熱中症とは
厚生労働省「職場における熱中症予防対策マニュアル」では、熱中症を次のように定義しています。
「熱中症」は、高温多湿な環境下において、体内の水分及び塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れたり、循環調節や体温調節などの体内の重要な調整機能が破綻するなどして発症する障害の総称であり、めまい・失神、筋肉痛・筋肉の硬直、大量の発汗、頭痛・気分の不快・吐き気・ 嘔吐・倦怠感・虚脱感、意識障害・痙攣・手足の運動障害、高体温等の症状が現れます
炎天下はもちろんですが、エアコンや扇風機などを使用せずに高温多湿状態になった室内でも熱中症を発症する可能性があります。
熱中症予防対策は企業の義務
厚生労働省では「職場における熱中症予防対策マニュアル」を作成したり、毎年5月から9月にかけて「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を行ったりするなど、企業に熱中症予防対策の実施を呼びかけています。
熱中症に関わる直接的な法律はありませんが、労働契約法や労働安全衛生法では、次のように規定されています。
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(労働契約法第5条)
「事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない」(労働安全衛生法第69条)
つまり、企業は労働者に対して、安全配慮義務や安全衛生対策義務を負っています。これらの観点から、熱中症にならないための安全な環境整備や労働者の健康管理は企業の義務といっていいでしょう。
万が一、労働者が業務中に熱中症による体調不良を訴えた場合、企業は安全配慮義務違反や安全衛生対策義務違反に問われる可能性があります。
企業が講じるべき具体的な予防対策
熱中症の予防対策で重要なのは、「作業環境を整えること」と「管理者がしっかり管理すること」です。
以下は作業環境を整えるための具体例ですが、業種や職種によって対策方法は変わります。
◆建設業など屋外での業務
- 冷房の効いた部屋や日陰になる場所など、高温多湿を避けた休憩所を確保する
- 上記の場所でこまめに休憩時間を設ける
- すぐに水分や塩分を補給できる場所を設置する
- 通気性の良いユニフォームを支給する
◆営業職など外回りの多い業務
- フレックスタイム制を導入するなど、労働時間の調節ができるようにする
- 暑い時間帯はオフィス内作業にあてるなど、外出時間を調整する
- こまめな休憩と水分補給、塩分補給を促す
◆製造業など工場内での業務
- 空調設備を適切に管理し、冷房の効いた室内環境を整える
- 水分や塩分が補給できる場所を設置する
- 通気性の良いユニフォームを支給する
- 定期的に水分や塩分の摂取を促す
◆事務職など屋内での業務
- 空調設備を適切に管理し、冷房の効いた室内環境を整える
- 日差しが入る場合は遮光カーテンや遮熱カーテンを取り付ける
- サマータイム制度を導入して涼しい時間帯に業務ができるようにする
- 定期的に水分や塩分の摂取を促す
最近は新型コロナウイルス感染症対策として労働者にマスクの着用を義務付けている企業は多いでしょう。熱中症対策の観点から、厚生労働省では「『新しい生活様式』における熱中症予防行動のポイント」として、マスク着用について以下の対策を勧奨しています。
(1) マスクの着用について
マスクは飛沫の拡散予防に有効で、「新しい生活様式」でも一人ひとりの方の基本的な感染対策として着用をお願いしています。ただし、マスクを着用していない場合と比べると、心拍数や呼吸数、血中二酸化炭素濃度、体感温度が上昇するなど、身体に負担がかかることがあります。
したがって、高温や多湿といった環境下でのマスク着用は、熱中症のリスクが高くなるおそれがあるので、屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合には、マスクをはずすようにしましょう。
マスクを着用する場合には、強い負荷の作業や運動は避け、のどが渇いていなくてもこまめに水分補給を心がけましょう。また、周囲の人との距離を十分にとれる場所で、マスクを一時的にはずして休憩することも必要です。
外出時は暑い日や時間帯を避け、涼しい服装を心がけましょう。
引用:「新しい生活様式」における熱中症予防行動のポイントより
作業環境を整えたら、それらが機能しているか管理者がしっかりと管理することが大切です。厚生労働省が発表しているチェックリストなどを活用して、常に労働者の状況を確認・把握しましょう。
日頃から労働者の健康管理を怠らない
熱中症は夏の暑い時期だけ気をつければいいというものではありません。夏に熱中症にかからないためには、日頃からの健康管理も大切です。厚生労働省の発表によれば、糖尿病や高血圧症、心疾患、腎不全など、熱中症に影響を与える恐れのある疾患は多いといいます。
つまり、そういった病気を予防することが、熱中症のリスク軽減にもつながるのです。また、持病のある労働者はより注意深く見守ることで、事前に熱中症を回避できる可能性が高まります。
企業の義務とされている、従業員を対象とした年に1回の定期健康診断の実施はもちろんですが、管理者や既往症のある労働者に対して、熱中症や健康管理に関する研修を行うのも予防対策の一つかもしれません。
新型コロナウイルス感染症の影響もあり、安全衛生管理体制の強化や安全衛生教育の必要性は高まっています。熱中症対策を含めて、改めて安全衛生対策の視点で労働環境を見直してみましょう。
※記事内で取り上げた法令は2021年8月時点のものです。
<取材先>
特定社会保険労務士 杉山晃浩事務所 代表 杉山晃浩さん
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト
