既存の従業員に新入社員を教育・指導する余裕がなく、放置されてしまケースがあります。その場合は、新入社員が業務を習得できないまま意欲をなくして退職してしまうリスクが高まります。
◆ブラザー・シスター制度/メンター制度で新入社員をサポート
新入社員をはじめ、初めてその職場に迎える社員にOJTを行う場合は「ブラザー・シスター制度」や「メンター制度」を検討することをおすすめします。ここで言うブラザー・シスター制度やメンター制度とは、OJT担当とは異なる先輩社員が周囲とのコミュニケーションなどメンタル面でのフォローをする制度を指します。
OJT担当とは異なる相談者を設けることで、先輩や上司には相談しづらいことでも相談できる相手を作ります。これによって、直接仕事で関わりの少ない“ナナメの関係”を構築することができ、定着率の向上が期待できます。
なお、メンター(相談を受ける側)とメンティ(新入社員など「相談する側」)には信頼関係がとても重要です。メンターを選ぶ際には、新入社員の個人的な相談内容などを口外しない、信頼の置ける社員を選定しましょう。
◆OJTをより有効にするには
現場ではOJT担当者に育成を任せっぱなしにしてしまう状況が散見されます。
有効にOJTを進めるには、トレーナーとなる先輩社員を指導し見守る役割として、トレーナーの上にリーダーを設けることが望ましいでしょう。各部署のOJT担当のリーダー同士が、研修内容や進捗具合など共有ができる環境を構築すると、会社全体としてより有効にOJTをすすめることができます。
※記事内で取り上げた法令は2020年10月時点のものです。
<取材先>
合同会社Summerfield 代表社員/中小企業診断士 夏原 馨さん
人と組織を「鍛える」トレーナーとして中小企業を支援。IT業界を経て人材業界でコンサルタントを経験後、独立。東京しごとセンターをはじめ、関東経済産業局のセミナーや全国の区市町村などで多くの登壇実績がある。特に、インターンシップ・OJT・従業員満足度の向上といった採用・定着の領域で活躍中。100を超える企業に“1の戦力を1.2、1.5にする”を実現させるため、人材・ITの活用など、それぞれの企業にあった手段を探し、実行までサポートしている。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト