人材開発支援助成金の概要、メリット・デメリットを解説

「人材開発支援助成金」は、事業主が職業訓練などを計画的に実施した場合に、費用の一部を助成する制度です。労働者が職務に関連した専門的な知識や技能を習得することを目的とします。制度の概要と特定訓練コース、一般訓練コースについて特定社会保険労務士の渡邉哲史さんが解説します。

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人材開発支援助成金とは

職務に必要な知識や技能の向上のために、労働者を訓練する企業に対して支給される助成金です。企業が計画に沿って訓練を実施した場合、かかった費用や労働者の賃金の一部に対して、助成を受けられます。

 

◆人材開発支援助成金の種類

人材開発支援助成金は、以下の7コースに分けられます。

・特定訓練コース/一般訓練コース

対象となる従業員は正社員など有期雇用契約でない社員です。専門的な知識および技能の習得を目的として、計画に沿って訓練を行った場合に、労働者の賃金や訓練にかかる費用の一部を助成します。コース内容の違いは後述します。

・教育訓練休暇付与コース

対象となる従業員は正社員など有期雇用契約でない社員です。講座形式などの教育訓練、各種検定、キャリアコンサルティングを労働者が自発的に受けようとすると、休暇が必要になる場合があります。このコースでは、会社が必要な教育訓練休暇を与えるための社内制度を導入して労働者が実際に取得した場合に、導入経費と教育訓練休暇中の賃金の一部を助成するものです。導入経費とは、制度設計のために社会保険労務士に相談したり、就業規則の改定を依頼したりした場合の費用などが該当します。
 
本制度を利用するには、「労働者が自発的に訓練を希望すること」が条件です。検定やキャリアコンサルティングであっても、会社からの業務命令で労働者に受講させた場合は対象外になります。

・特別育成訓練コース

対象となる従業員は有期契約労働者です。正社員への転換、または給与アップなど処遇改善を目的とした訓練を計画に沿って実施した場合に、賃金と訓練にかかった経費の一部を助成します。

・建設労働者認定訓練コース

対象となる従業員は、中小建設事業主が雇用する、雇用保険の被保険者である建設労働者です。ただし、経理事務、営業販売などは対象外です。対象者に認定訓練を受講させた場合に、訓練にかかった費用や賃金の一部を助成します。
 
なお、同コースの助成には「経費助成」と「賃金助成」があります。賃金助成は「雇用する建設労働者に対して認定訓練を受講させ、その期間、通常の賃金の額以上の賃金を支払うこと」も受給条件になります。訓練期間中の対象者に賃金よりも多い金額を支払った場合に助成対象となります。
 
訓練は、「職業能力開発促進法」第24条第1項で規定された認定職業訓練または同法第27条第1項で規定された指導員訓練のうち、クレーン運転や電気工事、左官・タイル施工などの建設関連の訓練に限ります。詳しくは、管轄の労働局に確認しましょう。

・建設労働者技能実習コース

対象となる従業員は、中小建設事業主が雇用する、雇用保険の被保険者である建設労働者です。若年者などの育成と熟練技能の維持・向上を図るため、キャリアに応じた技能実習を行った建設事業主を対象に、実習でかかった費用や賃金の一部を助成します。
 
なお、賃金助成は、訓練期間中の対象者に賃金よりも多い金額を支払った場合に助成対象となります。

・障害者職業能力開発コース

対象となる従業員は、以下の1と2に該当する障害者です。
 
1.次のいずれかに当たる者

  • 身体障害者
  • 知的障害者
  • 精神障害者
  • 発達障害者
  • 高次脳機能障害のある者
  • 難治性疾患のある者


2.ハローワークに求職の申し込みを行っており、障害特性や能力、労働市場の状況を踏まえて職業訓練を受ける必要があるとハローワーク所長が認めた場合
 
障害者の雇用促進や雇用継続を目的とし、対象者に対する職業能力開発訓練事業の実施や、訓練で使用する施設や設備の設置、整備などをした場合にかかった費用の一部を助成します。
 
人材開発支援助成金は細分化されているため、今回は上記7コースのうち「特定訓練コース」と「一般訓練コース」に絞って詳しく解説します。

 
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企業のメリット・デメリット

特定訓練コースと一般訓練コースは、以下のメリット、デメリットがあります。

 

◆メリット

・人材育成にかかる費用負担を減らせる

要件を満たせば人材育成にかかる費用の一部が助成されます。中小企業に手厚い制度のため、費用面から労働者のキャリアアップに取り組めなかった企業が実施しやすくなります。

