職場での差別にどう対処する?
マイクロ・アグレッションの定義と具体例

差別の一種を表す言葉に「マイクロ・アグレッション」があります。無意識のうちに行ってしまっている可能性があるマイクロ・アグレッションとは、一体どのようなものなのでしょうか。マイクロ・アグレッションの定義や対処法などについて、社会学者の下地ローレンス吉孝さんに伺いました。
公開日:2024/03/13

マイクロ・アグレッションは、「ありふれた日常」の中にある

——「マイクロ・アグレッション」の定義を教えていただけますでしょうか。
マイクロ・アグレッションについて詳しく書かれた『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション――人種、ジェンダー、性的指向:マイノリティに向けられる無意識の差別』では「ありふれた日常の中にあるちょっとした言葉や行動や状況であり、意図の有無に関わらず、特定の人や集団を標的とし人種ジェンダー、性的指向、宗教を軽視したり侮辱したりすること」とされています。

マイクロ・アグレッションは、「小さな攻撃」などと訳されてしまいがちなのですが、この場合の「マイクロ」は、「ありふれた日常の中にある」という意味合いです。ですから、マイクロ・アグレッションを「些細なこと」と軽視しないよう、注意していただきたいですね。
——どのようなことがマイクロ・アグレッションに該当するのでしょうか。
たとえば、外国にルーツがあるけれども、日本で生まれ育った日本国籍の方がいたとします。その人に対して、外見だけを見て日本語が話せないと思い込んでしまい「日本語上手ですね」と言ってしまうことは、マイクロ・アグレッションの典型的な例です。
——褒めるつもりで言った言葉でも、マイクロ・アグレッションにあたることがあるのですね。
このケースの問題点は、「日本語上手ですね」という言葉の陰に、「(外見から判断して)あなたは日本人ではないのに日本語が上手だ」というメッセージが隠れていることです。日本で生まれ育ち日本語を母語とする日本国籍の方に、外見だけを見て「日本語上手ですね」と言うのはやはり不自然ですよね。外見=言語能力というわけではないからです。

言った側は「日本人とはこういうもの」という無意識の偏見を持っていて、そうした偏見に合致しないと思っているからこそ「(あなたは日本人ではないのに)日本語上手ですね」という言葉として発してしまうわけです。そうなると、言われた本人にとっては褒め言葉にはならないどころか、「あなたは日本人ではない」という排除のメッセージとして届いてしまいます。
——マイクロ・アグレッションは差別の一種ですよね。たとえば、外国籍の方を雇用しないといった差別も、マイクロ・アグレッションに含まれるのでしょうか。
先ほどお伝えしたように、マイクロ・アグレッションは「日常の中にあるちょっとした言葉や行動や状況」を指します。つまり、上司と部下や同僚同士、取引先の相手といった対人関係レベルにおいて起きる出来事は、マイクロ・アグレッションに分類されます。一方で、外国籍の方を雇用しないといった差別は、組織全体や制度上の話です。どちらも差別ではあるのですが、それぞれ指し示す意味が異なると言えますね。

ただし、意味が異なるからといって、マイクロ・アグレッションと制度的な差別が無関係というわけではありません。各々の偏見に基づいたマイクロ・アグレッションを放っておくと、対人関係において言葉や行動によって傷つけられる人が増えるだけでなく、それがきっかけとなって就職の面接で落とされたり、仕事の評価が下げられたりしてしまう場合もあり、ゆくゆくは構造的な不平等や抑圧、格差の温床となってしまいます。

マイクロ・アグレッションは、ビジネスの場でも起きている

——マイクロ・アグレッションの理解をより深めるために、さまざまなシチュエーションにおける具体例をいくつか教えていただけますでしょうか。
私が聞いた事例をいくつかご紹介します。たとえば、障害のある方が通う施設で、職員が障害のある方に対して、タメ口で話したり幼児に話しかけるように接していたケースがありました。自分よりも目上の方や施設の利用者には敬語を使うのが普通・一般的だとされている中で、たとえ自分が年上であっても幼児に話しかけるように接するのは、相手を尊重していない/「普通ではない」といったメッセージになってしまいます。そうやって対応された方は、「悪気はないのはわかるが、無力感が募る」と話してくださいました。

また、韓国にルーツのある方が「職場にキムチを持ってこないでね」「韓国人なのにキムチ臭くないんだね」と言われたというケースもありました。例えば「日本人なのに納豆臭くないんだね」などのように、自分の人種・民族的なルーツとその国に関連する食べ物のにおいを結びつけて「臭くないんだね」と言われたらどう感じるでしょうか? 相手の偏見や一方的な決めつけゆえに不快な気持ちにさせられることは想像できますよね。
——ビジネスの場で、マイクロ・アグレッションが起きるケースにはどのようなものがあるでしょうか。
ビジネスの場でのマイクロ・アグレッションについて聞くことがあるものの一つは、取引先や会社外の方からのマイクロ・アグレッションです。宿泊施設で責任者として働くある女性は、新しく事業を展開する予定の地域の自治会長に挨拶に行った際に「この地域には日本人以外住まないでほしい」と言われたそうです。この女性の方自身、海外にもルーツがあり、「今の時代にまだそんな事言ってくる人がいるんだと唖然とした」といいます。さらに、同じ方が別の場面でお客様のクレーム対応をした際、自分が責任者であったにもかかわらず「日本人の責任者を出せ」と言われたそうです。

また別の方は、女性責任者と男性の部下という組み合わせで商談に行った際、「男性のほうがポジションが上」という偏見から、男性の部下のほうを上司だと勘違いして彼にばかり話しかける取引先もいたと聞いています。

自分のルーツやジェンダーに関するマイクロ・アグレッションが続いてしまうことで、事業に携わること自体も難しくなってしまうケースもあります。本人の精神的苦痛についてはもちろんですが、優秀な人を職場から失うのは企業としても大きな痛手となります。

マイクロ・アグレッションによって、命の危機に瀕することも

——こうした「マイクロ・アグレッション」を受け続けると、当事者にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
例えば、人種に関するマイクロ・アグレッションの影響は、主に以下の4つとされています。
図表:人種的マイクロアグレッションの影響
下地ローレンス吉孝さんより提供
『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション――人種、ジェンダー、性的指向:マイノリティに向けられる無意識の差別』 p244~p246より
まずは社会や自分自身からの疎外です。これにより、人種差別を内面化してしまって、自分や自分のルーツに対する嫌悪が湧くことがあります。具体的には、自分のルーツにかかわる言語を学ぶのをやめてしまう、海外ルーツのある親や親族との関係が険悪になってしまうといったことなどが挙げられます。

これらが日々蓄積されるとトラウマ的体験となって、ある出来事を機に爆発してしまうことがあります。私の知人に東南アジアの国のルーツがある方で、マイクロ・アグレッションが苦しくて心理学を学んでいる方がいました。その方が参加した心理学の授業のアイスブレイキングで「好きなおにぎりの具について話し合う」という時間があったそうです。そのときに、心理学を教えている大学の教授がその方の顔を見ていきなり「おにぎりってわかりますか?」と尋ねてきたといいます。

これだけ聞くと些細なことに思えるかもしれませんが、彼女はこれまでの人生の中で何度も周囲から「あなたは日本人ではない」というメッセージを暗に受け続けてきたうえで、この教授からの言葉が限界を超える一言になり、「このまま日本にいたら自殺してしまう」とまで思い詰めてしまったそうです。マイクロ・アグレッションの蓄積は、それだけダメージを与えうることなんですね。

実際に、心理的・精神的な疲労がたたって睡眠障害や心臓病のリスクが高まるほか、またマイクロ・アグレッションを受けるのではないかと思うと病院に通えなくなるなど、医療やケアに十分に接続できなくなることもあります。

職場でのマイクロ・アグレッションに対処する「5D」とは

——こうしたマイクロ・アグレッションに対して、被害者本人ができることはあるのでしょうか。
マイクロ・アグレッションを受けた本人がその場で何かしらのアクションを起こすのは、負担も大きくかなり難しいのではないかと思います。

そもそも加害者は自分が相手を貶めるやりとりをしていることに気づいていません。したがって、指摘すると「そんなつもりはない」と逆上することもありますし、「小さいことを気にするあなたが悪い」「褒めたつもりで言ったのだから気持ちを汲むべきだ」などと受け手に責任を負わせることもあります。

このような状況で、相手が差別的な発言をしたことを、相手が理解できるかたちで説明するのは難しいですし、相手との関係を壊したくないことから、ほとんどの人が泣き寝入りさせられている状態です。
——マイクロ・アグレッションに対しては、周囲の人が介入していくことが必要なのですね。実際に、マイクロ・アグレッションが起きている場に居合わせたときに、どんなことができるでしょうか。
マイクロ・アグレッションが起きている場に居合わせたときにできることとして、「アクティブ・バイスタンダー」になることが挙げられます。

アクティブ・バイスタンダーは、目の前で加害が行われているときに第三者として行動する人のことを指し、その行動は5つのD(5D)に分類できます。

一つは「Direct」で、これは差別が起きているときに「それは差別ですよ」と直接的に介入することです。直接介入することが難しければ、モノを落としたり、道を尋ねたりと「Distract(注意をそらす)」し、全く関係のないかたちで介入することもできます。

そのほか、周囲の第三者に助けを求める「Delegate」や、映像や音声を証拠として録っておく「Document」、その場が終わってから「あれはつらかったよね?」「大丈夫だった?」などと、マイクロ・アグレッションを受けた人を後でフォローする「Delay」をする方法もあります。

これらを自分自身の安全を確保した範囲で行えると、差別によって被害者が受ける負担を軽減することにつながります。
——会社としてできることには、どんなことがあるでしょうか。
マイクロ・アグレッションが組織的な差別につながらないようにできることとしては、会社の規則の見直しをすることが挙げられます。人事評価や面接の際に、バイアスがかかった価値判断がないかを検証します。ただし、バイアスがかかっているかどうかは自分たちだけではわかりませんから、第三者を交えた検証が必要です。

たとえば、男女共同参画センターやジェンダーセンターの市民講座や、企業向けに研修を行っているNPO団体の研修、各領域の研究者の記事や論文を読むことが、価値観のアップデートにつながります。インスタグラムなどで情報を発信している団体もあり、SNSの活用も有効です。
——最後に、下地さんから読者に向けてメッセージがあれば、お願いします。
マイクロ・アグレッションはカタカナでとっつきにくいですし、「この言葉も言っちゃダメ、あの言葉も言っちゃダメ」となるとコミュニケーションしづらくなるとおっしゃる方もいるのですが、人間関係を豊かにするための方法の一つと考えると、向き合いやすくなるのではないかと思います。

一方が何でも自由に言えてよくて、一方が傷ついている関係を続けていくのはどうしても難しくなってしまいますよね。もっといい関係を築くためにはどうしたらいいのかを知るために、どんなことが相手を無意識に傷つけてしまうのかを学ぶこと。そういう風にマイクロ・アグレッションを捉えると、より身近な問題として考えられるのではないでしょうか。

いきなり学術的な文献に触れるのがハードル高く感じられる場合は、ウェブ漫画『半分姉弟』をはじめとしたマイクロ・アグレッションを題材とした作品に触れてみるのも良いかもしれません。まずは自分のできることから始めてみてほしいと思います。
取材先
社会学者 
下地ローレンス吉孝 さん
1987年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。港区立男女平等参画センター職員を経て、現在、立命館大学衣笠総合研究機構研究員、ハワイ大学マノア校客員研究員。著書『「混血」と「日本人」 ―ハーフ・ダブル・ミックスの社会史』(青土社、2018年)、『「ハーフ」ってなんだろう?――あなたと考えたいイメージと現実』(平凡社、2021年)。「ハーフ」や海外ルーツの人々の情報共有サイト「HAFU TALK」を共同運営。he/they。

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