「無意識の偏ったものの見方」は誰にでもあり、悪いものとは限らない
――まずアンコンシャスバイアスとは何か、教えていただけますか。
日本語に訳すと「無意識の偏ったものの見方」です。ここで挙げる例はアンコンシャスバイアスに影響を受けている可能性があります。
- 「普通は◯◯だ」「たいてい◯◯だ」という言葉を使うことがある
- 事務的な仕事は、つい女性に依頼してしまっている
- 出身地で、お酒が強いかどうかを想像することがある
- 何をするにしても、相手との「上下関係」を意識してしまう
実はアンコンシャスバイアス自体は誰にでも起こることで、悪いものとは限らないのがポイントです。ただし、場合によっては、アンコンシャスバイアスに起因して相手を不快にさせてしまったり、ハラスメントになってしまったりする可能性があり、そこに問題があります。
――なぜ人はアンコンシャスバイアスを持つのでしょうか?
人は日常から多くの情報に触れています。その全てに意識を向けて考えることはできないので、情報を効率的に処理し、ちょっと見ただけで「あぁ、〇〇の場合はこうするよね」「普通はこうだよね」と判断できるよう学習します。アンコンシャスバイアスを通して物事を考えられるのは、人間の特別な能力でもあるのです。
日常会話として楽しく話していることが、知らぬ間に「決めつけ」の言動になっており、相手を不快にさせてしまうことがあるかもしれないと意識できるかどうかが大切です。
多様性を活かし、イノベーションや生産性向上へ
――アンコンシャスバイアスが職場に与える影響には、どのようなことが考えられますか。
無意識のうちに属性や価値観に従って偏った見方をすることで、職場の雰囲気がギスギスする、風通しの良い対話がなくなる、ハラスメントがうまれる、といった悪い影響が起きることがあります。
組織内で、個と個の尊重がなされないような「決めつけ」の言動があると、阻害される人が出てしまうなど、一人ひとりの能力が活かされない状況になるかもしれません。さらには、画一的なやり方や考え方に囚われ、社内で新しい取り組みが生まれなくなる可能性があります。
――イノベーションや生産性の観点でも影響が大きいですね。
アンコンシャスバイアスの存在を知り、社内の人との関わり方を見直すことは、一人ひとりがやりがいを持って自分の能力を発揮できる職場づくりにつながるために大切だと考えます。
そうした職場では、たとえ厳しい状況にあっても自分なりに前向きに業務に取り組み、過去のやり方と違うことにも臆せずに立ち向かっていけるでしょう。このような状況を「心理的安全性」が守られていると言います。
――アンコンシャスバイアスに対処するには、どうすればいいのでしょうか。
アンコンシャスバイアスの正体は、過去の経験や見聞きしてきたものから「自分にとってはそう思える」「自分にとっては当たり前」と思いたくなるといった「自己防衛心」です。本能的なものなので、なくすわけにはいきませんが、アンコンシャスバイアスに気づかないでいると知らず知らずのうちに誰かを傷つけてしまいます。
アンコンシャスバイアスに気づこうと意識することで、社員の個性や持ち味が活かされ、イキイキと活躍できるようになるでしょう。
アンコンシャスバイアスは、「上書き」できる
――職場でアンコンシャスバイアスが生じやすいのはどんな状況ですか。
余裕がないときほど、決めつけの言動が出やすいです。物理的に「時間がない」「仕事が多い」などの状況に加えて、心理的に「焦っている」「イライラしている」などの冷静な思考が働かない場合は、アンコンシャスバイアスによる決めつけをしてしまう可能性があります。
とはいえ、アンコンシャスバイアスが悪いのではありません。「なくす」という発想ではなく、そもそもなくならないものと考えて、アンコンシャスバイアスに気づき、対処していくことが大切です。
特に今はコロナ禍で心理的に余裕がない状況もあると思います。ちょっとでも「これって、アンコンシャスバイアス?」「これって、アンコン?」と考え、振り返る時間を作ることが重要ではないでしょうか。
――コロナ禍でリモートワークなどの働き方も普及してきました。職場でのアンコンシャスバイアスのあり方にも変化はあるでしょうか?
新たな経験をするとアンコンシャスバイアスが上書きされます。例えば、私自身は「オンラインで研修を行うのは難しいのではないか」というアンコンシャスバイアスがありましたが、今ではオンラインでの研修の魅力を感じています。同じように、「この仕事はオンラインでは無理」と言っていた人が、リモートワークを始めてその良さに気づいたという話も聞きました。
自己開示して、相手を尊重する姿勢を見せることから
――アンコンシャスバイアスに気づくために、勤務中に取り入れられることがあれば教えてください。
相手の表情や態度の変化を手がかりに、それをサインとして注目することです。サインには「表情がくもる」「雑談がなくなる」「メールの返信が遅くなる」など、一人ひとりの心の状態があらわれます。そこから自分の言動を振り返ることもできるでしょう。
また、自己開示をすることも有効です。例えば、部下に対して「この案件はまだ君には難しい」などと決めつけるような発言をしてしまったとします。それによって部下の反応や表情がネガティブになっていると気がついたら、「ごめん。経験が少ない君にはまだ無理だと思いこんでいたかもしれない」と素直に伝えてみましょう。
自分を振り返り、アンコンシャスバイアスを自己開示すること自体が、相手を尊重する姿勢につながります。「自分は悪くない」「自分は間違っていない」で押し通さず、ぜひ「これって、私のアンコンシャスバイアス?」と自分に問うことを大切にしてみてください。
また、アンコンシャスバイアスの影響が気になりすぎて、相手とコミュニケーションを取りたくないと思ってしまったり、実際にコミュニケーションを避けたりすると、かえって自己防衛心が強くなり、自分のアンコンシャスバイアスに気づきにくくなります。そうではなく、積極的にコミュニケーションをとって、相手を尊重しながら、自分の「アンコンシャスバイアス(無意識の偏ったものの見方)」について振り返りと自己開示をしてみてください。
<取材先>
一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所
代表理事 守屋智敬さん
ひとりひとりがイキイキする社会を目指し、一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所を2018年に設立、代表理事に就任。著書『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント最高のリーダーは自分を信じない』(かんき出版)など。
TEXT:遠藤光太
EDITING:Indeed Japan + ノオト