健康保険法上の被扶養者の認定基準とは
そもそも健康保険法上の被扶養者とは、健康保険の被保険者に扶養されている家族などで一定の要件を満たす者を指します。被扶養者のけがや病気、死亡、出産などの際には、被保険者と同様に保険給付を受けることができます。
被扶養者は家族などであれば誰でも認められるものではなく、一定の要件があります。この要件には、「被扶養者の範囲」と「収入の基準」があり、双方を満たして初めて健康保険上の被扶養者と認定されます。
なお、以下の要件は、今回の新しい基準が適用されても変わらずに適用されます。
◆被扶養者の範囲
・被保険者との同居が要件にならないケース
被保険者の父母、祖父母などの直系尊属、配偶者(内縁関係含む)、子(養子含む)、孫、兄弟姉妹で、被保険者に生計を維持されている人が該当します。
・被保険者との同居が要件になるケース
- 被保険者の三親等以内の親族(ただし、前記に該当する親族は除きます)
- 被保険者の配偶者で、戸籍上婚姻の届出はしていないが、事実上婚姻関係と同様の人の父母および子
- 2の配偶者が亡くなった後の父母および子
また、令和2年より、被扶養者の認定要件に「国内居住要件」が追加されました。しかし、以下の場合は日本国内に住んでいなくても例外として認められます。
- 海外で留学をする学生
- 外国に赴任する被保険者に同行する者
- 観光、保養またはボランティア活動、その他就労以外の目的での一時的な海外渡航者
- 被保険者の海外赴任期間に当該被保険者との身分関係が生じた者で、上記2と同様に認められる者
- 1〜4までに掲げられるもののほか、渡航目的その他の事情を考慮して日本国内に生活の基礎があると認められる者
◆収入の基準
・認定対象者(被扶養者)が被保険者と同居している場合
認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であり、被保険者の年間収入の2分の1未満であること。
・認定対象者が被保険者と同居していない場合
認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であり、収入が被保険者からの仕送りに満たない額であること。
◆夫婦共同扶養の場合の被扶養認定の取り扱いが明確化された背景と目的
夫婦共同扶養の場合の被扶養認定の取り扱いが明確化された背景には、夫婦共働きが主流となったことと、女性のキャリアが妊娠・出産で分断される機会が少なくなり、夫婦で年収に開きが少なくなってきたことなどが考えられます。
このような変化に伴い、夫婦共同扶養の場合の被扶養者認定に関して、子どもがどちらの扶養に入るかが決定されるまでに期間を要してしまい、手続きが遅れ、子どもが無保険になるなどの不都合が生じてしまうケースが見受けられます。そこで、令和元年に「健康保険法」の一部が改正され、これらの不都合を防止するための明確な基準を策定するという附帯決議がなされ、今回の基準の明確化となったわけです。
◆夫婦共同扶養の場合の被扶養認定の明確化のポイント
今回の通達のポイントは以下のとおりです。
・夫婦とも被用者保険の被保険者の場合
- 原則として、被扶養者の数にかかわらず、被保険者の「年間収入」(過去、現在、将来の収入などから今後1年間の年収を見込んだもの。以下同じ)の多い方の被扶養者とする
例)夫婦が共に被用者保険の被保険者の場合、子は年間収入の高い方の被扶養者になる。 - 夫婦の年間収入の差額が多い方の1割以内である場合は、届け出により「主たる生計維持者」の被保険者とする
例)夫婦ともに被用者保険の被保険者で子が夫の被扶養者になっている場合。妻の年収の方が高くても夫婦の年収額の差が1割程度に収まれば、子は夫の扶養のままでいい。 - 夫婦のいずれか一方が共済組合の組合員であって、その者に「扶養手当等」が支給されている場合は、当該子についてはその者の被扶養者として差し支えない
例)妻が共済組合の組合員で子が被扶養者である場合。子にかかる扶養手当を支給されているときは、子は妻の扶養に入ったままでいい。
・夫婦の一方が国民健康保険の被保険者である場合の例外
- 「夫婦とも被用者保険の被保険者の場合」の基準が適用されるが、被用者保険の被保険者と国民健康保険の被保険者では、比較対象が以下のように異なる
被用者保険の被保険者について……前述の年間収入
国民健康保険の被保険者について……直近の年間所得で見込んだ年間収入
今回の通達によって、企業が対応すべきことは?
夫婦共同扶養の場合の被扶養者認定の取扱いの明確化により、企業が対応すべきことをケース別に確認します。
◆(新規)新入社員で被扶養者として子を申請する場合や結婚・出産などで子を被扶養者とする従業員への対応
これまでの確認事項に加え、以下を確認する必要があります。
- 配偶者が健康保険の被保険者かどうか
- (1が「はい」だった場合)配偶者の1年間の年収の見込み額
- (2でほぼ同額だった場合)主として生計を維持するのはどちらか
◆(既存)既に子を被扶養者としている従業員への対応
定期的に、けんぽ協会や健康保険組合から事業主宛に扶養状況の再確認の書面が届きます。会社は被扶養者のいる従業員に今回の新基準の内容を説明し、新規のときと同様に1〜3の状況を申告してもらいます。
この申告内容を扶養状況の再確認の書面に記入するとともに、扶養の削除や新たな被扶養者の追加などの手続きが必要な場合は会社に申請するよう伝えましょう。
ちなみに、従業員の被扶養者に増減があった場合、会社は年金事務所または健康保険組合に「健康保険 被扶養者(異動)届」を提出する必要があります。この手続きは、変更があった日から5日以内に行うことになっています
今回の被扶養認定に関する通達により、夫婦共同扶養の場合の被扶養者認定の明確な基準が設けられました。会社として適切に対応するためには、明確化の基準を正しく理解し、従業員に必要な事柄を申告させたうえで正確に手続きすることが大切です。
※記事内で取り上げた法令は2021年7月時点のものです。
<取材先>
社労士法人ビルドゥミー・コンサルティング 代表 特定社会保険労務士 望月建吾さん
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト