ビジネスゲームの導入に向いている業務分野
――ビジネスゲームの導入を希望する企業の採用担当者は、これまでの研修業務にどんな悩みや課題を持っているのでしょうか?
参加者が研修に興味を持っていないことを悩む採用担当者が多いようです。実際に寄せられている担当者の声をご紹介すると、「参加者が座学研修に飽き気味」「個人間・部門間のコミュニケーションが不足している」「自分の仕事に直結しない内容だと、興味を持ちづらい参加者が見られる」など、さまざまな課題が浮き彫りになっています。
採用担当者によると、研修の受講者からは、「業務で忙しいのに、研修で半日〜1日潰されるのは困る」「座学であればeラーニング(インターネットを利用した学習教材)を活用して、個々で習得すればよいのでは?」という声も挙がっているようです。
――協力してユニークなゲームに取り組む研修内容であれば、参加者の意欲面やコミュニケーション不足といった課題は解決できそうです。一方、業務内容の習得という観点では、業界や業種によって最適な研修方法が異なります。ビジネスゲームの導入が向いているのは、どんな業務分野なのでしょうか。
知識として理解できても実践することが難しい業務や、現実でのミスが許されない業務のシミュレーションに効果的です。具体的には、前者であれば社内外のコミュニケーションやチームビルディング(多様な仲間と関わりながら主体的に組織をつくること)、後者であれば財務などの専門業務やメンタルヘルスなどが挙げられます。
また、研修以外では、学生向けインターンシップでの活用が有効です。インターンシップでは業務の疑似体験が求められますが、実際の業務を行ってもらうのはなかなかハードルが高いでしょう。そんな時は、ビジネスゲームによるシミュレーションが効果的です。
――反対に、ビジネスゲームの導入をあまりおすすめできない業務分野は?
分野というよりも、役員や経営者層への実施は弊社ではあまり推奨していません。ビジネスゲームが得意とするのは、業務を単純化して理解してもらうことだからです。ゲーム内容によっては有効かもしれませんが、複雑な問題を抱える経営者の問題解決に活かせる可能性は低いと考えています。
採用活動や選考でおすすめのビジネスゲーム
――採用の選考段階でビジネスゲームを導入するなら、どんなゲームがおすすめでしょうか。
「面接」「グループワーク」「インターンシップ」の3つでおすすめが異なります。面接であれば、応募者の能力ではなく、指向性を把握するゲーム、グループワークであればコミュニケーション能力を測るゲーム、インターンシップでは業務の疑似体験ができるゲームを選ぶのが良いでしょう。
◆採用で活用できるビジネスゲームの例
1)面接
『ワークスタイルトランプ』
働き方に関するキーワードが書かれた52枚のカードを使って、自分の理想とする働き方を考えるゲーム。応募者と自社とのマッチ度を把握することができる。
2)グループワーク
『野球のポジション当てゲーム』
配られたカードの情報をもとに、チームで協力しながら課題解決を目指す理論ゲーム。必然的に全員参加の状況を作り出し、論理的な思考能力やコミュニケーション能力を試すことができる。
3)インターンシップ
『フローチャートパズル』
IT業界向けに開発された、カードを用いたパズルゲーム。プログラミングに必要なアルゴリズムの概念を学ぶ。プログラミングへの理解を深めると同時に、応募者の適性をチェックできる。
『フローチャートパズル』実施の様子(提供:株式会社HEART QUAKE)
――実際に、採用活動でビジネスゲームを活用した例を教えてください。
ある専門商社の新卒採用で導入しました。この企業は、グループ選考を取り入れていたものの、やや抽象的なテーマでのディスカッションを実施しており、志望度向上につながらないことを課題に感じていたそうです。
そこで、営業職の疑似体験ゲーム『ヒアリングチャレンジ』を導入しました。これは、顧客や販売員の声が書かれた49枚のカードを用いて、提案型営業を疑似体験するゲームです。参加者からは「入社後を見据えた内容の選考だったので、新入社員の育成も手厚いのかなと思えた」「実際に働くイメージが掴めた」という声があり、次の選考段階である面接の予約率が上がりました。
