外国人の在留資格にまつわるトラブル事例 企業が注意するべきポイントは


外国人を雇用する際に企業が必ず確認しなければならない「在留資格」。正しい知識を持っていないと在留資格の取得ができず採用できなかったり、雇用が継続できなくなったりすることもあります。行政書士・社会保険労務士の佐藤正巳さんが、人事・労務担当者が特に注意するべき点について事例を交えて解説します。

 
 

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在留資格の確認は確実に


在留資格とは、簡潔に言うと外国人が「日本国内に滞在できる期間」と「日本国内で行うことができる活動」の範囲を定めたものです。決められた期間を超えて滞在する場合は、在留資格の更新が必要です。
 
在留資格には、「就労系」と「身分系」と呼ばれる資格があります。「就労系」は日本でできる仕事の範囲が定められており、「技能(外国料理の調理師、スポーツ指導者、航空機の操縦、貴金属等の加工職人など)」「介護(介護福祉士)」「教育(中学・高校等の語学教師など)」「技術・人文知識・国際業務(機械工学等の技術者、通訳、デザイナー、私企業の語学教師、マーケティングなど)」などがあります。
 
「身分系」は、「日本人の配偶者等」「定住者」「永住者」などがあります。身分系と呼ばれる資格であれば、就ける仕事に制限はありません。しかし就労系であれば、在留資格で定められている内容以外の仕事はできません。
 
在留資格の期間を超えた不法滞在と知って外国人を働かせたり、就労可能な資格でないのに雇用したりする企業は罪に問われます。企業は、採用時に在留資格の内容の記載がある「在留カード」を確認することが必須です。
 
事例としては、2021年6月には大手の配達代行サービス会社が、不法滞在の外国人の在留資格を十分に確認せずに配達員として働かせていたとして、出入国管理法違反の疑いで管理責任者2名が書類送検されました。在留資格はできるだけ対面で在留カードの現物を確認しましょう。

 
 

外国人に従事させる業務内容に注意

 
 

◆ケース1:社内での配置転換


社内の事情や市場の情勢に応じて従業員を配置転換することはよくあると思います。しかし、外国人社員の場合は注意が必要です。
 
ある商社では、中国人の方を貿易業務の事務員として雇用しました。在留資格は「技術・人文知識・国際業務」です。海外からの観光客が増えたため、同社で経営する小売店での接客担当へと配属を変えたのですが、在留資格の更新時に「接客業務は『技術・人文知識・国際業務』には該当しない」として在留期限の更新が認められず、その社員の在留資格は出国準備の「特定活動」に変えられました。再申請は認められましたが、結局その中国人社員は元の貿易業務に戻らなければなりませんでした。
 
再申請の審査には約3カ月かかり、その期間、中国人社員は働くことは認められませんでしたが、雇用関係は続いていることからその企業は休業手当を支払う義務が生じました。

 
 

◆ケース2:採用


公立の小中学校で英語を教えていた先生を、英会話スクールで採用する場合も要注意です。何の問題もないように見えますが、公立学校の語学教師は「教育」の在留資格で、私企業での語学教師の在留資格は「技術・人文知識・国際業務」です。従事させる業務内容についても企業側で判断せず、入管や国際業務の知識のある行政書士などに確認しましょう。

 
 

◆ケース3:社員のプライベートの変化


身分系の資格の場合は従事する業務内容に縛りがありませんが、「日本人の配偶者等」の場合、離婚により身分系の在留資格を失うことがあります。この場合、在留資格の変更申請で就労可能な在留資格が認められないと働けなくなります。同じく身分系の在留資格の「定住者」への変更が認められる可能性もありますが、そのためには実態のある婚姻生活が3年以上続いていたことが必要です。
 
在留資格が「家族滞在」の場合は、離婚により資格外活動でも働けなくなりますので、就労系の在留資格に変更する必要があります。就労先の業務内容に合う在留資格がない場合には、それ以上その外国人を雇用することはできません。従業員、雇う側の企業の双方にとって大変に困る事態ですが、現在の入管法の定めでは起こりうる事態です。

 
 

在留資格の更新手続きも慎重に


企業の人事・労務担当者は在留資格の管理を確実に行わなければなりません。外国人社員独自の労働者名簿を作り、在留カードの番号(更新のたびに変更あり)、在留資格の内容や在留期限を確認してください。在留期限の3カ月前から在職証明書などの書類作成など更新手続きが必要になります。
 
外国人社員のパスポートの有効期限も管理しましょう。外国人社員とその家族も有効なパスポートを所持していないと入管法上在留資格の期限更新ができません。国によっては、パスポートの更新を大使館経由で行うと6カ月近くかかるケースもありますので注意が必要です。
 
また、外国人社員にも厚生年金や健康保険、雇用保険、労災の加入義務があるため在留資格の更新時にその証明を求められることがあります。
 
このように外国人の雇用にあたっては、特別な手続きが必要になる場合が多々あります。自社の労務担当者だけで抱え込むのではなく、知識豊富な申請取次の行政書士に相談しながら進めることが一般的です。
 
また、政府系の相談機関として「外国人在留支援センター(FRESC/フレスク)」があります。
外国人を雇用したい企業の支援や、日本企業に就職したい外国人とのマッチングサービス、外国人本人からの相談も受け付けています。
 
日本の少子高齢化は急激なペースで進み、若手人材の確保がますます難しくなることは明らかです。長期的な視点をもって外国人を雇用する体制を整えていくことが、どの企業にも大切ではないでしょうか。

 
 
 

<取材先>
社会保険労務士法人東京国際事務所 代表社員
佐藤正巳さん
行政書士・社会保険労務士。著書に『ゼロから始める外国人雇用実務ガイド』『こんなときどうする?外国人の在留資格申請と労務管理』(とりい書房)などがある。
 
TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト

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