IT・STEM分野のジェンダーギャップをどう考える?
NPO法人Waffleが進めるアクション、これからの職場のあり方
エンジニアは男性が力を発揮する職業、理系といえば男性――あなたには、このような先入観はないでしょうか。大学進学において工学部などの理系に進路を取り、技術職に就く女性が少ないことは、IT・STEM(科学・技術・工学・数学)教育分野の男女格差、つまりジェンダーギャップをもたらしています。
そんな問題を指摘しているのが特定非営利活動法人Waffle(ワッフル)です。IT・STEM分野で活躍する女性を増やすため、10代の女子およびジェンダーマイノリティを対象としたITプログラムやアプリコンテストの実施など様々な活動を進めてきました。今回はWaffle代表の田中沙弥果さんに、現在の職場におけるジェンダーギャップの現状と課題、解決に向けたアクションについて聞きました。
そんな問題を指摘しているのが特定非営利活動法人Waffle(ワッフル)です。IT・STEM分野で活躍する女性を増やすため、10代の女子およびジェンダーマイノリティを対象としたITプログラムやアプリコンテストの実施など様々な活動を進めてきました。今回はWaffle代表の田中沙弥果さんに、現在の職場におけるジェンダーギャップの現状と課題、解決に向けたアクションについて聞きました。
公開日:2023/07/28
Profile田中沙弥果
特定非営利活動法人Waffle 理事長。2017年に特定非営利活動法人みんなのコードに入職。全国20都市以上の教育委員会と連携して教師のプログラミング教育を支援するなど、多くの事業を推進した。IT分野のジェンダーギャップの解消を目指し、2019年にWaffleを設立。2020年には日本政府主催の国際女性会議「WAW!2020」にユース代表として選出され、Forbes JAPAN誌「世界を変える30歳未満30人」も受賞。内閣府若者円卓会議委員、経産省デジタル関連部活支援の在り方に関する検討会の有識者も務める。Waffleの著書に『わたし×IT=最強説 女子&ジェンダーマイノリティがITで活躍するための手引書』(出版社:リトル・モア)。
IT領域でのジェンダーギャップの実態とは
――IT・STEM分野のジェンダーギャップについて教えてください。
IT技術者の数は男性が約15万人に対して女性が約4万人で全体の21.1%(※1)。日本ではエンジニアという職業において圧倒的な男女差があるのです。
その視野を世界に広げてみても、このギャップは目立ちます。日本の工学部の女子学生比率は、38カ国の先進国が加盟するOECDの中で最下位の約16%。サイエンスやエンジニアリング関連の仕事に興味を持つ15歳女子の割合も約3%と最下位(※2)で、どこの国と比べても低いのが現実です。
高校1年相当の学年が「ICT関連の職業に就くことを期待している」と答えた割合
――ジェンダーギャップの問題が明らかになる中、私たちの社会にはどのような影響があるのでしょうか。
IT人材の不足は待ったなしの課題です。経済産業省は「2030年にはIT人材が最大で約79万人も不足する」と試算しています(※4)。今後、私たちの社会ではICT、AI、ロボットなどの活用は不可欠です。そこで、IT業界を担う人材不足は深刻な問題になるでしょう。
ロボットを活用した生産性の向上やリスキリングも重要ですが、人口の約半数を占める女性に活躍してもらうのが合理的です。女性にIT技術職を目指していただくこと。それが日本社会にとっても、技術者の人材不足を解消するという点でも大切だと考えています。
Waffleが出場者を支援している国際的なアプリ&ビジネス開発コンテスト「Technovation Girls」
――女性にとって、IT技術者を目指すメリットは何ですか。
ジェンダーギャップの一つは男女の賃金格差です。日本では研究職などで同じ職種に就いていても、女性の賃金が低くなりがちです。その点、IT技術職は成果報酬に重きをおいているため、同じ仕事に就く男女間の賃金格差はほかの業界と比べて比較的小さいと言えるでしょう。
そして、リモートワークやフレックス制を採用している企業が増えており、IT技術者は柔軟な働き方ができるのが特徴です。そのため、出産や育児といたライフイベントがあっても、キャリアを断絶することなく働きやすい傾向があります。
Indeedが「IT技術関連職のジェンダーギャップ」に関する実態調査を2022年に行っていますが、そこでも「子育てを理由とする休暇を申請しやすい」「勤務時間の調整がしやすい」というIT技術関連職のメリットが明らかになっていました。個人の働きやすさを考えても、IT・STEM分野には女性やジェンダーマイノリティがどんどん進出していってほしい。私はそう考えています。
多様性を持った職場環境が求められるのはなぜか
――田中さんは精力的な海外視察を通して「IT人材が求められるのはテック業界だけではない」という気づきを得られたそうですね。掘り下げてお聞かせください。
先日、アメリカのカンファレンスに参加してきました。3日間で2万人の女性の技術者が集まる大規模なものです。そこではIT企業だけではなく、外食産業のマクドナルド、ホテルチェーンのヒルトン、自動車産業のフォードなど、様々な業界から企業が出展し、エンジニアなどIT技術職の採用に力を入れていました。
日本よりもさらに先をいって、どの業界においても、テクノロジーの活用やDX化を見据えた人材採用を進めているのです。エンジニアの需要と供給にギャップが生じる中、女性のIT技術者に大きなチャンスがあります。
――AIやIoTなど、社会の発達にはITが欠かせません。IT分野に多様な人材がいないことのデメリットとして、どのようなことが考えられますか。
歴史を振り返ると、科学技術の発展に女性の存在が抜け落ちていることが、大きな問題につながっているんです。
