入社前研修を行う目的とは
入社前研修には、業種や職種により様々なカリキュラムがあります。入社前に企業への愛着を持たせたり、同期との絆を深めさせたりするための研修から、入社後即戦力として働けるよう前もって技能やスキル面を身につけさせるものなど、その目的は多岐に渡ります。大別すると以下のように分けることができるでしょう。
- 入社意思固め
同期・先輩社員との懇親会などを通して親睦を深めてもらい、内定者の入社に対する不安を払拭するためのもの。 - リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP)
現場社員によるガイダンスや配属面談などを通して、内定者に入社後のイメージをリアルに持ってもらうためのもの。 - 内定者バイト・インターン
内定者の中から希望者を募り、実務に携わってもらうもの。「アルバイト」表現すると勤務、「インターン」と表現すると教育的な側面を感じさせるが、実際の内容は同じである。 - 新入社員研修の前倒し
資格取得やマナー講習など、本来入社後に受講させるべき研修を、入社後すぐ実務に携われるように前倒しで実施するもの。
入社前研修の賃金の発生有無をどう捉えるべきか
入社前の内定者と企業はまだ労働契約を結んでいません。入社前研修に対して賃金が発生するか否かに関しては企業によって捉え方が様々であり、極めてグレーな状態であるのが現状です。では、具体的にどのような判断基準をもって賃金の有無を判断すればいいのでしょうか。1つの大きな基準として、研修の内容が「内定者のメリットのために行われるもの」なのか、「企業のメリットのために行われるものなのか」という点が挙げられます。
先ほどの4つの研修を例にとると、「1. 入社意思固め」のために行われる懇親会に関して、企業が賃金を支払う義務はほぼないと考えられます。入社意思を固めてもらうためとはいえ、その主目的は「内定者の不安を払拭すること」であるためです。飲食が発生するのであれば、その代金は企業側が負担すべきですが、労働賃金は発生しません。
一方、「3. 内定者バイト・インターン」「4. 新入社員研修の前倒し」に関しては、内定者のメリットというより企業側の都合に拠るところがほとんどであるため、賃金は支払われるべきだと考えられます。特に「3. 内定者バイト・インターン」に関しては、たとえ「インターン」と表現したとしても、その実情が実務と同等であればやはり賃金は発生すると言えるでしょう。もし支払いがなされない場合、労働法に抵触する恐れもあるので注意が必要です。
もっともグレーなのが、「2. リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP)」です。内定者の希望配属先を確認したり、入社後のイメージを湧かせたりするという点においては、双方にメリットがあるように思えます。ここで1つの指標になってくるのが、「研修への参加が必須であるか任意であるか」という点です。強制であれば、やはり賃金を支払うのが道理であると考えられます。
これらの判断基準は、あくまでも捉え方の一例です。
もっとも企業が念頭においておくべき点は、研修に関するコストの削減を重視するあまり、内定者の印象を悪くさせたり、入社後のビジョンに不安を抱かせたりしないようにすることに尽きるでしょう。
研修に参加できない内定者にも手厚いフォローを
地方在住、あるいは学業や部活動でどうしても優先したいことがあるなどの理由で、研修への参加が難しいという学生が出てくるかもしれません。そういった際は参加にこだわらず、オンラインなど他の参加方法を用意したり、あとから録画を閲覧すればカバーできたりするカリキュラムを組むなど、フォローアップできる仕組み作りを工夫することをおすすめします。
あくまで入社前は、内定者との間に労働者契約は発生しておらず、強制的に研修に参加させることは好ましいとは言えません。このことを念頭に置いて、入社前研修のプログラムを考えるようにしましょう。
<取材先>
株式会社人材研究所・代表取締役社長 曽和利光さん
TEXT:波多野友子
EDITING:Indeed Japan + ミノシマタカコ+ ノオト