・雑収入として収益計上できる

助成金は基本的に返済不要です。また、売上ではなく雑収入として計上できるため、本業以外の収益を得られます。

 

◆デメリット

・申請までの手続きが煩雑

年間計画書などを作成する必要があるため、手続きに労力を要します。従業員数が少ない会社の場合、手続きに手が回らないなどの課題もあります。

・一時的に経費や賃金を負担する必要がある

書類について労働局が確認する項目が多いため、ほかの助成金と比べて支給可否の決定までに時間がかかる可能性があります。申請は訓練終了後に行うため、助成金を受け取るまでは、一時的に人材育成にかかる費用を全額負担しなくてはなりません。

特定訓練コース、一般訓練コースの訓練

訓練方法には「OFF-JT」と「OJT」の2種類があります。

 

◆OFF-JT

企業の事業活動と区別して実施する座学や実技のことで、一時的に職場を離れて行います。講師は、外部の指導者または経験やスキルのある自社の社員が担当します。社内講師の場合、経歴などを記載した書類を管轄の労働局に提出し、講師として適任かどうかを証明する必要があります。

 

◆OJT

企業が適確だと判断した指導者による指導のもと、企業内の事業活動の中で実施する実習訓練を指します。実際の職場で業務を通じて行います。
 
この前提を踏まえ、訓練計画の条件をコース別に確認します。

 

◆特定訓練コース

・OFF-JTのみ

申請条件となる訓練時間数は10時間以上です。下記の4つに分かれます。
 
・労働生産性向上訓練
生産性向上につながる訓練です。
 
・若年人材育成訓練
雇用契約締結後5年以内で35歳未満の労働者を対象とする訓練です。
 
・熟練技能育成・承継訓練
熟練技能者の指導力強化や技能承継のための訓練です。
 
・グローバル人材育成訓練
海外展開などの関連業務に従事する労働者を対象とした訓練です。

・OFF-JT+OJT

訓練は以下の2種類があり、訓練内容や必要な訓練時間数は厚生労働大臣認定の要件によって異なります。
 
・認定実習併用職業訓練
OFF-JTとOJTを効果的に組み合わせたものです。
 
・特定分野認定実習併用職業訓練
建設・製造・情報通信業を対象にしたものです。

 

◆一般訓練コース

・OFF-JTのみ

申請条件となる訓練時間数は20時間以上です。職務に関連した専門的な知識および技能の習得をさせるための職業訓練で、特定訓練コースに該当しないものが対象となります。
 
訓練対象の労働者が途中で退職しても、以下のケースであれば、訓練期間中の金額が助成されます。

  • 本人の都合による退職の場合
  • 事前に訓練計画を立て、計画通りに訓練を実施している場合

 

◆助成金額

助成金額 特定訓練コース OFF-JT 賃金助成 1人1時間当たり760円(380円) 生産性要件を満たす場合960円(480円)※上限は1,200時間(一部1,600時間) 経費助成 対象経費の45%(30%) 生産性要件を満たす場合60%(45%)※上限は下記表①の額 OJT 実施助成1人1時間当たり665円(380円)生産性要件を満たす場合840円(480円)※上限は680時間 経費助成なし 一般訓練コース OFF-JT 賃金助成 1人1時間当たり380円 生産性要件を満たす場合480円 ※大企業も同じ ※上限は1,200時間(一部1,600時間)経費助成 対象経費の30% 生産性要件を満たす場合45% ※大企業も同じ ※上限は下記表②の額※( )は大企業の金額および割合

 

◆経費助成の上限

経費助成の上限 訓練時間 ①特定訓練コース  10時間以上100時間未満 ※一般訓練コースは20時間 15万円(10万円) 100時間以上200時間未満 30万円(20万円) 200時間以上 50万円(30万円) ②一般訓練コース 10時間以上100時間未満 ※一般訓練コースは20時間 7万円 100時間以上200時間未満 15万円 200時間以上 20万円※( )は大企業の金額
※1労働者が対象訓練を受講できる回数は、年間職業能力開発計画期間内に3回まで
※1事業所が1年度に受給できる限度額は、特定訓練コースを含む場合は1,000万円、一般訓練 コースのみの場合は500万円

 

◆生産性要件とは

訓練開始日の属する会計年度に対して「前年度の生産性」と「3年後の会計年度の生産性」を比べた際に、6%以上伸びていることが条件です。生産性は、以下の計算式で算出できます。また、厚生労働省のサイトにある「生産性要件算定シート」を活用するのもいいでしょう。

生産性=付加価値(人件費、営業利益、減価償却費など)÷雇用保険被保険者数


少ない労働者でどれだけ生産性を上げられたかがポイントとなります。生産性要件を満たした場合は、3年後の会計年度の末日から5カ月以内に必要書類を提出すると、生産性要件を満たす場合の受給額との差額が支払われます。

 
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申請の手順

人材開発支援助成金の申請は、以下のステップで行います。
 
1.職業能力開発推進者の選任、事業内職業能力開発計画の策定
職業能力開発推進者は、人事部長や総務部長が担当するケースが多いです。計画を立てる段階では、計画内容を対象労働者に伝えて合意を得ておきます。
 
2.訓練実施計画書、年間職業能力開発計画の提出
訓練開始1カ月前までに、管轄の労働局またはハローワークへ直接または郵送で提出し、労働局の確認を取ります。
 
主な申請書類

  • 訓練実施計画届
  • 年間職業能力開発計画
  • 訓練別の対象者一覧


主な添付書類

  • 訓練内容を確認できる書類(訓練カリキュラム、予定表など)
  • 訓練の対象労働者や労働条件を確認できる書類(雇用契約書、労働条件通知書の写し)
  • 特定訓練コースの場合は、該当する訓練であることがわかる書類
  • 中小企業事業主であることを確認できる書類(中小企業事業主の場合)


3.計画に沿って訓練を実施する
労働局の確認が取れたら、社内周知をして訓練を実施します。就業規則を変える必要はなく、社内イントラなどで労働者がいつでも閲覧できるような状態にします。
 
訓練の途中で変更が生じた場合は、変更内容を実施する前に「計画変更届」を提出します。変更届を出さずに変更した場合は支給対象外となります。
 
4.支給申請
訓練が終わったら、終了日の翌日から2カ月以内に必要書類をすべて管轄の労働局へ提出します。
 
主な申請書類

  • 支給要件確認申立書
  • 支払方法・受取人住所届
  • 支給申請書
  • 賃金助成および実施助成の内訳
  • 経費助成の内訳
  • OFF-JT実施状況報告書
  • OJT実施状況報告書、など


主な添付書類

  • 訓練期間中の出勤状況・出退勤時刻を確認するための書類(出勤簿、タイムカードなど)
  • 受講者に対して訓練期間中の賃金が支払われていたことを確認するための書類(賃金台帳など)
  • 事業主が訓練費用を負担していることを確認するための書類(領収書など)
  • 訓練に使用した教材の目次などの写し
  • 対象訓練で発行された修了証や使用したジョブ・カード


必要書類の詳細は、厚生労働省の公式サイトに掲載されています。書類のチェックリストもあるので、活用するのも一つの方法です。

 

◆申請時の注意点

申請にあたり、以下の点に気をつけましょう。

・申請手順を確認する

支給要件を満たしていても、前述の1〜4のステップを踏んで申請しなくては助成対象になりません。順番を前後させないようにあらかじめ確認しておきましょう。

・申請期限を遵守する

前述した申請のステップごとに提出期限が設けられています。この期限は消印ではなく労働局に到着する日です。1日でも過ぎたら受理されないので注意が必要です。
 
提出は郵送または直接持ち込みができますが、書類の点数が多く内容が煩雑なため再提出となることも少なくありません。書類の出し戻しにかかる日数を考えると、労働局へ持参した方が得策といえます。

・会社都合による退職者を出していないこと

訓練実施計画届を提出する6カ月前から支給申請までの期間に、解雇や退職勧奨など会社都合による退職者を出すと、支給対象外になります。訓練対象者に限らず、すべての雇用保険被保険者が対象です。助成金の趣旨である「人材を育成して会社で活躍してもらう」から外れるためです。

・助成金の最新情報を確認する

この人材開発支援助成金に限らず、助成金は政府予算がなくなれば終了します。また、年度ごとに制度の内容が変更する場合もあります。申請前に厚生労働省の公式サイトを確認したり、労働局に電話をしたりして、最新情報を確認する必要があります。
 
訓練内容を助成金の要件に無理に当てはめようとするあまり、運用が苦しくなるケースもあります。訓練の目的や自社に必要な助成金なのかを考えた上で、助成金を申請するかどうかを検討するといいでしょう。
 
上記のほかにも様々な注意点や要件があります。詳しくは厚生労働省の公式サイトで確認することをおすすめします。

 
 
 

※記事内で取り上げた法令は2021年11月時点のものです。
 
<取材先>
TOMAコンサルタンツグループ 取締役 TOMA社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 渡邉哲史さん
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

 
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