職場における「女性活躍」のこれから
2022年4月、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)が改正されました。
女性の就業に関するさまざまなルールがアップデートされていますが、それによって女性は本当に活躍できているのでしょうか? 名古屋市立大学准教授の菊地夏野さんに、女性活躍の歴史と問題点、そして今後の課題について伺いました。
女性の就業に関するさまざまなルールがアップデートされていますが、それによって女性は本当に活躍できているのでしょうか? 名古屋市立大学准教授の菊地夏野さんに、女性活躍の歴史と問題点、そして今後の課題について伺いました。
公開日:2023/06/30
女性の雇用環境はどう変化してきたか
日本における「女性の雇用」の歴史を振り返ったときに、女性を取り巻く環境が大きく変わったのは、1985年に制定された男女雇用機会均等法です。それまでは基本的に男女別で求人・募集・雇用管理を行なっていた日本企業が、「総合職」「一般職」といったコース別雇用制度を導入するようになったからです。以降、企業は「女性のみ募集」といった性別に限定した募集の打ち出し方や、女性だけの若年定年制や結婚退職制などの規定を禁じられました。こうして性別を明示しない「平等な」求人活動や雇用管理が行われるようになると、当時の好景気も加わって多くの女性の正社員が誕生しました。しかし、雇用の実態としては、明らかな男女別から「総合職=男性」「一般職=女性」という間接的な性別管理に移行したに過ぎません。
他方で、非正規雇用が規制緩和され、働く女性の「数」は増加の一途をたどっていきます。働く女性の総数は増えたものの非正規雇用であるケースが圧倒的に多い、という状態は、80年代から現在までの日本社会においてずっと共通しています。
このように、女性の働き方それ自体は多様化しているのですが、多様化=不安定化と捉えることもできるでしょう。
「働く女性」は楽になったのか?
これらの状況を踏まえて、「女性にとって働く状況が楽になったか?」と問われれば、必ずしもそうではないのが現実です。背景の一つには「育児や家事は女性の仕事」という社会の刷り込みがあります。女性の家事の負担が大きいことは昔も今も変わりません。男性の働き方も大きな変化がなく、それどころかよりキツくなっていると指摘する研究※もあります。
また、日本企業に多く見られる「女性に期待しない空気」も見過ごせません。「男性が中心、女性はサブで」という保守的な思考からの脱却を、企業側もまた意識すべきでしょう。
2022年4月には、女性活躍推進法が改正されました。この女性活躍推進法の改正の発想の基盤は、男女平等ではなく「女性を日本経済にどれだけ効率的に用いるか」であると言えます。女性管理職の増加や管理職の意識改革が謳われていますが、管理職の激務が改善されなければ、安心して昇進を望める女性は増えません。女性が伸び伸びと働ける社会をつくるには、労働環境を根本から見直す必要があります。
妊娠、育児のライフイベントにどう向き合う?
女性活躍を掲げながらも、「採用してもすぐに妊娠・出産となると困る」との理由から、女性の採用を控える企業は少なくありません。内閣府男女共同参画局による調査※では女性の主流は結婚・出産しても働き続けることを希望していることが明らかであるにもかかわらずです。しかし、現実には正社員を雇う余裕がない企業が「働くママを積極採用」と打ち出して安い時給で女性を雇用するなど、企業にとってのみ好都合な「女性活躍」のケースも残念ながら見受けられます。育児経験者は子育てを通じてさまざまな経験を培っている、高いスキルを持つ人材です。自信を持って、自分の働きがどれだけ企業に貢献できるかという視点を持つことも、労働環境改善に向けて企業と交渉するうえでは重要です。
今の時代、復職・転職は誰の人生にとっても当たり前にある選択肢です。そのステップをスムーズに越えたいのであれば、常に情報をキャッチして、社外のさまざまな集まりにも顔を出し、働く人々の会社を超えたつながりを作っていく努力を積み重ねていきましょう。一見すると遠回りに思えますが、長い目で見ればパワーになるはずです。
もちろん、並行して男性の働き方も変えていく必要があります。たとえば、男性育休の現実が「出産立会いの1日だけ」というケースも珍しくありません。しかし、男性にもプライベートの生活や趣味があり、それが充実してこそやりがいをもって働けるものです。
働く側の個々人がこうした現状に向き合うためには、「自分のニーズを強く主張する」行為が求められます。日本は憲法や法律で働く人の権利が諸外国以上に認められているにも関わらず、実態としては大多数の労働者側が権利を使いこなせていません。教育で権利を主張する大切さを教わってこなかったこと、メディアもそれを啓発しないことなどが理由として考えられますが、権利を主張することをタブーとする風潮もあるでしょう。
政府の言う「女性活躍」といった外部の評価に惑わされるのではなく、自分自身の感覚や考えを大切にすることが大事です。
本当の「女性活躍」を目指すために
貧困リスクが高い女性のほとんどは非正規労働者であり、日本の非正規雇用は企業にとっては常に必要な存在にもかかわらず、待遇が不安定です。本当の意味での女性活躍推進を目指すためには、こうした現状を従順に受け入れるのではなく、労働者側も企業に依存しない意識を持つことが欠かせません。企業に自分の生活を捧げるのではなく、より広い視野を持って、自分を守る権利を学んだり、たくましく働き続ける方法を考えたりすることもよいでしょう。
困ったときは労働組合やユニオン(地域ユニオン、女性ユニオン、非正規ユニオンなど)に相談する選択肢があることも常に頭の片隅に置いておきましょう。横のつながりをつくり、仕事も生活も充実させる。それがひいては日本を変えることにもつながる可能性があります。
また、男性労働者側も男性だけで全てを決定し、利益も享受する“ボーイズ・クラブ”に未来はないことを自覚すべきでしょう。この構造を変えるためには、性別ではなく、本当に会社に貢献している人材、大勢を引っ張っていける力を持った人材を見極める努力が必要です。組織のあり方として、従来のトップにばかり責任を集中させる形式を見直すことでもあります。ボトムアップで意思をすくいあげ、すべてのスタッフが決定に関われる、開かれた企業こそが今の時代は求められています。そのような会社づくりをするうえでは、リーダーに求められる要件もかわってくるでしょう。
女性が働きやすい環境の実現は、女性だけでなく男性も含めて、あるいはセクシュアル・マイノリティの存在も含めて、一人ひとりの多様な存在を認め、それに見合った働き方に企業を変えていくことにも関わります。そのニーズはこれまでになく高まっています。意識だけでなく制度も変えるための働きかけが求められます。
取材先
名古屋市立大学准教授
菊地夏野 さん
1973年、宮城県生まれ。名古屋市立大学人間文化研究科准教授。専門は社会学、ジェンダー/セクシュアリティ研究。単著に『ポストコロニアリズムとジェンダー』(青弓社)、『日本のポストフェミニズム』(大月書店)。共編著に『クィア・スタディーズをひらく1 アイデンティティ、コミュニティ、スペース』(晃洋書房)など。
菊地夏野 さん
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