『ヒアリングチャレンジ』の活用例(提供:株式会社HEART QUAKE)
中途社員の研修で効果的なビジネスゲーム
――実務経験がない新卒社員は、業務を疑似体験できるゲームが向いているのですね。では、ある程度経験を積んだ中途社員の研修では、どんなビジネスゲームを導入すべきでしょうか。
転職直後の中途入社社員は、オンボーディング(新たに組織に加わった人に説明などを行い、環境に慣れさせることを指す)の状態にあります。今までの会社との違いに戸惑い、理想と現実のギャップに悩むなど適応が難しい場合があるからです。
そのため、異文化コミュニケーションを学ぶゲームがおすすめです。新しい職場で以前との違いを感じたときに自分がどのように対応していくのか、事前に疑似体験してもらうのが効果的でしょう。
――実際にはどんな活用事例があるのでしょうか。
某業界団体の青年会のメンバーを対象に、異文化コミュニケーション研修を実施したことがあります。担当者からは、「ダイバーシティに関する研修がしたいが、一般的な研修とは違った楽しく学びがある内容にしたい」というリクエストがありました。
当日行ったのは、トランプを使った『バーンガ』というゲームです。あえて会話を禁止した状況で少人数チーム制のカードゲームを行い、上位者と下位者はテーブルを移動します。実は参加者には知らせていませんが、このゲームはチームごとにルールが異なっており、移動した先での振る舞いが試されているのです。
参加者からは、「自分が転職してきた時を思い出した」「自分の部下にまさに同じような状況の人がいてその理由や対策がわかった」「楽しく学びがあった」という声がありました。
『バーンガ』のゲームキット(提供:株式会社HEART QUAKE)
ビジネスゲームを活用した研修の注意点
――ビジネスゲームを導入した研修会を開く場合、運営担当者はスムーズな進行をコントロールする必要があると思います。イベントの実施において気をつけるべきポイントを教えてください。
当たり前の話ですが、運営担当者がゲームのルールを理解していないとグダグダになってしまいます。事前に必ず、運営メンバーでビジネスゲームを試すようにしましょう。
また、ゲーム後には必ず振り返りの時間を設けるのですが、この時の担当者からの言葉がマニュアル一辺倒だと説得力に欠けてしまいます。ご自身の言葉で参加者に感想を伝えられるようにすることが重要です。
――研修の参加者がビジネスゲームに取り組んでいるとき、運営者はどんなサポートやフォローを心がければよいのでしょうか。
ファシリテーターとして、ゲーム中の参加者の言動をよく観察しましょう。そこで気づいたことをゲーム後の振り返りタイムの話題に挙げてフォローすると、参加者の納得度はさらに増すと思います。
――最後に、「自社でどのような研修を行えば良いか分からない」と感じている中小企業の採用担当者に、アドバイスがあればお願いします。
社員の声にじっくりと耳を傾け、現場の課題感やどんな研修が必要とされているのかを把握することが大切です。これまで通りの座学型の研修ではカバーしきれない課題がある場合は、ぜひビジネスゲームを用いた体験型の研修を検討してみてください。
ただユニークなだけではなく、参加者の指向性やコミュニケーション能力を確認したり、業務の疑似体験を行ったりと、さまざまな目的で活用できるビジネスゲーム。面接やグループワークなどの採用活動に取り入れる場合は、これまでとは違った角度から応募者の適正や能力を知ることができそうです。従来の採用活動や社員研修に悩む採用担当者は、活用してみてはいかがでしょうか。
<取材先>
株式会社HEART QUAKE 代表取締役 千葉順さん
https://heart-quake.com
1982年生まれ、神奈川県出身。株式会社ワークスアプリケーションズでシステムエンジニアとして会計システムの開発に従事。その後、独立し2010年10月に同社を設立。企業向けのITスキル研修やビジネスゲームの開発・研修企画・運営を行う。
TEXT:森夏紀/ノオト
EDITING:Indeed Japan + ノオト