ブラックバイト、留学生バイト……現代のアルバイトにおける問題点

飲食店で働く人のイメージ


現代では多くの企業が採用する「アルバイト」の雇用は、戦後には珍しいものでした。しかし高度経済成長などを経て、日常的なものとなっています。そんななかで問題視される、「ブラックバイト」や「留学生バイト」、そしてコロナ禍のバイトの課題はどんな点にあるのでしょうか。
 
現代のアルバイトにおける問題点や背景、これからの展望について、武蔵野大学人間科学部教授の教育社会学者・岩田弘三さんにお話を伺いました。

 
 

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「ブラックバイト」の問題点とは?


――現代のアルバイトにおける問題点を教えてください。
 
まず「ブラックバイト」の問題が挙げられます。「ブラックバイト」とは、今野晴貴さんなどの定義によれば、「学生を使い潰す」アルバイトのことです。
 
アルバイトをする学生を「一見さん」だと考え、「潰しても構わない」とこき使って、学生を人として見ていない点が非常に大きな問題でした。労働法規が守られず、責任ばかりが押し付けられます。
 
アルバイトの歴史を見れば、ファーストフード店などの外資系企業が日本展開を始めた1970年以降、アルバイト雇用を前提とする経営戦略を取るようになった企業が増えた背景があります。これ自体には合理性がありますが、結果的に「ブラックバイト」が生まれてしまったことは問題です。
 
――具体的には、どんな点が問題となっていますか?
 
まず、アルバイトでありながら、常勤の正社員並みの責任を押し付けられるなど、下記のように学生が量的にも質的にも重い責任を負わされるケースがあります。
 
①前日や当日の緊急の呼び出し
②授業や試験などの都合を考慮しないシフトの強要
③長時間労働、深夜勤務、遠距離へのヘルプ
④「バイトリーダー」として、社員や同僚アルバイトたちからの業務上の緊急トラブルへの勤務時間外における電話対応、シフト調整や新人バイトへの教育などの管理責任体制への組み込み
 
さらに、下記のように労働法上、明らかに違法な行為となるケースもあります。
 
①準備や片付け時間に対する賃金や残業代など一部賃金の不払い
②販売・営業ノルマや自腹購入を強要するような圧力、罰金(ノルマを達成できなかった場合に自腹で商品を購入する「自爆営業」、アパレル店舗で制服として店の商品を買わされるといった商売道具の自腹購入、レジの清算で誤差が発生した場合にその差額を支払わせたりするなどの失敗に対する金銭的ペナルティ)
 
これらが重なり合ったうえで、学生の責任感を利用したり、契約違反・損害賠償などを持ち出したり、脅迫・暴力を使ったりして、「辞めたいと思っても、上下関係や暴力を利用して、辞めさせてもらえない」状況に追い込まれることが大きな問題です。
 
――ブラックバイトはどんな要因で生じてしまったのでしょうか?
 
ブラックバイトの報道が特に頻出したのは、2014〜2015年でした。当時、アルバイト労働市場が企業側の買い手市場に傾いたことが、ブラックバイトが出現した要因の一つでした。学生はアルバイトの選択肢が少なかったため、やむをえずブラックバイトを選び、続けざるを得ないという状況があったのです。雇用側も、学生がアルバイトを簡単にはやめられない状況を悪用していたと考えられます。
 
また、現代ではアルバイトが日常化し、「社会経験を積むため」という理由でアルバイトをする学生が増えています。アルバイト先を「正しい社会」だと思い込み、社会の一般常識を疑う前に、ブラックバイトの考え方や働き方に染まってしまう恐れがあります。

 
 

「コロナ禍のバイト」「留学生バイト」のこれから


――コロナ禍のアルバイトには、労働市場の観点からどんな影響があったでしょうか?
 