たとえば、これまで自動車の衝突実験を行う際に使用するダミーの人形などは、男性の体をモデルに製作されていました。つまり、女性や妊婦が事故に遭った場合の影響を十分に想定することができていなかったのです。2002年に、ようやくボルボ社が妊娠36週目の妊婦を想定したバーチャル人体を使用して実験を行うようになりました。現在は他社も追随しているようですが、2002年まで女性の体を想定しなかったなんて怖いですよね。
また、薬についても、女性の体に起こり得る副作用を正しく把握できていないケースが存在しています。というのも、治験に使われる実験体の男性割合がとても多いため、女性の体に対する影響がしっかり計測できていないリスクがあるんです。実際にアメリカでは、薬が販売されてから女性の副作用リスクの高さが判明して、認可が取り消された、という事案も発生しています。
このように科学技術の世界で女性の存在が抜け落ちることのデメリットは身近に存在しているんです。同様のことがIT技術でも起きています。なぜIT分野に女性やジェンダーマイノリティーが必要かというと、ITがこれからの社会基盤を作るからで、異なるジェンダー間で不平等や不利益が起きてはいけないと思っています。
例として、スマートスピーカーやスマートフォンの音声アシスタントには、そのキャラクターが女性であったり女性のような声を採用していたりするものが多くあります。これによって「女性は命令しやすい」「女性はサポートする役割だ」というバイアスができてしまいます。こうした“結びつき”は、プロダクト開発者の中にジェンダーに対する無意識の偏見があることで生まれます。IT分野の作り手は多様でなければいけません。
ビジネスパーソンが意識し、どのようにアクションしていくべきか
――IT分野の男女格差の背景、ジェンダーギャップを解消すべき理由が分かりました。これらを解消するため、どのようなことができるのでしょうか。
私たちは2019年にWaffleを立ち上げました。IT分野のジェンダーギャップを解消すべく、中高生から大学生までの女性およびジェンダーマイノリティをサポートして、IT技術者を目指す女性の母数を増やそうと考えたからです。
学校でプログラミングの授業を行うと、小学生であれば女の子も男の子も楽しくプログラミングに取り組むのですが、中高生になると差が開いてしまいます。プログラミングコンテストやイベントの参加者を見ると、男子20人に女子1人という比率だったこともありました。あんなに楽しそうにしていた小学生の女子児童たちは、どこへ行ってしまうのか。私たちは、まず10代女性やジェンダーマイノリティからサポートすることで、この状況を何とか変えようと思っています。
Waffleのイベントに参加する女子中高生
- ジェンダーギャップの課題を知り、価値観をアップデートする
- 採用の段階で、ITやSTEM分野において少数者である女性やジェンダーマイノリティへの間口を広げる
- 管理職への昇進時に女性やジェンダーマイノリティへの機会を拡大する
採用の段階でマイノリティに門戸を広げることも大切です。工学部の女子学生比率が低いままでは、労働市場にそもそも女性エンジニアが少ない中でのパイの取り合いにしかなりません。ぜひ企業には、文系の学生にも機会を拡大し、社内でIT研修などを実施し、文系出身者がIT技術職につけるような体制を検討いただきたいです。
最後に、人材の昇進についても課題が残ります。日本は女性管理職が少ないのが現状です。とある企業が公表していたケースでは、管理職候補者のリストを作成すると無意識のうちに男性に偏ってしまい、優秀な女性人材がいても漏れてしまう現状があるそう。上司がリストの作成者に対して、もう一度「女性はいないの?」と念押しすると、「そういえば彼女もいましたね」と候補者に気がつくといいます。
その女性の能力は認めているものの、女性メンバーが候補から外れてしまうことがあるのです。昇進の公平性を担保するためにも、候補者リストには意識して女性やマイノリティが候補から外れてないかを意識し、管理職に多様性を持たせていくことが望ましいでしょう。
――組織が意識すべきポイントが分かりました。では、職場でジェンダーギャップを考えるため、ビジネスパーソンはどのような意識、取り組みが求められるでしょうか。アドバイスをお聞かせください。
ジェンダーギャップについて知り、学んだことを積極的にアウトプットしていってほしいですね。SNSを通して発信したり、グループで勉強会を開いたりするのも良いでしょう。
特に、社内に向けた発信は効果があります。たとえば、先日Waffleが出した書籍でもロールモデルエンジニアとして紹介している神谷優さんは、過去に私の講演を聞いてプロボノ(職業上のスキルや経験を生かした社会貢献活動)としてWaffleの活動に参加してくださるようになった方です。女性エンジニアの少なさに危機感を覚え、勤め先のサイバーエージェントでDE&Iのプロジェクトを立ち上げました。社内のエンジニアに向けてIT業界ジェンダーギャップ勉強会を開催するなど、自分の所属する環境で積極的な取り組みを続けています。ジェンダーギャップの解消にとどまらず、ジェンダーマイノリティや外国籍の方も含め、多様性を持ったメンバーの視点を開発に生かそうとしているそうです。
小さなことであっても、まずは発信してみる。その一歩からムーブメントが生まれます。価値観をアップデートしながら、まずは一歩を踏み出していってほしいと思います。
社会への取り組み
Indeedは、「We help people get jobs.」をミッションとし、
あらゆる人々が自分に合った仕事を見つけられるような社会の実現を目指して、
人々が仕事やキャリア形成に向けて多様な可能性を感じられる機会の創出に取り組んでいます。
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