シングルマザーの就労支援が子どもの貧困解決の鍵に
——「シングルマザーのためのオフィスワーク就労支援プログラム」をスタートした経緯を教えてください。
黒澤さん:東京スター銀行では以前からCSRの取り組みとして、困難な状況にある子どもの支援を行ってきました。虐待防止を呼びかけるオレンジリボン運動への参加や、児童養護施設の子どもたちの自立支援などにも取り組んでいます。
活動を重ねる中で、子どもの貧困に対してさらに重点的に取り組むべきではないかという声が、2018年に行内であがりました。そこから行内でミーティングを重ね、20を超える施策候補の中から選んだプロジェクトのひとつが「シングルマザーのための就労支援」です。
——シングルマザーの就労支援に着目したのはなぜですか。
黒澤さん:現在の日本では、約7人に1人の子どもが相対的な貧困状況にあると言われています。なかでも1人親家庭の貧困率は5割超。単純な経済的困窮だけではなく、様々な不利を同時に抱えることで起こる「次世代への貧困の連鎖」が問題視されています。
日本のシングルマザーは、就労率が8割(※1)と他国と比べて高い水準にあるにも関わらず、就労収入が低いことが大きな課題です。その背景の一因には、結婚や出産を契機にキャリアが断絶され、再就職時にパートタイマーや派遣社員など非正規労働での雇用がメインになっていることが挙げられるでしょう。雇用形態や収入の男女格差などを解決するためには、シングルマザーの就労を支援し、自社で採用する機会も設ける必要があると考えました。
※1「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」(厚生労働省)
民間企業の強みを生かした、就労支援プログラム
——就労支援プログラムは、具体的にどのような内容なのでしょうか。
黒澤さん:1日5時間、隔週開催で全8回の講座を通して、働くことへのマインドセットや基本スキルを身につけ、キャリアアップを目指します。講座内容は、シングルマザーのみなさんの就職活動の助けになるよう、PCスキル講座、ビジネスマナーの見直し、履歴書の書き方など。ひとり親家庭の支援団体であるNPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむの協力のもとプログラムを作成しました。
シングルマザーの場合、家計を1人で担うためのライフプランが必要になります。そのためお子様の教育費、ご自身の老後の生活費など、今後をしっかりと見据えて就労できるよう、家計やメンタル面に関する講座も行っています。
——どんな方が参加していますか。
第1期は、20代〜50代のシングルマザー15名が受講されました。将来に不安を持ち、状況を改善したいと考える方が多いため、参加意欲は高いですね。必要なスキルを身につけるのはもちろん、参加者同士が悩みや不安を共有できる場を作ることも、このプログラムの目的です。
互いの良いところや印象を書き込む、コミュニケーション講座の様子。
——鈴木さんは1期生として、実際にプログラムを受講されていますが、講座を知ったきっかけや受講の決め手は何だったのでしょうか?
鈴木:子どもの手当を受給する際に訪れた区役所の窓口で、講座のチラシを見つけたのが受講のきっかけです。ハローワークや行政主催の案内は何度か目にしていましたが、民間企業の講座は珍しく、とても印象的だったのを覚えています。
実際に受講してみると、どの講座もとても実践的で学びの多い時間になりました。会場が東京スター銀行行内のため、会社の雰囲気を知ることができたり、行員との座談会の機会があったりと、社会復帰すること、働くことをよりリアルに感じることができました。講座修了後に選考にエントリーできるのも、企業が開催する講座の魅力だと思います。
——講座開始前と終了後では、就労に対する心境の変化はありましたか?
鈴木:子どもが幼いこともあり、当初は働くことに対して漠然とした不安を持っていました。しかし、プログラムが進むうちに就労への自信がつき、子どもたちを自分の手で育て上げたいと思う気持ちが強くなりました。
最後の講座で、キャリアコンサルタントと1対1で面談をする機会があり、その際に「大丈夫!」と背中を押していただけたことで、就労への覚悟を決めることができました。シングルマザーの仲間ができたことも、とても心強かったです。
就労プログラムを通して、採用活動にも新たなメリットが
——「シングルマザーのためのオフィスワーク就労支援プログラム」を通して、採用面でのメリットや気づきはありましたか?
黒澤さん:プログラムの受講者は、修了後に通常の中途採用と同じ選考を受けていただきます。その上で、今年は3名が入行しました。通常の選考だと、候補者と話す機会の大部分は面接ということになりますが、このプログラムの受講者は約半年間を通して人柄や能力を知ることができました。
鈴木さん:私は結婚・出産によりキャリアに10年のブランクがあったため、講座開始時は現在のオフィス環境の変化に驚きも感じたんです。ですが、ビジネスマナーやオフィスワークの基本を学び直したり、行員の方と話したりすることで、就労前にギャップやブランクを解消できました。採用いただいた後、実際に働く上でも大きな安心感につながっています。
黒澤さん:プログラム中に当行の行員や職場の雰囲気を知ってもらうので、採用後も双方にギャップがありません。入行後、3名ともすぐにスキルを活かし働いていて、上司からの評価も高く、採用面においてのメリットも強く感じています。
——今後の目標や取り組みについて教えてください。
黒澤さん:今後も「シングルマザーのためのオフィスワーク就労支援プログラム」を継続することで、社会をより良くしていけるよう取り組んでいきたいと考えています。
また、就労支援のプログラムを通して採用を行うことで、当行としても自社に合う人柄や能力を持つ方と出会うことができました。引き続き、当行への就労機会の提供も検討しております。
当行だけではなく、多くの企業がシングルマザーの就労支援に取り組むことが、貧困や就労の問題を解決する近道になるかもしれません。この活動に興味を持っていただけるようでしたら、情報提供も行いますので、ほかの企業のみなさんと一緒に社会を変えていけるといいなと思っています。
<取材先>
東京スター銀行
経営企画部 事業企画・CSR推進 黒澤和世さん
本社勤務 鈴木秋穂さん(仮名)
東京スター 子ども応援プロジェクト
TEXT:ユウミ ハイフィールド
EDITING:Indeed Japan + ノオト