現在ではアルバイトをする学生の4割以上が飲食業に従事しています。しかしコロナ禍における飲食業は、旅行・宿泊業などと並んで客足が激減しました。客の減少は「ニューノーマル」となり、2021年9月末の緊急事態宣言解除後も大幅に回復していないのが現状です。
 
ただ、今のところはコロナ禍でも有効求人倍率は高く推移しており、雇用は大きくは落ち込んでいません。労働市場が落ち着いたあと、企業の売り手市場でなくなった場合に、飲食業に従事していた学生たちがどこに移っていくのか、注視しています。
 
――留学生バイトの課題はどんな点ですか?
 
授業期間中のアルバイト従事率は、日本人学部学生と比べて、留学生の方が圧倒的に高く、労働時間も長いのが現状です。
 
日本学生支援機構が発表した「私費外国人留学生生活実態調査(2017年度)」によると、アルバイトに従事する理由を見ると、「日本での生活を維持するために必要だから」が70.3%、「日本人との交流等の良い機会になるから」が20.9%です。多くの日本人学生がアルバイトをする理由である「教養・娯楽等にあてる費用を得るため」は5.8%で、きわめて少ない現状が見て取れます。
 
日本での生活を維持するために、最低賃金に近い労働条件で、日本人学部学生に比べて長時間労働をしている留学生が多いことは改善の必要な点です。

 
 

人間らしい労働を守っていくために


――これからのアルバイトを考える上で、企業はどんな点に留意すればいいのでしょうか?
 
当たり前ではありますが、人間らしい労働を守っていくことだと考えています。
 
チャールズ・チャップリンが製作・主演した映画『モダン・タイムス』(1936年)をご存知でしょうか。チャップリンが演じるのは、ベルトコンベアに乗って次々と流れてくる組立品のネジ締め係でした。労働者のリズムなどおかまいなしに流れてくるネジを、始業から昼休みまで締め続けた彼は、昼休みになっても手が勝手にネジ締めの動作を続けてしまうのです。
 
効率を追い求めて工場労働に導入されたベルトコンベアシステムがいかに非人間的であるかを、喜劇として辛辣に風刺したわけです。
 
『モダン・タイムス』の世界観は、現代では接客サービスにも当てはまるかもしれません。厳密なマニュアル運用が徹底され、店員はどの顧客に対しても同じ言葉で応対することを求められ、同じサービスを提供させられることになります。基本的に例外は認められず、顧客が来るたびに同じ言葉・同じサービスを繰り返すことを強いられるのです。
 
合理化・効率化・功利化を目標に据えた管理が浸透しているなかでも、アルバイト従事者の人間らしさを守ることは、世界のビジネスの潮流にも合致しているところです。
 
ビジネスと人権、ESG投資(環境、社会、ガバナンスを重視する投資)、そしてSDGs(持続可能な開発目標)などの動きを通して、世界でも人を大切にすることが求められています。
 
――人間らしい労働を守るためには、企業はどんな行動を取れますか?
 
労働者がアルバイトであっても、育てる視点が大事ではないでしょうか。例えば、ファミレスなどでアルバイト従業員を中心に店舗を運営している場合なら、配膳、レジ、厨房などの職種を変えてさまざまな経験をしてもらう、といったことです。
 
さまざまな職種を経験することによって、アルバイト労働者の側も新たな発見や成長の機会を得やすいと思います。意欲がある学生には勉強になるはずです。
 
学生側は将来を見据えてインターンシップのような要素のあるアルバイトを選び、企業側も、育てる意識を持って幅広い職種の提供、教育機会の確保をしていくべきです。
 
ひいては、アルバイトに限らず、正社員など全ての雇用形態に通じる考え方になっていくのではないでしょうか。

 
 
 

<取材先>
教育社会学者 岩田弘三さん
文科省大学入試センター研究開発部助手などを経て、武蔵野大学人間科学部教授、博士(教育学)。著書に『近代日本の大学教授職』(玉川大学出版部)、『アルバイトの誕生 学生と労働の社会史』(平凡社)など。
 
TEXT:遠藤光太
EDITING:Indeed Japan + ノオト

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