研修期間と試用期間の違い
「研修期間」と似た言葉に「試用期間」があります。研修期間には法的な定義はありませんが、試用期間は多数の裁判例で法的性質が論じられています。会社は労働者を採用した後に、見極めの期間として通常3カ月から6カ月程度の試用期間を設け対象者の労働者の適性を判断し、その後に本採用するというスキームにしていることがほとんどです。
ただ、それらを設けるか否かは企業の自由です。また、どちらも労働者との労働契約の成立後に企業が行うものですが、違いもあります。
◆研修期間と試用期間の違い
1.目的
研修期間……企業が労働者に必要な教育・研修を行う
試用期間……本採用前に、企業が労働者の適性や能力などを見極める
2.求人票などへの明記の義務
研修期間……なし
試用期間……あり
研修期間は労働者に業務上必要なスキルの教育をする場なので、一般的に評価や査定は行いません。一方、試用期間は労働者の業務への適性や能力などを評価・判断する場となります。
なお、試用期間の目的が本採用前に労働者の適性を見極めることであっても、試用期間だからといって会社はこの期間であれば自由に解雇ができるというわけではありません。また、試用期間満了後の本採用の拒否が常に認められるかというと、そうではないのです。
その理由は、すでに労働契約が成立しているため、本採用の拒否=解雇の扱いになるからです。労働契約法第16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています。解雇事由については客観的かつ合理的な理由が必要です。
また、2018年に施行された「改正職業安定法」により、求人票や募集要項において試用期間の有無などの明記が必須になりました。内定者への労働条件通知書でも試用期間に関しての明記が義務付けられています。
研修期間中の解雇は特に困難
日本の労使慣行上、そもそも解雇自体が非常に困難とされています。
民法では雇用契約の解約の自由は労使双方に認められていますが、企業が一方的に行う解雇は、労働者に大きな不利益を与えることが考慮され、判例により様々な制約が加えられています。
さらに、研修期間とは「適性があると判断したうえで採用した労働者に対して教育を施すための期間」と捉えられるため、その間の解雇は通常よりも厳しく、より合理性が問われることになると考えられます。
企業があげる解雇理由としては、「勤務態度に問題がある」「業務命令や職務規律に違反した」「経歴の詐称」など、労働者側に落ち度があるケースが考えられます。しかし、1度や2度の失敗で解雇が認められることはありません。以下のように様々な事情が考慮され、解雇の有効・無効については、最終的に係争(裁判)で判断されることになります。
◆解雇の有効・無効の判断基準の例
- 労働者の落ち度の程度や行為の内容
- それによって企業が被った損害の重大性
- 労働者に悪意や故意があったのか
- やむを得ない事情があるか 等
逆に、研修期間中に労働者から辞めたいという意思表示があった場合、研修期間かそうでないかにかかわらず強制的に働かせることはできません。自己都合退職として退職願を受領し、退職の手続きを進めましょう。
不当解雇とみなされるリスクを避けるには
解雇の有効・無効は、係争になってみないとわかりませんが、研修期間を含めて、いかなるときも絶対に解雇できないと法律で規制されているものがあります。それらをあらかじめ確認しておくことで、係争への発展といったリスクを回避することができます。
◆解雇に関する法令上の規制(解雇できないとされるケース)
労働基準法
- 業務上災害のために療養している期間とその後の30日間の解雇
- 産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇
- 労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇
労働組合法
- 労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇
男女雇用機会均等法
- 労働者の性別を理由とする解雇
- 女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇
育児・介護休業法
- 労働者が育児・介護休業などを申し出たこと、または育児・介護休業などをしたことを理由とする解雇
研修期間中の解雇にまつわる注意点
研修期間中の解雇にまつわるトラブルを防ぐためにも、もし労働者の振る舞いが適切でないと感じたときには、「その都度、指導や注意」を繰り返し、「記録を残す」ようにしましょう。万が一、不当解雇を訴えられて係争に発展した場合、解雇の根拠になり得ます。
また、研修期間は一般的に労働者に成果を求めるのではなく、教育・指導を行うことが目的であるため、必要以上に長い期間を設けることは、仕事が与えられないなどの理由によって裁判に発展するリスクにつながりかねません。期間の設定には注意が必要です。
研修期間中の解雇については、過去の判例を見ても、裁判で不当解雇と判断され、損害賠償金の支払い命令が下されたケースがあります。労働者に解雇を言い渡す前に、法律には解雇に関してどういった規制があるのか、過去の判例ではどういったケースが不当解雇となっているのかなども参考にしたうえで判断することが肝要です。
※記事内で取り上げた法令は2021年11月時点のものです。
<取材先>
寺島戦略社会保険労務士事務所 社会保険士 大川麻美さん
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト