労働条件の不利益変更のリスクは? 注意点を解説

就業規則の書類のイメージ


「同一労働同一賃金」の対策として、企業によっては正社員の手当の減額や廃止などを行うことがあります。なかには、従業員が企業を提訴するケースもありました。労働条件の不利益変更の方法や企業が抱えるリスクについて、杜若経営法律事務所の弁護士 友永隆太さんに解説していただきました。

 
 

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労働条件の不利益変更とは


不利益変更とは、労働条件を既存の取り決めより引き下げることを指します。たとえば、下記変更が該当します。

 

  • 賃金の減額
  • 成果主義型賃金制度の導入
  • 各種手当の廃止や減額
  • 休日の削減
  • 懲戒事由の追加
  • 休職期間の短縮 など

 
 

◆不利益変更の審査


就業規則の不利益変更において、労働者の労働条件を有効に変更できるかどうかは、次の2段階から判断します。
 
1. 不利益変更の事実
労働条件の変更内容が不利益変更にあたるかどうかを見極めます。
 
このとき、「休日を減らしても休日手当などほかの部分で補填しているから、全体で見れば不利益変更にはならない」と考えることはできません。不利益変更に該当するかどうかの判断は、あくまでも個々の労働条件(例:休日を減らす)で行います。ほかで不利益性を緩和していたとしても不利益変更の事実は変わりません。
 
2. 合理的変更又は個別同意の取得
就業規則による労働条件の不利益変更は原則として無効とされていますが、下記のいずれかを満たせば例外的に有効となります。
 
・合理的な変更かどうか
不利益変更の内容と変更の必要性、補填内容などを天秤にかけ、「合理的な変更」かどうかを判断します。
 
変更の必要性が認められる場合として、たとえば下記のケースがあります。
 
例)グループ全体の評価基準を統一するために、人事制度を変更する
遅刻や早退、無断欠勤を繰り返す従業員による社内全体のモラル低下を防ぐために、欠勤控除などを導入する、など
 
・従業員の個別同意がある場合
個別同意が取れていれば、その従業員との関係においては合理性の有無を問わず不利益変更が有効になります。

 
 

不利益変更に罰則はあるのか


労働条件の不利益変更は、あくまで企業と従業員の労働契約内容が変更されるかどうかの民事上の問題です。従業員が裁判を起こした際に「変更後の内容が適用されない」という内容の民事上の判決が下される可能性はありますが、「不利益変更を行ったこと」だけを対象に罰則を受けることはありません。
 
ただし、「年間休日をゼロにする」「所定労働時間を1日20時間にする」のような労基法に違反する変更は労働基準法違反となり、労基署からの指導や是正勧告、罰則の対象となり得ます。

 
 

不利益変更が抱えるリスク


不利益変更で、企業は次のリスクを抱える可能性があります。

 
 

◆不利益変更の無効化や賃金差額などを請求される可能性がある


不利益変更には時効がなく、従業員は「賃金請求権」で過去3年(2020年4月分以降)の賃金をさかのぼって請求できます。このような背景から、変更時に限らず、下記のように実行後数年経ってから不利益変更をめぐるトラブルが起こる可能性があります。
 
例)企業が10年前に実行した賃金減額に対し、従業員(※1)が「変更は無効である」として提訴し就業規則が無効と判断された場合、過去3年分の賃金差額を請求することができる。
 
(※1) 企業が不利益変更を実施した時に在籍していた従業員であり、変更後に雇用契約を締結した従業員は当てはまらない
 
不利益変更の対象となる従業員の人数が多ければ多いほど、企業の金銭的負担が大きくなります。有効性が明確でない労働条件の不利益変更は、企業にとって「爆弾を抱えている状態」といえます。

 
 

トラブルに発展しない不利益変更の手続き

 
 

◆不利益変更の手続きのポイント


不利益変更を訴訟などのトラブルに発展させないために、企業は下記を踏まえて手続きを進める必要があります。

 

・従業員や労働組合に説明し、質問に対して可能な限り具体的に回答する


変更前と変更後の条件を見比べられる「対照表」などの資料を見せながら、わかりやすく説明します。仮に訴訟になった場合でも、従業員に丁寧に説明できているかどうかは重要なチェックポイントです。労使協定を締結したら、事業所を管轄する労働基準監督署に届出をします。

 

・個別同意を取る


規模の大きい企業であっても、できる限り個別同意を取ることが望ましいです。書面を作成し、従業員から署名・捺印をもらって保管しておきます。

 

・変更の必要性を「具体的に」説明できるかを検証する


たとえば、賃金の減額の場合、ただ「経営難です」と説明するよりも、「この状況を続けると、◯円の赤字が出て、会社として危機的な状況になる」と数値化して説明すると伝わりやすくなります。

 

・変更後の不利益の程度が大きすぎないか検証する


変更後、従業員にどのような影響が生じる可能性があるのかをあらゆるパターンから検証します。たとえば、成果主義型賃金制度を導入する際は「この評価を続けると、どのくらい賃金が下がるのか」を様々なパターンに当てはめて検証します。従業員の影響が大きいと判断した場合は、変更内容の見直しが必要です。

 

・変更後従業員の生活に影響が及ばないよう経過措置を設ける


賃金の減額や手当ての廃止など不利益の程度が大きい場合は特に必要です。たとえば、従業員に支払っていた10万円の手当を廃止する場合、いきなり減らすのではなく3年ほどかけて毎月少しずつ減らして様子を見ます。
 
経過措置を設けても従業員への影響が大きい場合、従業員が訴訟を起こせば、変更が無効になる可能性があります。

 
 

◆手続き上の留意点


「労使協定の締結=個別同意を取得した」と勘違いして、個別同意を取らないまま不利益変更を進めてしまう企業もあります。労使協定の締結は労働基準法上の手続きとして必要な工程で、個別同意ではありません。
 
手続きが終わったら、オフィスの棚などにファイルを保管しておく、社内のイントラネットや共有ドライブにあげるなど、従業員が変更内容を確認できるようにするのも重要です。不利益変更のポイントを押さえ、従業員が納得する形で進められるようにしましょう。

 
 
 

※記事内で取り上げた法令は2022年1月時点のものです。
 
<取材先>
杜若経営法律事務所 弁護士 友永隆太さん
 
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

 
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